トップ 最新 追記

日々の破片

著作一覧

2025-05-03

_ 絶望の日

ビックカメラの上に移転中のル・シネマでオリヴィエラの未見だった『絶望の日』。

なんか有名な文学者が自殺する映画としか知らないで行ったが、最近では珍しく多分ほとんど眠ってしまった。が、不快な入眠(未来世紀ブラジルとか、退屈で睡眠へ逃避)というのとは違って、実に心地よかった。これだけ心地よいのだから間違いなく名画だが記憶がほとんどない。

理由は明々白々で、パルジファル前奏曲がほぼ全編に使われているのだが、テンポが極端に遅い。記憶にある録音でこんなに遅いのは聞いた覚えがないからポルトガルの楽人によるものか。

その遅さに混乱しているところにもって移動中の馬車の車輪の回転を延々と映す。くるくる回転する車輪を眺めているうちに催眠術にかけられたのだ。間違いない。

途中、これも何度かトリスタンとイゾルデの前奏曲の冒頭のトリスタン和音が入る。これは実に良い塩梅なのでトリスタン和音を楽しみにしていると、また極端に遅いパルジファルとなり催眠術にかかる。

そうやって、金を求めて何度も爵位を要求しては断られて、最終的には子爵となるが、年金についてまた何度もやり取りが発生する。

息子の病気を診てもらうために遠方の医師に使いを出しては断られるというのを繰り返す。ついに医師が来訪することとなる。そこでまた催眠術が流れて、結局どう診断されたのかどういう治療方針となったのかが謎のまま時が過ぎる。

そして銃声。

最後、無調の室内楽が流れる。これは名曲だが、誰の作品なのだろうか。

おもしろかった。

追記)最近は近年のバイロイトのビシコフやヘラスキャサードの11分後半~12分前半のやつを聴きなれているからで、さっきショルティのを聴いたら死ぬほど遅くて12分50秒台。数十年前はこれを聴いていたと考えると、当時は全然普通だったのかも。というわけでおそらくショルティを使っている可能性が高い。

_ 恐怖分子

『IT'S NOT ME』で使われているピアノ曲を聴きたくなってロシュフォールの恋人たちのDVDを探すが見つからない。代わりに買ったまま封を切っていない『恐怖分子』が出てきた。

なんということだ。

というわけで封を開けて妻と観た。

カメラマンらしき青年の脇で眼鏡をかけたふわふわ頭の女性が本を読んでいる。

こいつらがテロリストなのかなぁと観ていると(前提知識がエドワード・ヤン以外に無いのでテロルの映画、たとえば若松孝二の60年代の映画みたいなやつを想像していた)、路上で男が血を流して死んでいる。

銃撃がマンションの一室から行われる。

パトカーが近づく。

青年、カメラを手に町に出る。女性は本を読んでいる。

パトカーが近づく。

私服の警官たちがマンションを見る。銃撃。応援を呼んだ。

サングラスの警官がパトカーから降りる。

その一室で銃撃があったと大家から通報があったのだ。大家はおそらくブノワみたいなのだろうと想像していると途中で姿をあらわすが同世代のチンピラみたいなやつでおもしろい。

マンションの中で長髪半裸の男が、背の高い短髪の女性を窓から落として、自分も続く。警官が押し寄せて長髪を逮捕する。短髪のほうは身を隠してやり過ごしてから逃走する。足を挫いている。

小説を書き直す。そうか、小説は命掛けの仕事ではないからなとネクタイしめて男が去る。

なんだこりゃ。次々と登場人物が出て来る。群像劇なのか。というところで『恋愛時代』を思い出す。なるほどエドワード・ヤンだ。

さらに香港(年齢が合わないから別の役者だろう)登場。小説家に仕事をオファーする。微妙に怪しい。

夫は医局で課長の突然死を聞く。

かくして全員が別々に絡み合いながら自分勝手な人生を歩み、ラストは連続して2種類(最初夢落ちなのか?と思ったが、目が覚めるのはそれ以前が夢というわけではなく、新たな時間軸への巻き戻しなのだ)、最後は生まれ変わるという復讐なのだろうか。

息もつかせぬ抜群のおもしろさだった。

途中、プラターズの『煙が目に染みる』が流れて、プレスリーの『Are You Lonesome Tonight』を思い出した。

恐怖分子 デジタルリマスター版 DVD(-)

(なんかすごい価格がつけられているがわからなくもない)


2025-05-05

_ a one & a two

DVD整理していたらこれまた以前買ったまま放置していた『ヤンヤン 夏の思い出』が出て来たので妻と観る。

なんということだ。

恐怖分子のデジタルリマスター版を先に見たからか、画像の粗さに仰天する。NTSC用のビデオテープからそのまま起こしたのではないか?

というのは観ていて気付いたのであって、題名が全然ヤンヤンではなく(が、フランス版予告編を後で見たらYYとなっているから海外ではヤンヤンにしたいのかも知れない。博報堂とポニーキャニオン(が出資している)が)、A ONE & A TWO (一つの一人、一つの二人、という感じか?)ではないか。

そういえば、侯孝賢の『冬冬の夏休み』の印象が強くて、ヤンヤンの夏休みの映画だと思い込んでいた(ので、それほど観る気が起きずに放置となっていたという面はあるのが完全に買ったのを忘れていた恐怖分子との一番の違い)。が、これまた全然違う。ある家族4人(と寝たきり1人。ただし母親は山へ修行へ行くのでほぼ不在)を中心とした群像劇だった。

どうも博報堂とポニーキャニオンが冬冬の夏休みが当たったのでエドワード・ヤンを2匹目の泥鰌として売り込もうとして海外用の題を勝手につけたのではないか?

結婚式、老母をいたわる赤いチャイナドレス、後から来た眼鏡が新婦の悪口をまくしたてる、友人席では慎重だから妊娠してから結婚式を挙げたのだろう、タダ乗りじゃなかったわけね、とか色々言っている。ヤンヤン(は蝶ネクタイ)は親戚?の女子数人にいじめられている。この後も学校のシーンでは女子にいじめられたり教師(これがカスを絵にかいたような思い込みだけで生きているとんでもないやつ)に難癖をつけられてたりする。が全然喋らない。最後にわかる。聞く耳を持たないものへ語り掛けても意味がないので口を噤む必要がある。

ヤンヤンはNJからカメラをもらう。最初は蚊を撮ろうとする。授業を抜け出してカメラ屋へ走る。校庭を走る。高いところを走る。さまざまな後頭部の写真。表と裏、裏は自分では見られない。

父親のNJは倒産間際のIT企業の経営陣の一人で、優れたゲーム作家大田の接待を任せられる。大田は鳩を肩に乗せたりトランプマジックをしたりする誠実な男でお互いに好感を持つ。一方、社長(会長? 出資者?)はコピー大田の小田を使って安く上げようとする。コピーはしょせん時代遅れの劣化版なので会社はほぼだめになる(NJは大田との信義の問題もあり退職している)が、小田はプール際の秘書として安泰(というのは言葉のみ)。

ヤンヤンは学校の映画教室にいる。パンツ。プール。洗面台での顔を水に漬ける練習。プールに入る。無人の飛び込み用の盛り上がっているところを延々と映す。

家族はどうも高級マンションに住んでいる。が、隣家のチェロ奏者の音が聴こえる。さらに隣の妻の弟(NJの義弟)の夫婦喧嘩が常に聴こえる。高級なのか? それとも常に扉を開けているからか? ベランダ。下を見下ろすシーンが挟まる。チェロと恋人。

姉は隣の家のチェロを弾く女学生の恋人ととの伝書鳩の役回りをやることになる。女学生は待ち合わせに恋人が遅れたときに絡みがあった兵隊(除隊直後?)と付き合い始める。姉は恋人と付き合おうとする。高架下。自転車の二人乗り。ホテル。恋人は間際で去る。

一方、熱海(NJは大田との会合のために日本に来ている)のつるやホテルで、NJはシェリー(かって振った音楽性が不一致の女性で今はシカゴ在住)と寄りを戻しそうになる。NJは拒否する。

恋人はチェロと母親の二股英語教師を刺殺する。下を見下ろす。結婚式の最中に倒れた母親(姉にとっては祖母)と姉の対話。蝶の紙(?)細工。

結婚式ではじまり葬式で終わる。

2時間くらいたったところで、ふと全然終わりが見えないなぁとパッケージを見てほぼ3時間の作品だということに気付く。

これも抜群だった。

ヤンヤン 夏の想い出 [DVD](-)


2025-05-06

_ カップルズ

『カップルズ』は映画館で観たのだが、そのうち再見したくなるだろうと購入しておいたので、恐怖分子、ヤンヤン(この2本は映画館では観ていない)に続いて観た。

フランス人のいろいろ過去がありそうな女性が東アジアに来てというところが、御厨里美の裂けた旅券を思い出したりもするわけだ。あちらはマレット、こちらはマルトなのでもしかしたら関係なくもなくはないかも知れない。しかし映画でマルトといえば、何よりもブレッソンの白夜を想起する。が、台北にはセーヌ川は流れていない。

盗んだ(らしい)軽トラ使ってターゲットの自動車を破壊しては、歯磨きという名の坊主頭の小僧にイカサマ預言をさせてターゲットから金を毟り取る不良4人組が主人公。ただし本当の主人公はその中の新人のルンルンで、彼がパリ(ロンドン)から恋人を着の身着のまま追いかけて来たマルトに恋をするのが全体のストーリーとなっている。というわけで、他の作品よりは群像劇というよりも求心力がある。

マルトの初登場シーンには3人の人物がいて、目当てのマーカス(ロンドンを食い詰めて台北に流れて来たが、今はパトローネのおかげでデザイン(内装の、らしい)事務所を構えている)、テレクラ社長(中年の白人女性で、元は10年前に流れてきて体を張って生きてきて、今では自分を売る立場から他人を売る立場となっている)、マーカスのパトローネのジャスミン(というような名前の女性で、父親が巨大企業の社長なので金を持っている。この後、ホスト的役回りのホンコンに入れあげていろいろ厄介なことになる)だが、いきなりテレクラ社長を新しい女と勘違いして突っかかる。と言う具合にアジア人を対等な人間として見ていない(それが続くシーンで平然と男二人連れのトラックに乗り込んでホテル代を出させたりする態度に繋がるのかも知れない)。それがいろいろな目にあって、少なくともその目の曇りが晴れる成長譚としても見ることができる。

4人組のうちリトルブッダ役の歯磨きはやることしか頭にないダメ人間、リーダー格のレッドフィッシュは父親(非道な商売でのし上がった極悪人らしい)を尊敬していると同時に越えようとしている極悪人候補だが父親の最期の言葉に引っ張られて何を信じるかを見失ってしまう、ホンコン(牯嶺街少年殺人事件の主役らしい。背の高さはわかるが、10年たって違う人みたいに見える)は女性の提供係でジャスミンの出資先をマーカスからレッドフィッシュへ乗り換えさせるために暗躍中(ホストが貢がせる手口ってこういうのかなぁと思わせる)だが最終的に自分が逆の立場に追い詰められて人格が崩壊する。ルンルンは父親が経営するホステル(だと思う。欧米人がたくさん居ついている)のおかげで英語が喋れることを買われて仲間入りしたのは良いが、騙して稼ぐということに対していろいろ思うことがある。

現代は麻將なので明らかにこの4人組が主人公なのだった。

最期のルンルンのシーンが特に美しいのだが、寝そべる父親とレッドフィッシュの会話のシーン、その後の屋外の明るさの中で父親の新しい恋人の女教師とレッドフィッシュの会話のシーンも良い。

ルンルンが角の屋台で何か買って(いつも買う)家に入るシーンの直前に2台のバイクが停止する。

映画の大きな部分を占めるのはレッドフィッシュとルンルンの軽トラ内でのシーン。

求心的な物語があるだけに映画としてのまとまりは抜群だが、基本夜と薄暗い室内なので(それだけにレッドフィッシュと教師のシーンが美しい)どうにも陰惨な印象を受けなくもない。

たとえば同じ台北の夜の物語にナイルの娘があるが、カップルズ(4人組を2組×2としたわけではないだろうが、なぜこういう外国用の題としたのかはよくわからない)のほうがとってつけたようなモダンさを感じないのは不思議だ。

カップルズ [DVD](クー・ユールン)

本も売っているときに買わないと一生お目にかからないとは言うが、映画も同じことになるとは。


2003|06|07|08|09|10|11|12|
2004|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2005|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2006|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2007|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2008|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2009|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2010|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2011|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2012|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2013|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2014|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2015|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2016|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2017|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2018|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2019|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2020|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2021|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2022|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2023|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2024|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2025|01|02|03|04|05|

ジェズイットを見習え