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日々の破片

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2018-08-05

_ 低音フルートを愛でる

@nobsunから久々に連絡が来たと思ったら、低音フルートのコンサートをやるから良ければ来ませんか? というお誘いだった。

低音フルートってなんだ? と考えてみて、フルートのさらに高音がピッコロになるわけだから、その逆でオーボエみたいな太くて長いフルートで、かつフルートと呼ぶ限りは横笛なんだろうと演奏している光景を想像してみると、謎過ぎる。

というわけで、この目で見て聴いてみようと、妻と一緒に文京シビックホールに行くことにした。

舞台の上にとU字型に曲げた(なるほど長さが取れる)フルートのようなものや、立てて使う4みたいな形(横棒の部分があるので横笛的に吹ける)をしたフルートなのだろうと思われるものとか奇妙な管が林立していて、おーそういうことでしたかと納得する。

配られたプログラムを見ると裏表紙に、三響フルートとか古田土フルートとか(管楽器やらないから初見だが)低音フルートを作っている会社の広告が出ていて、なるほど、こういう世界もあるのだなと納得したり。で、それよりも、ぴかぴか棒'sというフルートの掃除用の布がおもしろい。ボウズなんだなとあとで知ったが、よくみるとTaku musicと書いてあって、指揮者のフルート奏者が多久潤一郎という名前なので、おもしろい副業だなと思ったり(退屈な掃除時間が楽しいひと時へ、とコピーが書いてあるので、プロだけに掃除もふつうよりもたくさんしているだろうから、掃除しているときになんかもう少しおもしろくならんだろうか、とか余計なこと考えて考え付いたのだろうかとか。おれは余計なこと考えて全然違う結論に達する人が好きなので気に入ったわけだな)。

プログラムを見ると(多分、その前に誘われたときに見たWebサイトにも書いてあったとは思うが意識しなかった)低音フルートを愛でる団とか書いてあってラムダ計算騎士団だか算法騎士団だかとのりが似た名前だなと思ったりしたが(そのくらい「団」という言葉の響きが特徴的なんだな、おれにとっては)、特に関係あるわけではないだろうなぁ。

始まるとやたらと芸達者な指揮者が登場してぺらぺら漫談しながら振り始める。

それから1曲目のモーツァルトが始まると、曲はつまらないが、音が無茶苦茶おもしろいではないか。

ピッコロやフルートはわりと鋭い音なので気づかなかったが、全然アタッカ(と呼ぶのかどうのか知らんけど、エンベロープの左端で最初のピークになるところだと想像する)がない(構造上、強く最初に吹くよりも平坦に持続させる必要があるからだと想像する、というか吹いたことないので全部が想像となるわけだが)ので、芯となる音がほとんど目立たずに(とすると、おれが音の芯として捉えているものは、実は単なる減衰する過程なのかな? それによって分離するから芯として捉えてしまうのかも知れないが、減衰せずに続くわけだから芯を感じないのかも知れない)ボーボー響くわけだが、その響きがとてつもなく複雑だ。おそらく、管の太さと長さから、反射回数が多いために、倍音成分がとてつもなく多いからだろう。

しかも数が4~50本くらいあるので、どえらく響き渡る(が、音量が大きいわけではない)。

おもしろい。ここまでとは想像してなかった。特に上のほうでもわーんと群れるような音がするのが抜群だ。

2曲目はサティのお前をちょーだいで、これは曲自体を良く知っている(というか弾けるし)ので、どうアレンジしたかとか含めて聴けるわけだが、なるほどそう来るのかの連続。特にシンコペーションで入るところとか、スリリングですらある。

しかも響きに誤魔化されるが、フルートはフルート(後で調べたら運指はふつうのフルートと同じらしい)なので速いパッサージュはふつうに速くて、その意外性にしびれる。

おもしろいなぁ。

3曲めはスパークという人のイーナの歌という聞いたことがない曲だが、指揮者によれば、(忘れた……(追記)ユーフォニアムと備前さんに教えてもらったが、チューバの一種なのか。全然違う楽器を想像していた)という楽器用の曲で(フルート奏者でもあるので)フルート用にして演奏したかったが音域が合わない、でもバスフルートの音域と等しいのでバスフルートのソロとしたというようなことが説明された。

これはなんだろう? 1曲目が響き重視、2曲目がリズムが作れることの説明だとすると、旋律楽器としての提示となるのかな。

・アルトフルート(腕の短い人用にU字型もあるが基本は直線)が普通のバイオリンの音域で、バスフルート(U字型というか、Uの1端が長いから、スティック飴みたいな形だからJのほうが正しいかな?)がヴィオラの音域で、コントラバスフルートが(説明ないが、意味的にチェロの音域となるのだろうか? これが4の形)

で、速いパッサージュの意外性を生かそうとしたのか、4曲目にファリャの火祭りの踊り(これ曲は知っていたが物語は知らなかったわけだが、指揮者の説明によって、亡き夫を呼び出すために火の周りを踊り狂うと、あの世から夫が召喚されて、一緒にさらに踊り狂うというコンテキストらしい。すごい話だな)。さすがに響きには慣れてきたので、演奏する人の指の動きとか指揮者の足元(なんか実にフォトジェニックな指揮をするので、つくづく芸達者な人だなぁと感服した。クラシック音楽で身を立てるにはなんかとてつもなく多芸な必要がありそうだ)。

で、1部が終わり、休憩のあとに2部。

なんか仮装大会みたいな雰囲気となり、とどめにコンプレッサーがシューシューやたらとうるさい馬をつけて指揮者が出て来て1曲やった時点で馬が邪魔だといって外しに行ったり、いろいろ。

スパイ音楽メドレーでは、ミッションインポッシブル3で、誰も寝てはならぬのところで、バスフルートにライフルを仕込んだ暗殺者が出てくるが、そんな楽器はオーケストラにはいないから、最初からばれるというような話が出る。

それにしてもおもしろかった(妻によれば、なんかカラオケの伴奏に良い感じの音だと思ったら、指揮者が歌い出したので、そうですよね、と同意したとか)。

で、帰ってからあらためてバスフルートとかを調べると、意外と20世紀初頭には作られていて、ザンドナーイがフランチェスカダリミニで使ったとか書いてあって、すさまじくおもしろい。

もちろん、ザンドナーイはプッチーニの弟子で、本来トゥランドットの完成稿の指名者なのだが、遺族の反対で取り下げられた(で、トスカニーニが憤激して途中で指揮をやめて帰ってしまうとか、いろいろエピソードが続く)わけだが、ミッションインポッシブルの世界線では、ザンドナーイが無事に完成させて、ついでに既存部分のオーケストレーションもいじくって(先生がご存命中にはバスフルートを想定できなかっただけで、今ならば、きっと採用すると言い張るとか)、当然のように、バスフルートが出て来ても何もおかしくないってとこまで織り込んだシナリオなのかもとか想像したり。

実に楽しかった。


2018-08-21

_ 医者の常識と赤ちゃん突然死

Factfullnessをちまちまと通勤中に読んでいてやっと半分まで来た。(途中で他の本を読んだりしているので、さすがに額面通りの速度ではない)

現実の数字と印象の数字を比較して、正しく世界を認識するための方法論を提示するという実に興味深いし、かつおもしろい本なのだが、一般化に注意せよという項を読んでいて、以前引っかかった記憶が思い出されたのでメモ。

最終的に60000の生命というコストを払うことになった一般化の罠に、自分もはまっていたときのことを書いている。

1974年に筆者がショッピングセンターに行くと、ベビーカーに赤ちゃんを入れた母親が一心不乱にパンを選んでいるところに出くわす。赤ちゃんは仰向けに寝ていた。その瞬間、習ったばかりの知識から筆者は赤ちゃんを抱きあげると(筆者は医師なのだ)うつぶせに寝かせて、仰天する母親に説教を垂れる。仰向けに寝かせると吐瀉物によって窒息する危険があるのだ!

これは第2次世界大戦と朝鮮戦争から得られた教訓で、負傷兵を仰向けに寝かせておくと吐瀉物で窒息する率が圧倒的に高まることから1960年代の主流の考えだったと説明している。実際、これ自体は正しく、2015年のネパール地震のときも多数の生命を救うことになった知見だ。

が、問題は一般化の誤りにあった。赤ちゃんは仮に吐瀉物が喉につまりかけたとしても、もし仰向けであれば横を向くことで窒息を自分で回避できる(昏睡状態の大人とはそこが異なる)。ところが頭が重いため、うつぶせの場合は他の姿勢に変わることができず、突然死の原因となることが、1985年に香港のグループによって確認された(ただし、うつぶせ寝の危険性の理由が完全に解明されたわけではない)。

いずれにしても、赤ん坊をうつぶせに寝かせることは突然死を招くという点から、仰向けに寝かせるよりも遥かに危険だと今ではされている。昏睡状態の大人への対応を当てはめてしまったことが、一般化の問題だ。

Factfulness: Ten Reasons We're Wrong About The World - And Why Things Are Better Than You Think LONGLISTED FOR THE FT/McKINSEY BUSINESS BOOK OF THE YEAR AWARD (English Edition)(Hans Rosling/Ola Rosling/Anna Rosling Rönnlund)

20世紀の末のころ、妻がNifty-Serveの子育ての掲示板を良く眺めているのを、横から見ることがあった。

そこに良く目立つ医者を名乗る男(と思われる名前)の書き込みがあり、なにかというと「医者の常識では」で文章を始めては何か説教を書いていて、一読するだけで二流の人物と判断せざるを得なかった。とにかく、「医者の常識」という言葉に強い引っかかりを覚えたからだ。(怪我の場合の消毒について古臭いことを書いていたので、こいつはだめだな、と考えたのかも知れない)

医学の領域の結構大きな範囲は、観察によって得られた知見を元にしているはずだ。であれば、上でFactfullnessの著者が書いているような汎化→特化のフィルタリング前の誤った知見などが当然あり、それらは新たな知見により絶えず刷新する必要がある。したがって「常識」などという概念が入り込む余地はない。あるのは「現時点の研究によれば」という特定時点での知恵の断面だ。

そういった、常識を振り回す医者に限らず、20世紀には低コスト化した工場での薬品製造(薬害エイズ禍が代表)や、MRとの癒着による大量処方など、医療従事者による問題が目立った。

目立ったのはFactfullnessから考えれば、それが異常だから大きく報道されるから目立つのであって、大多数については無問題ということだったわけだが(もっとも、赤ちゃんの寝かせ方や傷口の消毒や火傷治療のような広範囲に長いこと誤った前提がコンセンサスだったものもあるだろう)、今になってみれば、大きな禍根となっているのは、未だに反ワクチンや代替医療推しが一定の支持を集めることになったことだな(医者の常識を疑うという常識による、一般化の罠だ)。


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