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日々の破片

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2024-11-20

_ 荒船風穴

高崎に所用があったので群馬へ行った。用は午前中に終わったので午後、なんだか良くわからんので荒船風穴へ行くことにした。

風穴というから富士の風穴のように溶岩が固まりきる前に風が通って作られた洞窟かと思ったら、なにか石垣で囲まれた竪穴で謎に満ちている。

と、高崎から安中経由で行こうとするのだが、なかなか着かない。高崎から遠いのなんのって下仁田というか群馬を甘く見ていたのだ。

下仁田の町に入ってから道路案内が出たので見ると32kmとか書いてある。えらく遠いではないか。

平日なので第2駐車場という、風穴に近い(200m)ところに行けるのでそこを目指すのだがなかなか着かない。

途中、渓谷への入り口や関東一の鍾乳洞はこちらやら高橋道斎(漢学者にして俳人、郷土史家という江戸時代に突然出て来る田舎の教養人(北越雪譜の鈴木牧之とか)の一人)の墓など、おもしろそうな立ち寄りスポットがありまくるが全部無視するしかない。特に宇芸神社(知らんけど)の入り口がとんでもなく不可思議(道を折れたところに鳥居があり、一直線に向こうの山へ向かった参道がある。ということは神社は山にあるようだ)で興味津々だが今回はあきらめた。

同じく下仁田ネギの販売所やこんにゃく屋(良くわからないが蒟蒻も下仁田の名物らしい)などもあるが通り過ぎる(が、途中で道の駅を見つけたので帰りに寄れば良いやとなった)。

で、平日のみ通行可の山道を登って(紅葉はほぼ終わったらしく紅は少なく黄色が多い)やっと着いたときはほぼ15時30分くらいになっていた。これではろくに見学もできない(16時までのはず)し、帰りに寄ろうと思っていた歴史資料館も無理っぽい(入館は16:30まで)。

で、駐車場からえらい上り坂を上がってやっと着いた。途中、削れまくった庚申塔があったり歴史はありそうな場所だ。

入場料一人500円の二人分をau Payで払うとガイドが来るから少し待てと言われる。

ガイドとは? やっぱり洞穴なのか? と思ったらそうではなかった。

ガイドは最初に番屋跡へ連れて行く。そこで荒船風穴とは何かについてのレクチャーを受けるのだが、なるほどそういうことだったのか。ガイドが無ければただの竪穴をなんだこれ? と眺めるだけとなっていたのだからありがたい仕組みだった。

元々やたらと涼風が噴き出す不思議な山として知られていたのだが、明治になって近く(といっても全然遠い)の春秋館の跡取り息子が、これを使って商売できないかと考える。そうだ、蚕の卵の保存に抜群ではないか。養蚕の肝は温度管理にあり(というわけで以前行った高山社跡の知識が繋がった)。

調査した結果、どうも岩の隙間を冬季に凍った水が溶けて次の冷やされた岩にたまりまた凍り、しかしまた暖まって水が溶け、次の冷やされた岩にたまりまた凍りという具合に完全凍結してマイナスの世界となる冬期を除いて通年零度の風が山から吹きだすことがわかる。

風が通るよう斜面に沿った石垣はゆるく組んであるらしい

そこで、山腹からの風を受ける冬季以外はほぼ零度の2層の竪穴倉庫と、その上に下からの冷気と外気の調整をできるようにした建屋を作り、蚕の卵の保管庫として日本全国の養蚕業者から保管庫として商売を始める。

建屋では孵化の研究をしながら特定温度(忘れたけど)×日数で孵化することから、預かった卵を孵化させて返すようにし、最盛期には1年に6回の孵化にこぎつける(自然では年1回の孵化だから効率抜群)。

と、明治から昭和初年までの世界の絹を一手に引き受ける大日本帝国の経済成長の屋台骨として大活躍となった。

が、太平洋戦争で負けると電気と冷蔵庫の時代がやって来る。何しろ集積場の交通要所から馬の背で7時間の行程となる荒船風穴だから、手元で冷蔵庫が使えるようになった途端に価値がなくなってしまう。

というわけで売りに出したところ好事家が買って多分食料倉庫として利用しようとしたらしいが、冷蔵庫の時代が来ているのだから万事が遅過ぎる。

というわけで建屋は廃屋となり、手前の穴は産業廃棄物の集積所となってしまう。

が、これはまさに貴重な文化遺産であると群馬県が買い取り整備してついには世界遺産となった、ということらしい。

おもしろい。近代産業の発展に大きく貢献した自然をうまく利用した機械が時代の流れで消えてしまうというところが、三鷹の水車を思わせる。

夏になると冷気が吹き出すのがわかるそうだが、そうはいっても4度(寒かった)よりも低いわけで、なるほど確かに冷気を感じる場所がある(案内板があるから気の迷いという可能性もあるが、明らかにそこだけひんやりしているのはわかる)。

番屋の近くに紅葉(楓かも)の落葉が山盛りになっていて、3日前くらいが最高で今は相当散ってしまったということだったり、凄まじい柿の巨木(といっても柿だから幹が太いわけでもない)に驚くほど大量の柿がなっていたり、妙におもしろい場所だった。

というか、山道を歩いていて突如冷気が……のような怪談はその山が風穴山(という名前らしい)と同じような構造なのかも知れないなとか考える。

行く価値あった。実におもしろかった。

それにしても高山にしろ春秋館の息子にしろ、明治の産業界を作った連中は偉かったな(自然科学を使ったベンチャー起業家だ)。


2024-11-17

_ 八犬伝

八犬伝観てきた。

この作品は、もちろん山田風太郎の原作があるから行ったわけだが、映画としてもうまくできていて、実に良かった。

原作は朝日新聞の夕刊連載中に読んでいて、大体忘れているわけだが、四谷怪談を観終わって、奈落の底巡り(見学)をしている馬琴の前に、奈落の天井裏から垢嘗めのようにだらーんと鶴屋南北が登場するシーンだけは忘れようがない。

で、映画もまさにここを物語上の最大の山場/見せ場としている。

芝居が始まると忠臣蔵の鮒侍のあたりで北斎がうんざりして鼻くそほじりながら観ている額縁の忠臣蔵(その時に、忠臣蔵は実話ベースの正義の話だから神、と馬琴は北斎に力説している)の中に不義士田宮伊右衛門の泥沼の悪行を埋め込む構造について、馬琴が南北を詰問する。

南北は平然と、虚の怪談と実の忠臣蔵の足し算、いやそれどころか掛け算、つまりはシナジーを産み出したおれさますげーと言い放つ。

それに対して馬琴は、嘘つき野郎め。何がシナジーだ。てめぇのやったこた、実から虚の引き算で奈落の虚無しか残って無いじゃねぇか。と断言する。

すると南北、いやいやすべてが悪の実こそすべて、実は虚無の虚から実を引いた負の世界こそ、この世の実というものでやしょうと突き放す。

そこで馬琴は圧倒的な四谷怪談という作品の持つ説得力を観せられただけに葛藤するわけだが、それと同時に自分が持つ創作への信念を翻然と悟る。自分はそれまで実が負だからこそ正の虚を描くことで差し引き0に正された世界を描こうとしていると思い込んでいたのだが、実は実こそ0(悪も勝てば正義も勝ち、そこには価値判断可能な実は無い)で、そこに正に正たる虚を上乗せすることで陽に正の世界を読者に提供しようとしていたのだ。

これを演技で表現しているのだから、その点で、明らかに役者の映画であった。馬琴が実に良い。

映画は北斎の、偏屈おっさんの馬琴が凄まじくおもしろい虚の世界を描いていてもそこに(自分が描きたくなるような)画は無いと言うところで始まり(一方、語り聞かされた八犬伝には思わず筆と紙を借りて3枚の画を描く)、偏屈老人の馬琴が1年前まで本を読んだこともなくいろはしか知らないお路に漢字を教えながら八犬伝の完成を目指す姿を外から見て画を見るところで終わる(既に視力を失った馬琴に渡す画は無いので訪ねるのもやめる)。このシーン(の前から)を観ているこちらも北斎のように画が見えるだけに感動的だ。

脚本も映画も虚実を融和させる(それに先立つ明治もので完成させた)山田風太郎の原作を実にうまく生かしている。良い映画だった。

セットも抜群で、渡辺崋山の宗伯の画が飾ってあるのが実に良い。

八犬伝【上下合本版】 (角川文庫)(山田 風太郎)

(本棚のどこかに上下2巻本があるはずだが今度探して読み直してみようか、それとも柳生十兵衛は強いのだを読み返すか、とかいろいろ考える)


2024-11-04

_ クインシー・ジョーンズ

クインシー・ジョーンズってジャヴァンのルースに関わった人としか知らないのだが、プロデュースをしたわけでもなくアメリカでの出版権を取ってルースを作らせた(サムライでスティービーワンダーがハーモニカを吹いているのはその絡みもありそうだけど)ってことなのか。

それにしてもサムライは名曲だしシーナという曲も大好きなのだった。

ルースのジャケットは内藤忠行の写真でこれが抜群で入手したのだった。

思い出したがCBSソニーの何か(これは忘れた)のLPを買ったら帯にアンケートがあったから回答して送ったら青山一丁目の確かツインタワーだと思うが、CBSに呼ばれて(ほかに4人いた)いろいろ消費者調査のQ&Aをされた後に、何か1枚プレゼントと言われたのでジャケットに惹かれてルースを貰ったのだ。

Luz by Djavan (1999-06-19)(-)


2024-11-02

_ Pixel8の修理で詰む

Pixel8の右側に紫の縦線が入って再起動しても消えない。

調べたら、Pixelの問題で1年間保証を過ぎても無料で交換するとかあって、おおそうかと申し込んでセンドバックした。

この時点で、nanacoだけはFelicaだから引継ぎが必要だろうが(で、引継ぎコードの取得とかはやっておいた)、後は普通にGDriveのバックアップから復元できるか、最悪でも再設定で済むだろうと思っていたわけだった。

が、大きな間違いだった。まず、引継ぎ前のマシンと引継ぎ後のマシンが同時に同一場所に存在する大前提のやつがあった。Pixel Watchのデータ引継ぎがそれだ。でも、これはどうでも良いので問題なし。

問題があったのが、実はauのeSIMだった。

まずPCでeSIM再発行しようとしたが、どうあってもできない。そもそもau idにログインできない(正確にはログインはできるが、何かお金がからむ認証が必要なやつがログインできない)。

au idにログインするには、指紋認証が必要なのだが、それは送り返したPixel側だ。で、それができない場合の代替手段が用意されている。WiFiをオフにしてau回線で接続してください…… いや、eSIMが無いから再発行するためにログインしたいのだが。

というわけで詰んだ。auのチャットサポートで相談したところ、auショップで再発行しろ、手続きは3850円。物理ショップはサポートのためであったな。

しょうがないから予約したら最速で明日の昼間。それでは他のアプリのログイン設定するかと、authyはバックアップコードがあるし、authyのOTP系のやつはさくさく進む(Twitterとか)。

が、金系(クレジットカードアプリみたいなの)は、すべて電話をかけてSMS認証すると言い出す…… そりゃ誰でも利用できる固くて比較的安全な方法ではあるとは思うが、電話は使えない状態なのだよ。

いやぁ、物理SIMって本当に良いものですね。と痛感したのだった。


2024-10-12

_ 夢遊病の女

新国立劇場で夢遊病の女。指揮は安定のベニーニ。それにしてもこのクラスの指揮者が安定して振りに来てくれるのは実にありがたいのではなかろうか。

始るとバレエによる黙劇で、鹿の角などを利用している。アミーナと思われる女性がさまよっているわけだが夢遊病なのだろう。歌手の代わりの黙役の人かな? と思ったら本人だった(と後でわかった)。

谷口睦美のテレーザが登場。声量が抜群なので最初ゲスト(海外の招聘)歌手なのかと思った。ちょっとぶっきらぼうな印象がないわけでもないが(特に2幕目の自分が花嫁になれるとうきうきするあたり)、立派な歌手だ。

クラウディア・ムスキオのアミーナ登場。とても代役とは思えないのだが。最初からこの人で良かったのではないか? コロラトゥーラもきれいだしすごく良い。

エルヴィーノ登場。独特の不思議な癖がある声で、あれこの声は聞きおぼえがあるけどシラグーザのようなと思ったら(シラグーザが数年ぶりに来ることは知っていたが、なんとなくロッシーニだと思っていた)シラグーザだった。それにしてもこの人は好きだ。これでチェネレントラ、愛の妙薬と新国立劇場での登場はすべて観ていることになる。

で伯爵登場。すげぇ良い伯爵と思ったら妻屋だった。この人は本当に今や押しも押されぬ大看板だ。歌はもちろん、とにかく立ち居振る舞いにしても細かな動作にしても抜群。(最初に観たのは東京リングのファーゾルトかファフナーで、その時は声量が無いなぁ、日本人歌手ってぱっとしないなぁとか感じたのだが、あれは一体なんだったのだろうか? こんなに立派な歌手なのに)

この演出/演技だと、伯爵はアミーナの父親ということを大きく匂わせる。それだけに部屋にアミーナが入り込んできたとき、思わず手を出しそうになって引っ込めるところに説得力がある(何しろ、時代的にはドン・ジュアンやアルマヴィーヴァ伯爵がうろうろしているわけだから、普通どうなるかは自明で、だからこそアミーナは窮地に陥る)。

細かな演出では、テレーザが落としたスカーフに気付いて拾うのはアレッシオ(地味な役だが近藤圭も良い歌手だ)なので、最後アレッシオがアミーナの母親に託すという設定なのだろう。

最後の教会のシーンで、なんとなく、モダン演出ならアミーナは屋根から落ちて血まみれでお終いだよなぁとか考えていたら、暗転の直前に飛び降りるのには驚いた。どういう解釈なんだ?

カーテンコールでベニーニはまっさきにホルンを讃えていたが、記憶の中ではどこにホルンがあったか良くわからない。森と村なので普通に情景音楽のところにホルンが溶け込んでいたのだろう(くらいにうまい演奏だったのだな)。というか、ベルカントでホルンというのはおもしろいオーケストレーションかも知れない。ベリーニの才能は素晴らしい。

と、歌手、指揮、オーケストラ、演出、舞台、曲どれをとっても抜群だった。良いものを観られた。


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