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日々の破片

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2022-05-07

_ 変身動物園

話はアネットにさかのぼる。そのとき、友人にサハリン島を貸したときのことだ。

「分厚いな。重いからいらん」と言い出す。

まあそういわずに、おれが借りている『先に寝たやつ相手を起こす』と『死都ブルージユ』の担保として取っておいてくれ。と無理やり押し付けた。

「そういえば」と友人が言う。「お前から借りた妙なサーカス……ではなく、動物園の本は返したよな?」

「は?」

まったく記憶にない。「サーカスと言えば『ラーオ博士のサーカス』だが、貸した覚えはないな」

「いや、サーカスは間違い。動物園だ。」

でもまったく記憶にないので、その話はそこで終わった。

さて、連休も終わりに近づいたので、積読を少し消化するかと、母親の家から持ち帰った本の上のほうにあった、『変身動物園』という見慣れぬ本を手にした(そう、動物園なのだがまったく上のやり取りは忘れていた)。中に、母が書いたらしい登場人物の名前メモが入っていたので、ははあ、ややこしい話っぽいな、とか思いながら読み始めた。

月の上を風が吹く。こんなことがあると、1年は不吉なことが起きる。おい、お前たち、おれが留守の間は良い子にしているんだぞ。お母さんに心配かけないようにな。

と、少佐が娘姉妹に言う。少佐はこれから1年、危険な任務のために外国へ行くのだ。

「無理」と姉が言う。

「無理」と妹が言う。

「悪い子のほうがおもしろいから、悪い子になるわ」

「そうそう、そのほうが絶対いいから」

……なんじゃこりゃ? と本気で読み始めた。

読んでいると、子供が幼いころに寝る前に話したクマのクータンの冒険物語が随所で思い出されて来た。

行き当たりばったりの展開。目についた素材の援用、古典の教養、物理学の理論、悪いほう悪いほうに、できるだけ説教くさくならないように気をつけて、でも美とか自由とか本当に人生に重要で必要なものについてはしっかり話しながら、うければ何度でも飽きるまで繰り返し……

この本、まともな児童文学ではないな。むしろ、子供を喜ばせることだけを目的とした法螺話だ。

そして読了して(一か所、本当に重要な友人との2回の別れ、そのうち1回はもちろん「死」なのだが、さすがに悲痛な思いは残っているわけだが)呆れ果てている自分がいた。これは、変な本だ。

で、続けて訳者あとがきを読みだすと、まさに8歳と6歳の娘のために話した物語を本にしたとか書いてある。おそらく、推敲はしただろうが、きちんとプロットなどを練り直すことなく、そのまま出版社に渡してしまったのだろう(作者はどうも職業作家のようだ)。

しかし、手元の晶文社のは1992年の刊行だし、アマゾンでの購入履歴もない。古本屋の票や鉛筆書きの価格もない。新刊として書店で買ったものだ。記憶にない以上、これはおれの本ではないな。

そこで母親にメールで、「なんでこんな本を買ったのか?」と質問したら、「お前が貸してくれたんじゃないか」と返事が来た。

全然記憶にない。しかし、冒頭の友人との会話を思い出した。

どうやら、子供用に買ったものの、子供が読まなかった(読むべき本は山ほどあるので、ここまで手が回らなかったのだろう)ので、しかしなぜか自分で読む気も起きず、友人や母親に貸したようだ。おそらく感想次第で読むつもりだったのだろう(キュレーションを厳選したキュレーターにやらせる作戦)。が、誰も何も教えてくれなかった。

それはそうだ。

空っぽの本なのだ。

おもしろいは抜群におもしろい。友人との別れは感動的で心が揺り動かされる。強くて大きな獣は戦いの中で死ぬのがふさわしい。だが、無内容なのだ。

まさに奇書と呼ぶにふさわしい。

あまりの衝撃に、子供の本ミートアップのネタにしてしまった。

そのため、あらすじと子供に話す話のパターンランゲージ(用のメモ)を作ってしまった。

変身動物園のあらすじを示す。


二人の姉妹ダイナとドレンダは悪い子になろうと決めて、毎日母親と家庭教師があきれるほど食べまくり風船のようになる。病院へ行く途中で悪い子キャサリンにそそのかされた子供たちに針で突かれて復讐を誓う。ダイナだけが会える森の魔女に頼んで変身薬を入手しカンガルーに化けて村人たちを驚かせ、子供たちを蹴りまくる。が、サー・ランカスターの投げ縄に捕まり動物園へ入れられしまう。

サー・ランカスターの動物園で、かって探偵だった頭が悪いキリンのパーカー、ランカスターから盗んだ新聞を読むのが日課の熊のベンディゴ、フランス帰りの気取り屋のラマのマリールイズなどと知り合う。パーカーの駝鳥のレディ・リルの卵泥棒の捜査を手伝いながら、本物の野生動物のグリーンランドのシルバーハヤブサ、ブラジルのゴールデンピューマと一緒に脱走計画を練る。

一方、村ではキャサリンにそそのかされてダイナとグレンダを覗きに行ったまま生垣にはまり込んで抜けなくなったミセス・テイパーが泥棒で有罪か無罪かの裁判が行われていた。12人の陪審員のうち6人の男性は無罪、6人の女性は有罪を主張して譲らないため、判事のランプルは全員逮捕していた。

無事脱走に成功した二人はミス・セレンディップの授業にあきあきしてダンス教師のコルボ先生のことを思い出す。コルボ先生は12人の陪審員の一人なので牢獄の中にいた。

二人は知恵のある大人として弁護士二人組(一人は原告側専門、一人は被告側専門で、曜日ごとに勝訴になる側を決めている仲良し)にコルボ先生の釈放を依頼する。

無事コルボ先生(とその他の人々)の解放に成功した二人は、父親の少佐が出張先のボンバルディで専制君主のヒューラグ伯爵によって地下牢に幽閉されていることを知り、救出を決意する。

森の魔女の薬を使って、狩人と猟犬に襲われて危機一髪のピューマを救出した二人は、コルボ先生とピューマと共にボンバルディへ向かう。ハヤブサは空からついてくる。

伯爵の部屋の秘密の通路を見つけた3人と1匹は無事少佐と会えるが、ヒューラグ伯爵によって再び閉じ込められてしまう。

ヨーロッパに取り残された第一次世界大戦の生き残りの工兵二人組によって地下牢を脱出した4人と1匹だが、工兵の好奇心からヒューラグ伯爵に見つかってしまう。ピューマは自分の運命を悟る。

ハヤブサはボンバルディではピューマの記念碑が立てられていることを告げるとグリーンランドへ帰る。二人が森へ行くと魔女はリューマチ治療のために旅立ったあとだった。二人はカッコウ時計をもらうが、カッコウは魔法の歌を途中まで歌ったところで壊れてしまう。修理したが普通のカッコウ時計になってしまった。


見過ごせない点として、最後が中途半端に終わることがある。カッコウは10個だか12個だかの教訓というか魔女の教えを歌うはずが、途中で壊れてしまう。修理するとただのカッコウ時計になる。まさに物語だ。

子供に話す話のパターン(パターンランゲージ化まではしていない)を示す。

間抜けな繰り返し

頭が悪いキリンのパーカー氏の捜査

動物たちが檻から抜け出していることについてのプラム氏の言い訳

陪審員と裁判長のやり取り

面倒なことは省略(ご都合主義をおそれない。気にしたら作れ)

森の魔法使いは登場させない

母親はロンドンへ旅行に行ったことにする

落とした薬を簡単に取り戻す

唐突かつ詳細なトリビアの泉(繰り返しの一種。長引かせるテクニック)

太るために食べたもの

ミス・セレンディップの授業

クマのベンディゴのボクシング技術の説明

主人公は悪い子だが良い人(それは重要)

ダイナとグレンダはお互いに尊敬しあっている

言葉遊び(ダブルミーニング)

弁護士たちが裁判長にかける罠: 変えないのは不潔

自由こそ最高で美しい(真の価値とは何か)

ハヤブサとピューマ

美しいものは美しい(絶対とは何か)

ピューマとハヤブサ

どうしようもないことにはモラトリアム(わからないことはわからない)

ピューマが家畜を襲っているので二人はまずいと考えるが、説明不能なので無視する

その選択はなに?(目についたものを利用する)

動物園の動物たちがむちゃくちゃなのは、家にあるぬいぐるみや、そのへんにいる家畜、連れて行ったことがある動物園で子供が興味を持った動物などを適当に選んだのでは?

逆にした繰り返し(上をやったら下、右をやったら左)

風船の次はマッチ棒(ただし足が二本←わざわざ言うまでもないことをちゃんと言う)

いざとなったら古典を利用(自分の知識をフル動員)

間違いなく地下牢からの脱走は、モンテクリスト伯とファリア神父の邂逅を援用している

本気の理屈と論理(考えるとは何か)

「あと二年して、今のわたしの年になったら、そう思わなくなるわよ」「いいえ、思うわ。あなたは、やっぱり二歳上だから、年上風をふかせて、とくなことをするにきまっている」……「でも、二人ともうんと年をとったときのことを考えてごらんなさいよ。あなたが90歳になれば、わたしは92歳。92歳っていえば、もう臨終の床についていても不思議はないわ。でも、あなたは、たったの90歳だから、パーティーへも行けるし……」「そうね、でも長い間がまんしなくちゃならないんだわ」

変身動物園―カンガルーになった少女(エリック リンクレイター)


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