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日々の破片

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2018-01-05

_ ストーミーウェザーと有頂天時代(その顔は黒いか)

どちらが先かは記憶が定かではないが、多分、ストーミーウェザーが先だと思う。

ストーミーウェザーは、僕の記憶では、第二次世界大戦中に、米軍の黒人兵のために、彼らを慰問するために作成された映画だ。それまでハリウッドのコードでは、召使いと奴隷以外の役回りで黒人を出演させることはなかったのが、黒人兵に対する慰問という大命題のおかげで、初めて黒人が主演で黒人がほとんどの重要な役を占める映画として作られた(はずだ)。

記憶では、ボージャングル(ビル・ロビンソン)の一代記になっていて、蒸気船の小僧として雇われたボージャングルがタップの才能を認められてショービジネス界に君臨するまでを描いていた。途中、キャブキャロウェイがズートで歌いまくり踊りまくったり、タイトルのストーミーウェザーはリナホーンが歌うのではなかったかな。一度聴いたら少なくとも冒頭のストーミウェザーのザーの下降ジャンプは忘れることができない名曲だった(というか覚えているのだが、キャブキャロウェイも歌っていたような記憶があるのは何だろう)。

なぜかわからないが、蒸気船の小僧として雇われたボージャングルが、他の船乗りに言われてタップを踏むシーンは記憶に残っている。一通りタップを踏むと、相手がwell educatedな足の持ち主だ! と誉めるのだが、そのwell educatedという言い回しが気に入ったからだと思う。

このある時代を見事に切り取った傑作映画は、僕が確かユーロスペースで観るまで、日本では公開されなかったいわゆる封印映画だった。確か、記憶では、GHQが、黒人ばかり出てくる映画というものを恥じた(つまり国辱映画と考えた)だか何だか、つまるところ、通常のハリウッドコードを公開基準としたかららしい。

ストーミー・ウェザー [DVD]

この時期、他にもGHQが国辱映画として封印した映画がいくつか公開されて、そのうち1つはジョンフォードのタバコロードだった。プアホワイトというのはこういうものだという映画なのだから、こちらはわからないでもない(先進的な民主主義の豊な国アメリカというものを価値観として押し付けるにはいささか問題があるというのは、GHQの立場に立てば理解できる)。

タバコ・ロード [DVD]

それにしてもジョンフォードは大した監督だ。

で、おまけとしてキャブキャロウェイが来日して横浜のブントホテルでショーをやったのでわざわざ妻と観に行ったとか、2人組のタップダンサーがオリエンタルバザーの前を歩いていたとか、いくつかの記憶もある。

で、ボージャングルという名前を記憶しきったところに、RKO時代のアステア・ロジャースの有頂天時代がテレビで流されたので観たわけだ。もしかするとそのときはスウィングタイムというタイトルだったかも知れない。

すると、アステアが顔を黒く塗ってボージャングルのダンスを披露するシーンがあった。

その時、ストーミーウェザーの成立事情は知っていたのだと思う。それで、白人の観客たち(特に映画を観るしかない地方在住の人たち)は、どれだけ人気を博そうとボージャングルを観ることはできない(映画という手段はないわけだから)、それで代替物としてアステアが顔を黒く塗ってタップを踏むのかな、と納得したのを記憶している。

ただ、妙に荒々しさを強調した踊りで(もちろん、アステア固有の優雅な踊りとは趣を異にしている)、両脚を┌┐型に開いたジャンプを多用していて、それはストーミーウェザーで観たボージャングルの(これまた)優雅なタップ(とはいえ、既に老齢になっていたので本人が踏むタップはとても少なかったような記憶がある)とはえらく印象が違って、政治的な意図が透けて見えなくもなくて鼻白む思いをしたのは覚えている。

どう考えても、本来であればアステアはアステアとして、ライバルとしてボージャングルが彼自身で出演するのが映画としては正しかったのではなかろうか(だがそれはコードがある以上あり得なかったものだ)。

有頂天時代 THE RKO COLLECTION [Blu-ray]

(というわけで、アステア・ロジャースの作品としてはトップハットのほうが遥かに好きだ)

というようなことを思い出す昨今の黒塗り顔についてのいろいろ。


2017-12-26

_ パターソン

アップリンクでジャームッシュのパターソン。

ここはおれの備忘録なのですべての筋を書く。

月曜日。ベッドの中の二人。1人はちょっとエキゾチックでたぶんインド系の人。起きると、相手(ちょっと間延びした顔の男だが、角度によってはときどき男前になる)に、双子を産む夢を見たと語る。あなたも双子好き? ああ、好きだよ。

男、制服のようなものを着て家を出る。バスの運転席に座り、メモ帳に詩のようなものを書いている。同僚か上司のようなインド系の人間と話す。バスが出る。双子が乗っている。パターソンは男の名前であり、この町の名前らしい。

腕時計がアップになりくるくる回る。

男(というかパターソン)、家の前で郵便受けを開ける。郵便受けは朝はまっすぐだったのに、妙に倒れかけている。パターソン、郵便受けをまっすぐに直す。

晩御飯の話をする。インド系の女性のほうが、カップケーキが人気だったことを話す。

奥さん、カーテンを作ったらしい。白地に黒いくるくるがたくさん。

パターソン、犬を連れて散歩へ出る。バーへ入る。ドクと呼ばれるバーテンダー。ビールを注文して飲む。

火曜日。ベッドの中の二人。

パターソン、制服のようなもの着てを家を出る。バスの運転席に座り、メモ帳に詩のようなものを書いている。同僚か上司のようなインド系の人間と話す。バスが出る。双子が乗っている。

腕時計がアップになりくるくる回る。

パターソン、家の前で郵便受けを開ける。郵便受けは朝はまっすぐだったのに、妙に倒れかけている。パターソン、郵便受けをまっすぐに直す。

奥さん、服を作ったのかな。白地に黒いのがたくさん。

パターソン、犬を連れて散歩へ出る。バーへ入る。ドクと呼ばれるバーテンダー。ビールを注文して飲む。

(ちょっと気を失いかけてくる)

水曜日。ベッドの中の二人。

パターソン、制服のようなものを着て家を出る。バスの運転席に座り、メモ帳に詩のようなものを書いている。同僚か上司のようなインド系の人間と話す。バスが出る。双子が乗っている。

(ほぼ気を失いかけてくる。いつがいつかまったくわからなくなってくる)

腕時計がアップになりくるくる回る。

パターソン、家の前で郵便受けを開ける。郵便受けは朝はまっすぐだったのに、妙に倒れかけている。パターソン、郵便受けをまっすぐに直す。

奥さん、自分は音楽の才能があるからギターを習いたいという。教習用DVD込みで200ドル。買ってもいい? よくなさそうではあるが、買っても良いことになる。

パターソン、犬を連れて散歩へ出る。バーへ入る。ドクと呼ばれるバーテンダー。ビールを注文して飲む。

木曜日。ベッドの中の二人。奥さんは全裸。

パターソン、制服のようなものを着て家を出る。バスの運転席に座り、メモ帳に詩のようなものを書いている。同僚か上司のようなインド系の人間と話す。バスが出る。双子が乗っている。

腕時計がアップになりくるくる回る。

パターソン、家の前で郵便受けを開ける。郵便受けは朝はまっすぐだったのに、妙に倒れかけている。パターソン、郵便受けをまっすぐに直す。

パターソン、犬を連れて散歩へ出る。バーへ入る。ドクと呼ばれるバーテンダー。ビールを注文して飲む。

金曜日。ベッドの中の二人。

パターソン、制服のようなものを着て家を出る。バスの運転席に座り、メモ帳に詩のようなものを書いている。同僚か上司のようなインド系の人間と話す。バスが出る。双子が乗っている。

腕時計がアップになりくるくる回る。

パターソン、家の前で郵便受けを開ける。郵便受けは朝はまっすぐだったのに、妙に倒れかけている。パターソン、郵便受けをまっすぐに直す。

奥さん、ギターを取り出して、線路は続くよを歌う。うまいじゃないか。DVD見て練習したから。まだここから先は練習していないの。

パターソン、犬を連れて散歩へ出る。バーへ入る。ドクと呼ばれるバーテンダー。ビールを注文して飲む。

・以上の繰り返しの中に以下のエピソード

・バーで、別れ話と納得しない男のエピソード。最後、男は銃をこめかみに当てる。パターソンが素早く飛び掛かり銃を奪う。ドクが銃を取り、男に向けて撃つ。おもちゃだよ。

・オープンカーに乗ったチンピラ5人組。散歩中のパターソンに向かって話しかける。その犬はブルドッグか? パターソン、びびる。高価な犬だから、盗まれるようだぜ。パターソン、びびる。気をつけなよ。パターソン、びびる。車、走り去る。

・唐突にパターソンの家。扉がいきなり開いて犬が飛び出してくる。郵便受けの柱に抱き着き、倒す。家の中に走り込む。

ウィリアム・カーロス・ウィリアムズ。カーロス・ウィリアムズ・カーロス。

’・詩を書く子供との対話。韻をうまく踏めないの。僕も好きではない。読むとなんか韻を踏んでいて、それをパターソンが指摘する。

・女性から聞いた詩だ。奥さん目を剥く。いや、子供なんだ。

・奥さん、パターソンに向かって、あなたは素晴らしい詩人なんだから、ノートに書いておくだけではだめ。バックアップを取りなさい。コピーすること。わかった、休みになったらコピーする。

土曜日。ベッドの中の二人。

今日は休み。奥さんはカップケーキをたくさん作ってバザーへ売りに行く。

パターソン、箱に詰めるのを手伝う。車に詰め込むのを手伝う。

パターソン、地下室で詩を書いている。奥さんを賛美する詩。

これまでなかったことなのだが、うまく書けたのか、それとも他の理由からか、ノートを持って上へあがる。

奥さん、カップケーキが売れに売れて260ドルくらいになったと喜んでいる。成功を祝って、映画を観に行きましょう。

ドクターモローの島。

戻ってくると、床の上にゴミクズが散乱している。パターソンが置き忘れた詩のノートを犬が粉々に粉砕したのだ。奥さん、犬を叱る。ガレージへ閉じ込めましょう。

日曜日(だと思う)。

パターソンと犬。犬に向かって、パターソン、「お前なんか嫌いだ」とぽつりと言う。

奥さん戻って来て、ガレージから犬を連れだしているのに驚く。

パターソンが落ち込んでいるので、1人にしておこうとする。いや、僕が散歩してくる。パターソン、外に出る。

パターソン、公園のベンチに腰かけていると、永瀬正敏登場。スーツにネクタイ。ふけたな!

ウィリアムズとでっかくカタカナで書いた詩集を読み始める。パターソン、気になってちらちらとみる。

あなたはこの町の住人ですか? 私はウィリアムズが好きです。ウィリアムズはこの町の出身ですね。あなたもこの町の人ですか?

そうです。ギンズバーグもこの町の出身です。ウィリアムズは町医者でもあったのです。

あなたも詩人ですか?

いえ、私はバスの運転手です。

ウィリアムズも町医者でした。実は私も詩を書きます。

どんな詩ですか?

日本語の詩です。翻訳はしません。詩の翻訳は、コートを着てシャワーを浴びることです。

二人、笑う。

永瀬去る。

パターソン、ベンチに腰掛けたまま。

永瀬戻る。

あなたにあげましょう。まだ何も書いていないノート(表紙はカラフルな雲だったかな)をパターソンへ渡す。

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これはもしかしたら、これまで観たジャームッシュの中で最高の作品かも知れない。途中何度も意識を失ったが。車に乗った犬について警告する連中のシーンは好きだ。最後の唐突な天使の登場も素晴らしい。まさか天使が老け顔眼鏡の日本のスーツ姿のおっさんとは考えもしなかった(出てくるのはタイトルクレジットでわかったが、そこまで出てきていないことは気にもしていなかった)。


2017-12-23

_ ルールを変える

今年のバイロイトのマイスタージンガーを観ていて、つくづく感じるのだが、今やフォークト以外のワルターやローエングリンは考えられない。

フォークト以外のワルターが冬の間は暖炉の前でとか、さあ初めよ! とか、朝の庭は薔薇の香りに包まれてとか歌い出しても、なんだこのおっさんは? としか感じられないおれがいる。完全にテノールのルールを変えてしまったという点で、これまで聞いたことがある古くはタウバーやローレンツあたりからからまさに英雄デルモナコ、自然体こそ美しいステファーノ、雄渾たるカレーラス、そうはいってもエルサレムやキング、美声だったなプラシドドミンゴときたすごいテノールとは全然違う。かといってレジェーロではなく、どう聞いてもワーグナー歌手だ。

ヘルデン(フォークト(クラウス・フロリアン))

昨年のバイロイトのマイスタージンガーは、フォークトがパルジファルへ回ってしまったせいでえらくがっかりした(FMで聴いて)。

今年のマイスタージンガーは、ポーグナーがリストで、エーファがコジマ、ザックスがワグナー、ワルターが多分若いワグナー、ベックメッサーは有名な(でもワグナーの友人)ユダヤ人の音楽家(名前忘れた)。徹底的に第三帝国のワグナーを戯画化して、ついでにワルターとザックスが作ったマイスターの歌を陳腐でくだらない人形劇で、それに対して誤読によって新たな創世にまで達したベックメッサーとしたカテリーナの演出に比べれば、それっぽいコスプレになっているが、ニュルンベルク裁判をからめることで真意が奈辺にあるのか判然としない不思議な演出となっている。200年をそれぞれスライドさせたと考えれば良いのかなぁ。でも、ベックメッサーに典型的なユダヤ人の仮面をかぶせてニュルンベルク裁判に出席させた後に、裁判所の中で平然と盗みをはたらき、手前勝手な論理でザックスを糾弾すると、あれ? もしかしてニュルンベルク裁判どころかホロコースト陰謀論に組しているのかな? とさえ読めてしまう(カテリーナとバランスさせたわけではなかろうに)。

が、とにかくフォークトが歌い始めればそれですべてはOKだ。妙なものだな。

一方に、カウフマンがいる。最初カルメンかチューリッヒあたりでやったトスカを観て、やたらと良い男(そういえば、子供がセビリアのDVDを観て、フローレスを無駄に良い男と言っていたのを思い出した)だが、声が汚くてなんじゃこりゃ? と思ったのが、最近の作品を聞いて(特にメトのパルジファルが良かったが、先日テレビでやっていたカヴァレリアルスチカーナも素晴らしかったし、大地の歌の1人で全部とかびっくり)えらく好きになってきた。考えてみれば、カウフマンも全然テノールではない(音域はテノールだが、声はテノールではない)という点で、ルールを変えたテノールだな。

L'opera(Jonas Kaufmann)

と、21世紀になってもクラシックの世界はルール破壊ががんがん行われていて素晴らしい。(でもルール通りのポレンザーニやカレーヤも好きなわけだが)


2017-12-19

_ 作りながら学ぶReact入門

2~3か月前になるけど、@yuumi3さんから『作りながら学ぶReact入門』をいただいた(サポートページ)。どうもありがとうございます。で先日読んだが、ちゃんと紹介しておくことにする。

ちょうど、Reactも見ておこうと考えていたので良いタイミングだった。

で、読み始めたら、単にReactの入門というだけではなく、現時点のJS(フロントエンドと言ったほうが正しいかな)開発についての目配せがされていて、僕にとっては、それ以上に良いタイミングの本だった。

読者はMacを使っていることを前提としている(一応Windowsとも書いてあるし動作確認はしているみたいだけど、Macのほうが良さそうだ)。

エディターを用意して、Node.jsを入れて、npmを用意したところで、3章に続く。

3章になると、モダンJS開発環境の解説となって、(2章で用意したNodeJSとnpmは当然として)webpackBabelESLintと説明があり、4章でES6の説明となる。

説明は(いろいろな面からおれにはできない)平易な解説というやつだ。読みやすい。

4章の最後はセミコロン無しの勧めで、これは正しいと思う。というのは、1年くらい前から、おれはstandard JSを使うことにしたのだが、結局、セミコロンが必要なのは、妙な書き方をするから必要なのであって(JavaScriptのおもしろさだか続きだかでおもしろがった記憶がある)1行1文であれば別にいらないわけで、書かないと決めれば、そのほうが遥かにきれいに書けるからだ。

ここまでで2/5くらい。

5章がJSXで、ここから本格的にReactの世界(といってよいのだと思う)となるわけだが、ここまでのモダンJSの解説だけでも読む価値(というか、実際に試したわけだが)があった。で、6章7章でコンポーネントを使ってReactのReactなところを過ぎると8章がテスティング。E2Eという言葉はフロントエンド開発エンジニア用語なのかな?(この書き方はおれには初見だった) テストに使うのはMochaというやつで、これもおれには初見。E2EではSeleniumが出てくるので、これは変わっていないのだなと思うと、Seleniumは環境構築が厄介だとして、Nightmare(名前からはこっちのほうが厄介そうだが)というのが使われることになる。

で、最後にこの先へ進むには、としてReduxFlowtypeReact Nativeとかが紹介される。

作りながら学ぶ React入門(吉田裕美)

試しながらでも短期間で読めるし(土日の2日で終わらせようと思えばできる)、上で書いたようにモダンなJS開発の一通りが出てくる(他にもあるかも知れないが、おれには十分だと思えた)ので、JSの入門、再入門には良い本だと思った。


2017-12-17

_ サーミの血

アップリンクで妻とサーミの血。

最初SAME BLODと出てくるのでお前の血もおれの血も同じじゃないかという意味じゃんと思ってよく見たらBLOODではなくBLODで、スウェーデン語なのか。

ばあさんが呼ばれているのに出てこないところから始まる。

髭のおっさんと、子供、ばあさんの3人で車に乗る。ヨイクをおっさんがかけると、ばあさん(は母親とわかる。親子3代だが妻はいないのな)は、それ嫌いといって不快そうだ。ばあさんの妹が死んだので葬式のために故郷へ戻る旅だ。

故郷の教会。ばあさんは徹底的に不快そうだ。終わった後、外国語(スウェーデン語ではないという意味)で話しかけられる。妹さんは毎年あんたの分のトナカイに印をつけていた。なぜ戻ってこなかったんだ? あんたが何言ってるのかわからんよ。

ばあさん、ついに、1人でホテルへ泊まるといって出て行ってしまう。

というところから始まる。

ばあさんは、ホテルのベランダから景色を眺めている。ばあさんは、サーミを見物しに来たスウェーデン人のばあさんグループと談笑する。職業は教師なの。過去へ戻る。

トナカイの耳に切れ目を入れて妹へ与える。妹は学校へ行くのはいやだとぐずる。ボートに乗って二人で旅に出る。延々と歩く。すごい光景だ。頭の弱そうな青年団が何かしている。脇を通ると、臭いとか醜いとか土人とか罵声を浴びせられる。民族衣装は青い。

すぐに暴力を振るう美人教師。サーミ語は厳禁。くだらない詩を暗唱させられる。自分はくずだが、神の恩寵で生かしてもらえているというようなやつ。ふつうにキリスト教徒のその国の主流民族が母言語でやっているのであれば、ふつうに宗教詩だろうが、まあ、悪しき魂胆の元に劣等感を刷り込む教育をしているのだな、と読める。

いやなことばかりがたくさん起きる。

教師の服を盗んで着ると、サーミ人といっても背が低くて少し太り気味(主人公は。妹は違う)なことを除けば、ふつうに白人だな。村の祭りに入り込んでナンパされたような自分からしたような。そこに妹がやって来る。教師にばれたのだった(多分、密告されたのではなかろうか)。

教師になりたいので上の学校へ推薦状を書いてくれと教師に頼む。

それはできません。

なぜ。私の成績は悪くないはずだ。

言っておくけど、サーミの学校の教科は、ふつうの人間の教科より少ないの。あなたたちは、科学的に、知能が低くて都会の文化的な生活が不可能ということが証明されているから、ふつうのスウェーデン人の学校へ進学できるわけがないでしょ。その程度のことはわかるでしょ。卒業したら、トナカイを飼ってスウェーデン人に見物してもらいなさい(というような意味。そういえば、近所の青年団からも動物園の珍獣とか呼ばれていたから、そういうことなのだな)。

まあ、ドイツよりもナチと親和性が高かった国だから、1930年代なら優生学も猖獗を極めていただろうし、そんなものだろうな。

主人公は学校を脱走して都会へ出る。途中、列車の中で服などが入った鞄を盗んで変装する。民族衣装を着ていなければ、ふつうに背の低い白人だし。

身を寄せた青年(村祭りで知り合った)の父親は北方で暮らしていたので、一目でサーミと見抜く。追い出される。

学校へ忍び込み、まんまと転入することに成功する。すげぇいい加減だな。

他の生徒が不思議そうに見る。

体育の時間。動きがおかしいが、すぐに慣れたようだ。が、教師から別枠で教えてもらえと指示される。

着替えに戻ると不良少女に捕まる。ひと悶着あるが、相手は偽名のクリスティーナとスウェーデン人とはちょっと違うという点から、ドイツ人だと誤解して仲良くなった(ように見える)。無知も良いものだな。

しかし、200クローネの学費を請求される。いくらくらいなんだろう?

金を借りられないかどうか青年の家を訪れる。折あしく誕生パーティーの最中で大学の友人たちがいっぱい来ている。サーミだ、ヨークを歌え、と珍獣扱いされる。悪意のかけらもなく。葛藤するのだが結局ヨークを歌ってしまう。珍獣扱いやむなしという無念さは映画になっている。

(青年は、その珍獣扱いがやばいとわかっているように映画を作っている。まあたくさん話し合っているし普通に人間だと了解しているから、それはそうなのだが)

結局、地元へ戻る。母親から怒られる。

家を追い出される。

朝になると、母親と妹が来る。母親の手には唯一の換金性がある財産――亡父のベルトがある。(脱走する前に妹のベルトを強奪していくシーンがあるが、あれは都会での滞在費の足しにするためだったのか)

現在に戻る。教会へ行き、棺の蓋を取り、妹の亡骸にキスをして、ごめんなさいと謝る。

外には大自然。

---

映画としての難点は、いっぱいある。ラスト、妹に許しを乞うタイミングが、自分の学費は母と妹が出してくれたと思い出したからだとしか見えない繋ぎになっているところだ。そりゃないだろう。

あるいは、そこまで捨てきらないとだめだったということか。(それは進学はできない制度なのだからそうなのだろうが)

なんか、後から読んだ映画のチラシには感動がどうしたが差別と闘うのがどうしたとか書いてあるが、そういう作品とは考えにくい。

むしろ、自らデラシネとなった人間がデラシネとならざるを得ない状況を緻密に描いて行って、それでも忘れがたい事実(家族の愛情ってやつだ)に突き当たって最後に根を思い出す(理屈の上ではそれまで本気で封印していたと読める。のだが、回想のように見える過去のパートが生々しいために、忘れていたことを思い出して過去を許容できるようになったというようには見えないために、最後が金のことで妹に謝ったようになってしまったのだと思う)話で、だからといって過去と折り合いがつくわけでもなく、選択が誤っていたとも思えず、どうにもならない無力感でお仕舞いとなる。

後味が悪い映画で、しかもその後味の悪さがおもしろさに昇華できないので、映画としてはいまいちだ(これがたとえばファスビンダーであれば、とんでもなく悪すぎる後味と不愉快極まりない終わり方がおもしろすぎて実に爽快なのだが、そういうようには作れていない)。もっともおもしろがらせる映画ではなく、だから差別はいけませんという啓蒙映画なのだとすれば、これで良いのだろう。が、なんか違和感はありまくる。

いずれにしても、たかが出自でどうすべきを決めるというのがだめだということは現在では明らかなのだから、どうにもならない話ではあった。


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