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『カップルズ』は映画館で観たのだが、そのうち再見したくなるだろうと購入しておいたので、恐怖分子、ヤンヤン(この2本は映画館では観ていない)に続いて観た。
フランス人のいろいろ過去がありそうな女性が東アジアに来てというところが、御厨里美の裂けた旅券を思い出したりもするわけだ。あちらはマレット、こちらはマルトなのでもしかしたら関係なくもなくはないかも知れない。しかし映画でマルトといえば、何よりもブレッソンの白夜を想起する。が、台北にはセーヌ川は流れていない。
盗んだ(らしい)軽トラ使ってターゲットの自動車を破壊しては、歯磨きという名の坊主頭の小僧にイカサマ預言をさせてターゲットから金を毟り取る不良4人組が主人公。ただし本当の主人公はその中の新人のルンルンで、彼がパリ(ロンドン)から恋人を着の身着のまま追いかけて来たマルトに恋をするのが全体のストーリーとなっている。というわけで、他の作品よりは群像劇というよりも求心力がある。
マルトの初登場シーンには3人の人物がいて、目当てのマーカス(ロンドンを食い詰めて台北に流れて来たが、今はパトローネのおかげでデザイン(内装の、らしい)事務所を構えている)、テレクラ社長(中年の白人女性で、元は10年前に流れてきて体を張って生きてきて、今では自分を売る立場から他人を売る立場となっている)、マーカスのパトローネのジャスミン(というような名前の女性で、父親が巨大企業の社長なので金を持っている。この後、ホスト的役回りのホンコンに入れあげていろいろ厄介なことになる)だが、いきなりテレクラ社長を新しい女と勘違いして突っかかる。と言う具合にアジア人を対等な人間として見ていない(それが続くシーンで平然と男二人連れのトラックに乗り込んでホテル代を出させたりする態度に繋がるのかも知れない)。それがいろいろな目にあって、少なくともその目の曇りが晴れる成長譚としても見ることができる。
4人組のうちリトルブッダ役の歯磨きはやることしか頭にないダメ人間、リーダー格のレッドフィッシュは父親(非道な商売でのし上がった極悪人らしい)を尊敬していると同時に越えようとしている極悪人候補だが父親の最期の言葉に引っ張られて何を信じるかを見失ってしまう、ホンコン(牯嶺街少年殺人事件の主役らしい。背の高さはわかるが、10年たって違う人みたいに見える)は女性の提供係でジャスミンの出資先をマーカスからレッドフィッシュへ乗り換えさせるために暗躍中(ホストが貢がせる手口ってこういうのかなぁと思わせる)だが最終的に自分が逆の立場に追い詰められて人格が崩壊する。ルンルンは父親が経営するホステル(だと思う。欧米人がたくさん居ついている)のおかげで英語が喋れることを買われて仲間入りしたのは良いが、騙して稼ぐということに対していろいろ思うことがある。
現代は麻將なので明らかにこの4人組が主人公なのだった。
最期のルンルンのシーンが特に美しいのだが、寝そべる父親とレッドフィッシュの会話のシーン、その後の屋外の明るさの中で父親の新しい恋人の女教師とレッドフィッシュの会話のシーンも良い。
ルンルンが角の屋台で何か買って(いつも買う)家に入るシーンの直前に2台のバイクが停止する。
映画の大きな部分を占めるのはレッドフィッシュとルンルンの軽トラ内でのシーン。
求心的な物語があるだけに映画としてのまとまりは抜群だが、基本夜と薄暗い室内なので(それだけにレッドフィッシュと教師のシーンが美しい)どうにも陰惨な印象を受けなくもない。
たとえば同じ台北の夜の物語にナイルの娘があるが、カップルズ(4人組を2組×2としたわけではないだろうが、なぜこういう外国用の題としたのかはよくわからない)のほうがとってつけたようなモダンさを感じないのは不思議だ。
本も売っているときに買わないと一生お目にかからないとは言うが、映画も同じことになるとは。
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