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『都市と都市』読了。
むちゃくちゃおもしろかったが、プロジェクト・ヘイル・メアリーと違って1晩で一気読みとはいかず、えらくちょびちょび読むことになった。なんでだ?
で、おそらくSFはSFでもプロジェクト・ヘイル・メアリーはサイエンス・フィクション、都市と都市はスペキュラティブ・フィクションだからなのではないか? と気づく。思弁側には特に決まりはないが、未来でもなければ宇宙でもなく妙なガジェットもなく普通にSNS(とはいえMySpace)がある現在よりちょっと前、執筆された頃の地球の古都が舞台だ。
では何がSFかというと、異なる国家、異なる文化の2つの都市が同じ場所にあったらどういうことになるのか? というスペキュラティブだからだ。
しかも現実味を消すために、かたほうの国家は資本主義だが経済状態は悪く文明度が低い、かたほうはどう読んでも旧東欧諸国だが経済状態は良く文明度は高い、という現実のたすき掛け設定にしている。
(というか、ちょうど2冊続けて読んだが、ラストはプロジェクト・ヘイル・メアリーも都市と都市も主人公は同じ結末を迎えるところがおもしろい)
つまり主人公は、プロジェクト・ヘイル・メアリーと180度異なり、まさに現実世界にやって来るのだった。
アマゾン評の星一つ軍団の中に異様な長文があって、他と異なり本質を突いていておもしろい。で、この長文人が書いている失速する第3章がまさに失速しているがゆえに一番スピード感があって読みやすいという皮肉もある。
あと、翻訳はおそらく口語表現を正しいニュアンスで日本語化することに失敗しているのでは? とコンテキストから判断せざるを得ない箇所が多々あって、これは読みにくさというか読解のハードルを上げているように思う。第3章は会話が減るため、そのハードルが取り払われているということはありそうだ。
特に問題は「ブリーチ」でカタカナで書いてあるので普通にbleachだと受け取って読んでいたがbreachじゃん。おそらく70年代以前ならカタカナで放置せずにたとえば「侵犯」という実存日本語かあるいは「裂入」(造語)とかに翻訳すると思う。原語読者はなるほどbreachを政治用語/(この)都市用語としているのだなとすぐに理解できるが、「ブリーチ」なものだから存在を漂白=希薄化するってことか? と読んでしまって最初意味が取れなかった。「リ」となる言葉にはご用心だ。
と、カタカナ放置語が多いのは翻訳家の手抜きなんじゃないかなぁ(せめて初出時に原語表記があれば良いのだが、って科学読み物とかではないから、やはり翻訳すべきものだ)。
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