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日々の破片

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2024-10-09

_ 劇団四季のゴースト&レディ

子供がチケットを取ってくれたのでゴースト&レディを観に行く。(日付を変え損なった。10月5日だ)

良い舞台だった。

クリミアへ行こうの曲がやたらと印象的だったけど(主要動機として使っているからだ)、1幕最後の階段を2つぐるぐる動かしながらグレイとフローが交互に歌ったあと転調して同時に歌う曲がとても良かった。

幕開けは思わずびくっとなったほど衝撃だったが、原作の借り物はそこだけにして、代わりにランプ(確かにナイチンゲールといえばランプなのでわかる)を2回出してくるのが一番の舞台化にあたっての仕組み上の改変と思った(幕開けもびっくりだが最後も2階席で観たのでとんでもなかったが、つまりは最初と最後を借り物でまとめていると今気づいた。その点については原作も枠組みの中で最初と最後なので構造としては同じにしているとも言える)。

プログラムを読むと藤田和日郎のインタビューが出ていてラストは脚本家と相当もめたらしいが、それは全然気にならなかった。元々曖昧(時間軸をいじっているのでどうとでも受け取れる)な終わらせ方だったし、重要なのはグレーが物語を語るというところにあるのだと思うし、そこはまったく変わっていない。ただ借り物が変わるだけに、ホールとの戦いも随分と異なっていたり(そういう意味ではデオンを明白に女性としている点も違いか)そこが違うだけにフィッツジェラルドの最後の態度も変わって来るところがおもしろい。デオンを女性にすることでフローと対比させて、原作の因縁があくまでもホールとフロー、デオンとジャックなわけだが、変えてデオンに別の人生を作ったことですべての焦点がフローに当たることになって、凝縮性が高まる。そこで物語が舞台の尺ぴったりにまとまったと考えると脚本家の腕の良さも大したものだ。

考えてみると単行本の後書きでナイチンゲールのエピソードはやたらとおもしろいがすべてを詰め込むことはできないので涙を呑んで刈り込みまくったとあったが、2時間半の舞台にするにあたって脚本家も刈り込みまくったのだな(刈り込みの2乗だ)。

舞台では幽体離脱を都合3回見せるが、うまく作ってあってびっくりだ(演出がうまいのは、1回目に見せたので(ここで見せることで鼓手の物語への絡み方をスムーズにさせている)2回目は歩き方を変えて(ここは見送るところ)3回目は真正面からと、すべて趣向を変えている)。

グレイが霊気を吹き込むシーンは、まさに舞台だった(もしかして原作と一番表現を変えたのはここなのかも知れない)。仕掛けも見事でこの情景はとても良かった。

黒博物館 ゴーストアンドレディ(藤田和日郎)

それにしても原作を読んだときは、時代で括ったとはいえ、この物語とこの物語とこの物語をこう組み合わせてこう作るのか、すごい作家だなぁと感嘆したが、まったく見事な作品だ。


2024-10-10

_ 都市と都市

『都市と都市』読了。

むちゃくちゃおもしろかったが、プロジェクト・ヘイル・メアリーと違って1晩で一気読みとはいかず、えらくちょびちょび読むことになった。なんでだ?

で、おそらくSFはSFでもプロジェクト・ヘイル・メアリーはサイエンス・フィクション、都市と都市はスペキュラティブ・フィクションだからなのではないか? と気づく。思弁側には特に決まりはないが、未来でもなければ宇宙でもなく妙なガジェットもなく普通にSNS(とはいえMySpace)がある現在よりちょっと前、執筆された頃の地球の古都が舞台だ。

では何がSFかというと、異なる国家、異なる文化の2つの都市が同じ場所にあったらどういうことになるのか? というスペキュラティブだからだ。

しかも現実味を消すために、かたほうの国家は資本主義だが経済状態は悪く文明度が低い、かたほうはどう読んでも旧東欧諸国だが経済状態は良く文明度は高い、という現実のたすき掛け設定にしている。

(というか、ちょうど2冊続けて読んだが、ラストはプロジェクト・ヘイル・メアリーも都市と都市も主人公は同じ結末を迎えるところがおもしろい)

つまり主人公は、プロジェクト・ヘイル・メアリーと180度異なり、まさに現実世界にやって来るのだった。

アマゾン評の星一つ軍団の中に異様な長文があって、他と異なり本質を突いていておもしろい。で、この長文人が書いている失速する第3章がまさに失速しているがゆえに一番スピード感があって読みやすいという皮肉もある。

あと、翻訳はおそらく口語表現を正しいニュアンスで日本語化することに失敗しているのでは? とコンテキストから判断せざるを得ない箇所が多々あって、これは読みにくさというか読解のハードルを上げているように思う。第3章は会話が減るため、そのハードルが取り払われているということはありそうだ。

特に問題は「ブリーチ」でカタカナで書いてあるので普通にbleachだと受け取って読んでいたがbreachじゃん。おそらく70年代以前ならカタカナで放置せずにたとえば「侵犯」という実存日本語かあるいは「裂入」(造語)とかに翻訳すると思う。原語読者はなるほどbreachを政治用語/(この)都市用語としているのだなとすぐに理解できるが、「ブリーチ」なものだから存在を漂白=希薄化するってことか? と読んでしまって最初意味が取れなかった。「リ」となる言葉にはご用心だ。

と、カタカナ放置語が多いのは翻訳家の手抜きなんじゃないかなぁ(せめて初出時に原語表記があれば良いのだが、って科学読み物とかではないから、やはり翻訳すべきものだ)。

都市と都市 (ハヤカワ文庫SF)(チャイナ ミエヴィル)


2024-10-12

_ 夢遊病の女

新国立劇場で夢遊病の女。指揮は安定のベニーニ。それにしてもこのクラスの指揮者が安定して振りに来てくれるのは実にありがたいのではなかろうか。

始るとバレエによる黙劇で、鹿の角などを利用している。アミーナと思われる女性がさまよっているわけだが夢遊病なのだろう。歌手の代わりの黙役の人かな? と思ったら本人だった(と後でわかった)。

谷口睦美のテレーザが登場。声量が抜群なので最初ゲスト(海外の招聘)歌手なのかと思った。ちょっとぶっきらぼうな印象がないわけでもないが(特に2幕目の自分が花嫁になれるとうきうきするあたり)、立派な歌手だ。

クラウディア・ムスキオのアミーナ登場。とても代役とは思えないのだが。最初からこの人で良かったのではないか? コロラトゥーラもきれいだしすごく良い。

エルヴィーノ登場。独特の不思議な癖がある声で、あれこの声は聞きおぼえがあるけどシラグーザのようなと思ったら(シラグーザが数年ぶりに来ることは知っていたが、なんとなくロッシーニだと思っていた)シラグーザだった。それにしてもこの人は好きだ。これでチェネレントラ、愛の妙薬と新国立劇場での登場はすべて観ていることになる。

で伯爵登場。すげぇ良い伯爵と思ったら妻屋だった。この人は本当に今や押しも押されぬ大看板だ。歌はもちろん、とにかく立ち居振る舞いにしても細かな動作にしても抜群。(最初に観たのは東京リングのファーゾルトかファフナーで、その時は声量が無いなぁ、日本人歌手ってぱっとしないなぁとか感じたのだが、あれは一体なんだったのだろうか? こんなに立派な歌手なのに)

この演出/演技だと、伯爵はアミーナの父親ということを大きく匂わせる。それだけに部屋にアミーナが入り込んできたとき、思わず手を出しそうになって引っ込めるところに説得力がある(何しろ、時代的にはドン・ジュアンやアルマヴィーヴァ伯爵がうろうろしているわけだから、普通どうなるかは自明で、だからこそアミーナは窮地に陥る)。

細かな演出では、テレーザが落としたスカーフに気付いて拾うのはアレッシオ(地味な役だが近藤圭も良い歌手だ)なので、最後アレッシオがアミーナの母親に託すという設定なのだろう。

最後の教会のシーンで、なんとなく、モダン演出ならアミーナは屋根から落ちて血まみれでお終いだよなぁとか考えていたら、暗転の直前に飛び降りるのには驚いた。どういう解釈なんだ?

カーテンコールでベニーニはまっさきにホルンを讃えていたが、記憶の中ではどこにホルンがあったか良くわからない。森と村なので普通に情景音楽のところにホルンが溶け込んでいたのだろう(くらいにうまい演奏だったのだな)。というか、ベルカントでホルンというのはおもしろいオーケストレーションかも知れない。ベリーニの才能は素晴らしい。

と、歌手、指揮、オーケストラ、演出、舞台、曲どれをとっても抜群だった。良いものを観られた。


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