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日々の破片

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2025-03-20

_ Flow

豊洲でFlow。ポスターで黒猫のアニメということだけは知っていたが、それ以外の情報抜きに観に行った。

森の中で黒猫がうろちょろしているので、羅小黒戦記みたいな話が始まるのかと思ったら全然違った。

かって彫刻家が暮らしていたらしき廃屋に住んでいる。遠くに巨大な猫の彫刻(というよりも岩山を削って猫にしようとして仕掛かったまま作家が死んだっぽい)が見える。

犬に追っかけられて逃げると横から兎が出てきて、犬はそっちを追いかけて消える。ところがその犬が戻ってきて何事かと思うと鹿(ではなくて、多分ライオンキングの親父を殺す大軍のやつ)が走って来ると思う間もなく水が押し寄せて大洪水。

その後、カピバラと一緒に船に乗って旅する途中で火喰鳥(かどうかはわからないけど)に助けられる。

鳥はかって地上を制覇していた恐竜の進化系だけに哺乳類より一足先に社会をうまく構築しているのだが、子供を失くした母鳥(とは限らない)が猫を守ろうとして群れからリンチされて追放刑となる。

船にはさらに光物が大好きな狐猿や犬軍団の中で唯一好意的だった白い犬が乗り込んでくる。他の犬軍団を助けるかどうかで鳥とそれ以外の間で論争が起きて鳥は操縦をやめる。代わりにのっそりしていて蠅がたかっているが優秀なカピバラが船頭の役回りとなる。

黒猫が船に戻ろうとするが仲間たちを乗せたまま船はいなくなっている。狐猿お気に入りで、犬が鳥と遊ぼうとして鳥に捨てられてしまったガラス玉に掴まって水を漂っていると突如水が引く。ここで水が引く様子を木がにょきにょき水面から姿を表すことで描写しているのはうまいなぁと思う間もなく巨大な亀裂が大渓谷となる。凄いスペクタクルだ。

猫がうろちょろしていると狐猿の群れの中で鏡を持っているためにボス扱いとなっている仲間を見つける。徐々に元の仲間が集まり鯨が打ち上げられる。

ヘリポートで鳥と共に黒猫が宙に浮かぶシーンが抜群。動物や鳥はときどき硬くなるが、都市や森、水のテキスチュアの美しさはすごい。

鳴き声以外のセリフいっさい抜きで90分以上を見せるのは(全然退屈することがない)驚きだった。実におもしろかった。


2025-03-14

_ ウィキッド

原作は読んだことがあるが、ミュージカル版は音楽しか聴いたことがなかったウィキッドが映画化されたので観に行った。

原作と違ってミュージカルはもっとノンシャランな友情物語なのかと思っていたら、そうではなく、原作と同じく「自分の頭で考える」(結局はウォークということで、現在のアメリカ合衆国の状況を見ると実に皮肉な感じを受ける)というのはどういうことかというテーマなのにはちょっと驚いた。

その点で本作でのフィエロの立ち位置が実におもしろい。

最初は反知性主義の王者として現れて学問(アカデミズム)を捨てて街に繰り出そう(寺山修司だ)と学生を煽りまくる男(ここのナンバーは実に良い)として出て来る。確かに反知性主義(本来の意味)は、まさに自分の頭で考えることの重要性を問う考え方ではある。

かくして、実はフィエロはエルファバと並んで自分の頭で考えている人間なので、罌粟の魔力に引っ掛からずに目覚めたままでいる(またウォークだ)。

とにかく飽きさせない仕掛けも良くて、エメラルドシティでのパーマの鉄兜の女性群のようなオリジナル映画の引用が大量に含まれている点や、塔から墜落して最後の最後で飛翔する(これって普通に見せ場として考えたのか、それとも『ウィズ』(全然記憶に残っていないようでいて、塔からの墜落とぎりぎりでの飛翔だけは印象として残っているというか、そのシーンだけで他はどうでも良い)の引用なのかな? )の爽快感など悪くない。

原作ではまったくどうでも良い存在だったグリンダを実にうまく使っている(ボックを追いやりたいので適当言った結果、妹がわかってはいても感謝し、エルファバがわかっていはいても先生に推薦して、という連鎖)のもおもしろくて、なるほど、音楽だけ聴いていてもわからない、ミュージカル版の脚本家と音楽家の手腕にも感心した。実にうまい。

おもしろかった。


2025-03-02

_ 蜜の味

妻が図書館でどうも名作らしいといって蜜の味を借りてきたので一緒に観た。

当然、蜜の味(一風堂のカバーしか知らんが、と思ったら一風堂はカバーしてなさそうだから、別のバージョンのようだ)が主題歌かと思ったら全然違って船の童謡で始まる。

孤立した(というのは、母親がすぐに家賃滞納するために一か所に留まることができないからだ)少女、多分17歳くらいが、酒場の歌手の母(多分同年齢で出産と考えると30後半だが、アラフォーらしい。妻は60代だと思ったらしい)とあまり楽しくない生活を送っている。

引っ越し先までのバスで知り合った青年と愛し合うのだが、彼は出航してしまう。だが、別に彼女はどうでも良さそうだ。孤立が続いているため、他者とコミュニケーションが取れないし、理解ができないように見える。

母親はファンか、または興行仲間か、の青年(とはいえ30代)から求婚されて結婚することにするのだが、娘が(他者とコミュニケーションが取れないゆえに)常に不愉快なことしか口にせず、態度も悪過ぎるので、青年は娘とは一緒に暮らせないと言う。

一方、娘は良い機会とばかりに学校をやめてそのまま家出する。

靴屋で働いていると、おしゃれな青年(こちらは良くて20代、10代後半かも)が靴を買いに来る。パレードを観に行ったところで再会し、家を追い出されて(男を連れ込んだので家主から追い出された)行く当てが無い青年と同棲することにする。

・最初の母娘の引っ越しは、母親が男を連れ込んだことが家主を怒らせる原因で、どうも、逆のパターン(男が女を連れ込む)であれば、家主は気にしないのかなぁ? と思った。

二人の楽しい生活が始まる。初めて、彼女は他人とのコミュニケーションを学び始める。

青年は天使のようなやつで、料理も作れて工作もできるので、だだっ広いスタジオのような部屋が少しずつ住みやすくなっていく。

・彼女は近所の子供たちとはコミュニケーションが取れるのが象徴的。

妊娠発覚。

動揺しまくる彼女に対して、青年は保健所(?)に行って赤ちゃん訓練のための人形を借りてきたり、一生懸命になる。ついには子供のために結婚しようとまで言い出す。

・赤ちゃん訓練の人形といえば、保健所の研修で風呂から上げたあと、つい水をきろうと振って怒られたのを思い出した。

彼女は黒人の子供が生まれることや、その他もろもろから情緒が安定せず借りてきた人形を投げ捨てたり荒れるのだが、胎児に蹴られて初めて実感する。この墓地(死と誕生の合わせ技を見せたかったのかな)での一連のシーンは美しい。

その後二人はうまくやれそうなのだが、自分だけで良いのか?と不安になった青年は、彼女の母親の元を訪れて手助けを頼む。夫は頑として娘のことを拒み、青年のことをお嬢さんと呼び続けて侮辱しまくる。

結局、母親は夫が運転する車で家にやってくる。

当然のように喧嘩別れになるのだが、一方、母親の結婚相手はさらに不愉快を爆発させる。

二人に戻ると、青年は単肌着の型紙を作ったりして、仲良し生活が戻る。

最後、青年が焼きあがったケーキを用意しているところに、母親が娘の家に転がり込んでくる。夫が浮気したから出てきたと言う。

ゆりかご(コットと言っていた)は買ったの? と母親が訪ねる。娘が青年と買ったゆりかごを見せると、そんなのだめだと頭から否定する。

娘がいないところで青年に対して、ゆりかごを持って家から出て行けと命令する。

そもそも自分が母親を呼んだのが原因だからか、そのほうが良いという判断なのか、青年は置手紙を残して、ゆりかごを持ち荷物をまとめて立ち去る。

ガイフォークスナイトで子供たちがドラム缶の炎を囲んで歌って踊るのを物陰から青年は眺める。行く当てないよな。

母親が追い出したことを知った娘が出て来て呼ぶ。

物陰から出て行こうかと迷っていると母親がやってきて彼女を家へ連れ戻す。

劇終

船員(コック)とのデートシーンや、青年との生活シーンが実に楽しそうで可愛らしく微笑ましく、一方の母親(この人が娘を愛しているのは端々からわからせるのだが、娘と同じくそれを表現することができない)とのぎくしゃく、母親の婚約者ー結婚相手に対する実に不愉快な態度、ほとんど素人(大学で演劇を学んで一通りシェークスピアをやったタイプではなく、どうも当時の英国では画期的な単なる労働者階級)同然らしいのだが、主役のリタ・トゥシンハムが良い味を出している。

それにしても、青年(テキスタイルデザイン勉強中の学生)が良い人過ぎる。苦労しまくったのだなぁ(と、書かれていないコンテキストの見通しの良さは良い映画)。

靴屋で働いている一連のシーンも良い。最初の客は散々靴をとっかえひっかえした挙句に品揃えが悪いと捨て台詞を吐いて去って行く。ああいう客もいるよと店主が彼女を慰めると、でも売れなかったし……と言う。店主は所用があって出かける。そこに青年がショーウィンドウ越しにこちらを見ている(が、彼女は気付かない)。青年が店に入って来る。なんか煮え切らないのだが、彼女はイタリア製の18シリング(今ならお得)を勧めて売ることに成功する。その靴をパレードの人込みの中で見つけて声をかける。

冒頭の街の紹介のようなシーン(引っ越しのためバスで移動中)が、銅像中心に複数のショットから構成されているにも関わらず、大人はわかってくれないの冒頭のような雰囲気を感じた。

Taste of Honey [DVD] [Import](-)

この作家は最初ナックの監督かと思ったが、女優はナックに出て来たらしいが監督は違った。それで初見かと思ったら、公開時に観たホテルニューハンプシャーもこの人の作品だった。

_ モーガン・フィッシャー

やっと思い出した。一風堂ではなくモーガン・フィッシャーだ。ドラミングが妙に一風堂に似ているなぁと思ったからごっちゃになっていたらしい。


2025-02-11

_ ケインとアベル

母親がこれむちゃくちゃおもしろいといって100万ドルを取り返せを貸してくれたのが半世紀前のことだから、どれだけ人気の息の長い作家なのかと驚くべきだが、ジェフリーアーチャー原作(多分読んだはずだが全く記憶にない)のケインとアベルに子供が誘ってくれたのでシアターオーブ。

百万ドルをとり返せ! (新潮文庫)(ジェフリー アーチャー)

多分最初に読んだコンゲームの作品

確かどえらい大河小説だった記憶があるのだが、休憩入れて3時間にまとめあげた脚本家の手腕がまずすごい。語り手をアベルの娘(とは知らずに見ていたので2幕での早変わり(服が変わるわけではなかったようだが、ナレーターという特殊な立ち位置から舞台の中の演劇空間にすっと入り込むところ)の演出もうまい。

ただ、脚本はもろ手をあげて褒められるかというとそうでもなくて、無理やりアベルの子供時代(ポーランド貴族の息子(最初は庶子、途中から下男、途中から養子))の敵である侵略者をロシア(第一次世界大戦中なのでソ連ではない)にしたせいで、たかだかミドルティーンの子供がユーラシア大陸を横断して脱出したことになる(セリフでシベリアにいたことになっている)のが無理し過ぎなうえに、そのせいで、なぜかアベルが第二次世界大戦に参戦する理由が、欧州から逃亡する羽目になった恨み骨髄のソ連と戦うためという設定で、同じ連合国なのに何を血迷っている? という無茶ぶりがひど過ぎて、さすがにこれはひどい。

ポーランド侵攻やアメリカの対戦相手をドイツにどうしてもしたくない、どういう理由があるのか全く理解できないのが大問題。

が、それを除けば、役者/歌手(特にアベルに重点がある)や良いし、ワイルドホーンの曲も気にならないし、物語そのものはおもしろいので実に楽しめた。

ただ、舞台がアメリカなせいか、同じ1900年生まれの二人の男の対立の物語としてはベルトルッチの1900年をまた観たくなって、多分、おれはこっちのほうが好きなようだ。ケインとアベルはホテル王対銀行家だが、1900年は大地主対農民革命家という偉い違いがあって、多分、資本家同士討ちよりも階級闘争のほうが闘争のダイナミズムが大きいだけに好きなのだろう。

1900年 (2枚組) [DVD](ロバート・デ・ニーロ)


2025-02-09

_ トワイライトウォリアーズ 決戦! 九龍城砦

BS11(12かも)見ていたらサムハンキンポーの旧作の広告を流していたので、妻に最近出ている映画も話題だよねと言ったら、あれおもしろそうだから観たいと言い出したので一緒にトワイライトウォリアーズを観に豊洲。

実におもしろい。

坊主頭に薄っすら髭のせいでおっさん臭い主人公とかもいるけど、特に信一(オートバイ野郎)と顔に傷がある信介(みたいな名前)とかイケメン軍団なのでなんとなくハイローみたいだなと思った。

香港歴代収益1位とか広告しているが、そりゃインフレしているから金額ベースなら後になればなるほど大きくなるだろうと、実にどうでも良い惹句だと思ったが、これは違うようだ。

要はキンポーやガオロンセンに何等かの思い入れがある世代(80年代世代)とハイローみたいなイケメンアクション好き世代(ゼロ年代以降)の複数世代の客層を呼べて、しかも両層とも満足して他人に勧めるので倍増する道理なわけだ(子供マンガ祭りが親も呼び込まざるを得ないから動員数が複数倍になるのと同じ原理)。

というわけで楽しみ方3倍増みたいな超お得映画だからつまらんわけがない。

80年代末に香港旅行して九龍市(町?街?)を歩いて遠目に城砦を眺めるとすぐ真上を飛行機が通って(啓徳空港を羽田に例えると整備場の辺りが九龍市)ビビったが、2回ほどビル(と言って良いか怪しい)の谷間スレスレに飛行機が腹見せて通過するシーンがあって、それを思い出した。あれに比べれば千駄ヶ谷上空を飛行機が通ると言っても屁みたいなものだ。

勝手がわからないから安全な場所と危険な場所の区別がつくはずもないので城砦そのものは遠目で見るだけにしたが、なんとなく雰囲気は想像がつく。というのは尖沙咀の端のほうにあるホテルに泊まったのだが、ホテルへ続く道と大通りの角の複合ビルに何気なく足を踏み入れたらさあ大変。まるで迷宮なのだ。で、ある程度うろうろしてから退散したのだが、あれの極端なやつを想像すれば良いのだろう(後になって、チョンキーなんちゃらという有名なビルだということを知った)。

映画に戻るとカラオケの歌とか機械とか細かく妙な日本取り入れがあってそれも記憶を蘇らせる。80年代末は香港では最高に日本がカッコ良かったのだ。

ファッションビルのエスカレーターを上っていると最初にショーウインドーにTOKIOと見えて、KUMAGAI と続くのかと思ったらKIKUCHIと続いてずっこけたのを思い出した。あまりにも無茶なのでシャツでも一着買おうかと中に入ったら、襟がバカでか過ぎてとても東京では着られないと諦めたのだった。

それにしても竜巻床屋の義兄弟はいつも敵に捕まる役回りなのが不憫だった。

4人組がビルから下界を眺めるところでは、おお青春映画と、フンクイの少年を思い出したり、虎親分に「かってのあいつらではない」と言われて主人公が3人に会いに行くところでは、墓参りか? と思ったら、船着き場に行くではないか。なんだこれ? と思っていたら3人がやさぐれていて、極端だなと笑いを誘う。そのてのある事象を受けたシーンの次のシーンで意表を突く演出は多用されていて、子供と話してから、駄菓子屋で眼鏡チョコを買うので、子供にあげるのかと思うと、それで顔を隠して復讐へ向かうのもおもしろい。

楽しかった。


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