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日々の破片

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著作一覧

2017-06-03

_ シュニッツラーを読む

本屋へ行ったら岩波文庫でシュニッツラーの中編集が売っていたので買った(いつかは忘れた)。で、読み始めて、2周間くらいかけて読了。

シュニッツラーという名前はウィンナという言葉とペアで知っているのと、たしか輪舞の原作者ということくらいしか知らないので、なんとなく世紀末ウィーンの文人とくらいしか知らずに読み始めて、世紀末というよりも第一次世界大戦後の世界夫人と別れたあとの世界が舞台のようだなと感じる。

3作収められている。

最初は『死んだガブリエル』という掌編で、友人の恋人を奪った(それは秘密)男が、自殺したその友人を恋していた別の女性と会話するという、初期のデプレシャンにありそうなシチュエーションと映像の作品。悪くない。1905年頃の作品だとあとで後書きを読んで知る。

次が相当に長い『夢小説』で、中年の医者とその妻の間にデンマーク旅行へ行ったときから始まる妻の別の男性への恋心の告白とそれに対する主人公の反応から生じる医者の恋の冒険物語のような(すさまじくご都合主義に次々と女性たちから愛される)奇怪な裏世界への探訪、最後に夢からさめたかのように元の家庭生活が再開されるまでを描いた作品。

これは傑作だった。作品としては。読んでいて類推されるのはバルザックの大傑作群だったが、主人公の徹底的な身勝手さとそれの犠牲となる女性たちという構造と、まったくそれに対しては無頓着な主人公(=作者)の身勝手さがあるように思える(と、21世紀倫理感を持つにいたった読者には目に余るものとして受容されるのだった)。

題のいい加減さが示すように、どう考えても、作家がいつでも放り投げられるように妄想を書き綴っただけのようにも思える反面、地理的な移動感(移動は馬車だ)、時間経過がきちんと描かれていて、妙な触感(リアリティへの目配せ)があり、しかし描かれる世界のあり得なさとあり得る可能性、中流家庭の主人公に配される下流の女性、上流らしき女性たち、おそろしく情動的でありながら客観的(主人公は常に自分の心理状態を分析しながら作品世界を冒険する)で、都市の迷宮性を作品構造の迷宮に収めていて抜群におもしろい。

1907年に初稿を作り、作品として世に出したのが1925年ということは、世紀末文学から世界秩序崩壊後文学を含めた作品なのだろう。

抜群におもしろいのだが、常に取ってつけた人工感が違和感としてつきまとい(何しろタイトルが『夢小説』だ)、それが実に微妙な陰影となる。

と、堪能したあとに『闇への逃走』(というか、このタイトルがあったので、食指をそそられて購入したのだ)というどこかコンラッド風なタイトルの作品へ進む。

神経衰弱(20世紀前半の文学的モティーフだ)による長期療養から職場へ復帰した男が、自分が実は殺人者ではないかという妄念に囚われ、絶対的な味方であるべきであり実際にそうでありそれは徹底的に了解しているにもかかわらず、兄に対する疑念を抱き死へ至るまでの道程を描いた、悲劇で終わるディックの非SF作品のような(一番の疑念は自分が自分が知っている自分であるかどうか、ということだ)作品。

読み進めるのが苦痛な箇所(あまりに主人公が迷い続けるのでうんざりさせられる箇所が結構な頻度で出現する)もあるが、全体としてはおもしろい。が夢小説ほど自由闊達ではないので、辛みもある。初稿1917年発表1931年ということは、世界秩序崩壊後に書き始めたということだろうから、それが影響している可能性はある。世紀末文学にある破滅へのわくわくする期待感(誰でも破滅はいやだが、破滅するのではないかという恐怖感は楽しめるものなのだ)が欠片も無いからだ。ひたすら陰鬱だ。が、これもまた傑作なのだとは思える。おもしろかった。それにしても逃走先が闇だと最初から明らかなのはなかなか思い切ったタイトルだなぁ。

夢小説・闇への逃走 他一篇 (岩波文庫)(シュニッツラー/Arthur Schnitzler/池内 紀/武村 知子)


2017-06-04

_ 新国立劇場のジークフリート

2日目だからなんなのか、どうもオーケストラが微妙で、特に1幕で退屈する。

2幕の森の音楽はとても柔らかくて新鮮で、おお、という感じだったのだが、ジークフリートが葦笛を捨てて角笛で小鳥と張り合おうとしているのに、まだ小鳥から教わっているような状態で、えええええと感じる。最後は不協和音で終わって、それはそれでトリスタン後ですなぁという気分となる。

グールドも1幕では、子供の扮装が似合わな過ぎて(デブッチョっぷりが異様に強調されて、あれ、こんなにこいつ太っていたのか? と驚く)いまひとつ。鍛冶の歌も途中から記憶が曖昧となる。

が、セーブしていたのか! と目が覚める思いをするくらいに3幕は素晴らしい。

ファーフナーはハサミを持つサソリなのかカニなのか、大蛇とは異なる怪物で、兜甲児のように顔の中心に歌手を置いたものとして演出されて、これは良いと思った。ファーフナーのクリスティアン・ヒュープナーも良かった。人まさに死なんとす、その言や良し。

ジークリンデはヴァルキューレのテオリンではなくリカルダ・メルベート。とても良いと思った。が、テオリン(あまり好きではなかったのだが、ヴァルキューレは素晴らしかった)でも聴いてみたかった。

3幕というよりも2幕の途中ということになるのだろうが、マイスタージンガーやトリスタンを作ることで、ヴァーグナー=ヴォータンの世界計画は大きく変貌したと考えることができる。

3幕第1場は、今回再認識したのだが(エルダのマイヤー、ヴォータンのグリムスレイともに良いのだが、ただしグリムスレイは実にフォトジェニックなヴォータンなのだが声があまり通らないのでそこは残念)、ヴォータンは神々の滅亡の確信を持つに至ったのだが、まだ疑念は晴れない。そこでエルダの意見を聴きたいのだが、エルダはすでに力を失っている。失ったのは自分のせいなのでそれはしょうがない。そこで、エルダの意見をうかがいに来たはずが、滔々と自説を展開する羽目となる。確信が無いから延々と自説を展開するといっても、机の上のクマのぬいぐるみ(=エルダ)がいるから、それはそれで説得力があるシナリオとも言えておもしろい。

その自説では、跡目をジークフリートに継がせることが主眼となるのだが、ヴァーグナーはそれをきれいさっぱりあきらめている。ジークフリートは複雑怪奇な世界秩序を守るには頭が悪すぎる。

フリッカの指摘を受けてヴォータンは不介入を決意しているのだが(それはブリュンヒルデが引き受けたのを了解している)、にもかかわらずミーメにノートゥングの再生方法を教えたりして相変わらず方向性を決めていて、結局だめなのだ。

が、ブリュンヒルデも世界を救済することはできない。

ヴァーグナーの作品世界には一貫している点があって、救済できる女性には処女性が必要なのだ(そこが、ヴァーグナーの旧弊っぷりというか女性観の限界というか、そういうおっさんなのだろう)。だからゼンダはオランダ人を救済できるし、エファはドイツ伝統の魂を救済できるし、エリザベートはタンホイザーを救済できるが、エルザは故国を救済できず、イゾルデは全員を不幸にする。エルダは眠ってしまって、もう未来のことは語れない。

当然ブリュンヒルデも世界を救済できるはずがない。できるのは破壊だけなのだ。それが3幕3場での異様なまでのためらいとなる。すでにして待望のジークフリートが目の前にいるのに、唐突にためらいまくって長々と歌うのは見せ場を作りたいのではなく、ヴァーグナー自身の本当に世界救済の役回りをこの二人から奪って良いかどうかのためらいでもあるのだろう。うんざりしないでもない。が、やはりヴァーグナー全作品中でも屈指の傑作でもある(ジークフリートの3幕3場は)。

かくして、むしろヴァーグナーの本来の思想通りに、世界は生き残った単なる人間たちが勝手に作り上げることになる。民主主義の到来である。

ゲッツフリードリヒの演出は、これまでのところ、そういう解釈と読める。というわけで、次の神々の黄昏が実に楽しみだ。

#まったく気づかなかったが、あとで子供からアルベリヒの手が鉤爪(フック船長だ)になっていたと教えられる。演出が細かい(ラインの黄金では、超乱暴なことに、指輪を奪うためにヴォータンは手首から切り落とすのだった)。


2017-06-20

_ 0xC1900101-0x2000Cを解決してCreator Update完了

メインマシンの更新が常にSafeOSフェーズでロールバックされていて、どうにもこうにもいかなくて、結局、正攻法で解決した。

デバイスマネージャを眺めても何もおかしなところはなく(すべてのデバイスは非表示デバイスを含めてすべて正常に動作していることになっている)、まったく手が出なかったのが2週間くらい前から続いていた。

とりあえず、MSDNからDVDを落として、ローカルインストール体制を作ったが、まったく関係ない。

当然、chkdskとか、クリーンブートとか、dims.exe /Online /Cleanup-image /Restorehealthとかを行う。まったく関係ない。

とにかく、0xC1900101-0x2000Cなのだ。

検索すると、利用していないドライブを付けているのを外したら解消とかはあっても、こちらにはそんなものはない。

Windows 10 アップグレードのエラーの解決: IT 担当者向けの技術情報を眺めながら、$Windows.~btのログを見ながら解決するしかなかった。

このディレクトリは隠されているので、コマンドプロンプトからは入れないが、通常レベルの隠しファイルを表示するモードにしているExplorerには表示される。

というわけで、$Windows.~bt\Sources\Rollback\setupapi\setupapi.dev.logを調べる。ファイル名は間に修飾が入って、このままではないが、見ればすぐわかる。

最初は2つのエラー群があった。いずれも3~4行くらい。

で、1つは、XMLがおかしいというような内容で、良くみるとhdauのような文字列が見えた。

というわけで、正常に動作しているRealtek Audio(蟹さんか……)をデバイスマネージャからチェックしてみたら、ドライバーの更新ができることがわかり、更新した。セットアップをやってみると、やはりSafeOSフェーズでロールバックされたが、ログからは消えたので解決。

次が難物だった。さっぱりわからん。

が、出ているGUIDで検索するとセンサードライバーだということがわかった。

センサードライバーには、Visual Studio geoなんちゃらシミュレータというのが登録されていて、これも元気に動いていると報告されている。

が、日付を見ると2012とかあって、もしかすると、こいつか? と削除。

これが当たりだった。というわけで、朝見たら、スタート右クリックでPower Shellが出ている状態になっていた。


2017-06-21

_ 死と微笑

3月の木曜日に妹から電話があって、そろそろ父が危ないから明日は来た方が良いという。

もう長くはないからいてもしょうがない、どうしますか? と医者に聞かれて、家に帰っているのだ。

それで仕事を休んで、そろそろ行くかと思ったら、また妹から電話があって持ち直したから土曜でも良いとか言う。そうは言ってもどうせ仕事を休んだから行くよといって、妻と子供と出かける。

家に入ると、妹に酸素吸入器を付けたり外したりさせている父がベッドで寝ている。本人は酸素吸入器をつけるのがいやらしいのだが、なければろくに呼吸ができないのだからしょうがないのだが、どうしてもいやらしい。

もう、ほとんど食べも飲みもしていないから、とのことだけど、そもそも息もろくにしていないのだからしょうがない。

なだめながらマスクをしようとしている妹と場所を交代して枕元のほうへ進む。人の顔を見て何か言っているので挨拶する。しばらく何を言っているのかあれこれ尋ねてみるがなかなか当たらない。どうも来訪の礼を言っているような気がしないでもないが、良くわからない。

そのうち妻の名前を呼んだ気がするので、枕元を交代。

また交代してしばらく、何か言っているのでつきあう。そのうち、どうも子供の名前を呼んでいるような気がする。

もちろん来てるよ、と言って代わる。

子供が顔を近づけると、なんかすごくうれしそうに微笑んだ。すっかり死にかけていてもこんな良い顔をするんだなぁと少し驚く。

風邪をひいているとかで奥のほうで寝ていた母もやってきた。

家族揃い踏みだ。

苦しそうなので、呼吸器を回すと、もういらないと言っているようだ。

そうは言っても、苦しそうなので軽くのせておく。

子供は結構ひどい風邪をひいていて辛そうなので、そろそろ帰るよといって、さよならを言う。

意識はまだあるらしい。来てくれてありがとうのようなことを言ったような気がする。

顔を近づけて今までありがとうと言って、ずいぶん小さくなったような気がする頭を軽く抱えてみる。

やはりマスクはもういらないらしい。全員の顔を見て満足したのかな。微笑というのは微かなものなのだなとか考えながら、ずいぶんと穏やかな感じの顔を眺め、長いお別れをもう一度言った。

家に着いてしばらくして妹から電話があった。あれから30分後くらいに息を引き取ったとのことだ。

そういうことならもう少しいても良かったなと思ったが、子供の咳き込む音が聞こえるのと、全員が顔を見せた後の素晴らしい微笑みを思い出して、まあ、こんなものだろうとも思う。


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