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日々の破片

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2014-10-11

_ パルジファル

新国立劇場でパルジファル。

第一幕はゆったりとしたテンポで進む。オーケストラの音が実に深みがあって気持ちよい。以前、森麻希の歌を聴こうと子供に誘われて府中へ行ったことがあって、その時も感じたが、飯守泰次郎という人はメリハリの付け方が実にうまい。打楽器を本気で叩かせるという印象を受ける(特に3幕だと思うがティンパニを2人で叩きまくるところとか耳に残っている)。

芸術監督に就任していきなり自演でパルジファルのような大作をすごい演出(そう、演出が舞台装置含めて実に素晴らしい)でぶつけてくるところとか、(あるいは細かいことだがロビーにでかでかとお言葉を張り出していたりとか)なかなかの役者っぷりだ。

光の道が本当に光の道で、奥のほうを細く手前を太くしたパネルで構成している。これの各パーツが下へ潜ったり上へ上ったりして道の遠さや困難さを表現したり、人を登場させたりにうまく使っている。最初、プロジェクションで上から光を投影しているのかと思ったが、そうではなくて下から投影しているのかなぁ。白く光ることもあれば、溶岩流のように赤く光ることもあり(第2幕)、3幕最後は緑の草原が広がる。

それとは別に可動式の槍の穂先が右側から突き出して来て、ある時は瀕死(でも死ねない)のアムフォルタスと聖杯(ところで、翻訳が妙に特徴的で、聖杯王と書くのだが、単体についてはグラールと表記する。ホーリーグレイルという言葉を知っているからドイツ語だとグラールなのかなと気づいたが、最近の流行語なのだろうか?)を運んで来たり、2幕の冒頭では魔法の城の中を流れる溶岩の河(まるでスターウォーズの3作目だ)になったりする。

演出のハリー・クプファーという人が提示したパルジファルの世界は実に興味深い。指揮者の音の強調のさせ方もあるのだろうが、まさにワーグナーの集大成といった趣だ。

1幕はマイスタージンガー(楽想に近いものがときどき出てくる)。2幕はヴィーナスベルグを乗っ取ったタンホイザー(これも楽想に近いものがときどき出てくる)が支配する城で、このタンホイザーがアルベリッヒでもあり(パルジファルが迫って来るところを歌うところはローゲみたいだ)、花の妖精はラインの乙女であって、パルジファルは神々の黄昏のジークフリートと重なりながら魔法の薬から逃れたトリスタンでもある。3幕でマイスタージンガーの禁欲的な世界とタンホイザーの誘惑的な世界が止揚されて(さまざまな箇所がウェルズングの楽想に近い)、これぞパルジファルとして完結する。

演出ノートを読むと仏教がどうしたとか書いてあるが、最初から黄色い法衣を着ていることもあり、チベット仏教のようだ。

すると、終幕、聖杯王が望み通りに死(という解釈となっている)に、新たな集団指導体制としてグルネマンツ、パルジファル、クンドリーの三者(もちろん父と子と聖霊を示しているとしか見ようがない)がそれぞれ黄色い法衣をまとう(パルジファルが聖杯城の近くで僧侶から受け取った黄色い法衣――ただしグルネマンツの元へ出現するときはロンギヌスの槍を隠すために使っている――を手品のように3枚に変える)ところが、あたかも共産党支配を脱するチベットのように見えてきて(多分、そのようなつもりはなく、何かの勘違いから仏教の象徴として黄色を選択したのだとは思うが)異様な政治的メッセージになってしまっていてちょっと違和感はある(仏教を持ち出したのは日本受けを狙って失敗したのかなぁとかいろいろ)。

フランツのずんぐりとした丸顔無精ひげ禿頭が、どうにも金正男のように見えて、白鳥を射殺して聖杯城へ連行されるあたりが、まるでディズニーランドにのこのこやって来て捕まってしまった状態で、ユーモラスな味となっている(が、もちろんそんな意図はないはず)。で、このまま金正男かよと思っていると、2幕あたりから立居振舞の立派さ(ジークフリートを歌っていた時も感じたが声は少し小さく感じるのだが、若々しいきれいな声で外見を吹き飛ばす)もあって、普通にパルジファルとなって良かったね、という感じである。

クンドリーが実に美しい(声だけではなく見た目も)。

2幕はクリングゾルが槍を手に溶岩流へ向かって這っている(アナキンだ)ところで始まる。3幕はパルジファルが槍を手に這っているところで始める。演出で意図的に、両者が同一の存在であることを示している。片や自分で肉体的に去勢した男で(その代償として常に槍にまたがっているのだろう。魔女の箒として扱っているのではない。呼び出したクンドリーの脚の間を槍で突く)、片や精神的に去勢されている男(「お兄さん遊んでいかない?」「いいよ、何して遊ぶ?」)だ。その精神的な去勢が無知に根差しているのなら(というか、そういう設定なのだが)、無知な状態にとどめたのはヘルツェライデなのでこれはこれで相当に意味深な設定だ。


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