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多分ogijunさんのところで見かけたのだと思うが(追記:Kazuoさんのとこみたいだ)、これまた放置していたアラビア数学奇譚を読了。
いや、これは楽しかった。ペルシャの田舎で羊飼いをしていた稀代のかぞえびとたる青年とバグダッド育ちの青年が旅先で知り合うところから始まる、おとぎ話の世界だが、20世紀初頭のブラジル人が書いたとは思えないほど(ちょっとだけキリストについて書いた部分が出てくるがそれが妥協だったのかも)、アラビア風な物語、つまり千夜一夜物語でおなじみの何かというとアラーを称え、機知に富んだ会話のスタイルで書かれている。
出てくる問題のいくつかは(この本がもしかしてオリジナルなのかも知れないが)すでに知っているものだったり(35頭のラクダを、長男は1/2、次男は1/3、三男は1/9に分ける問題など)するが、もちろんへーというようなものもたくさん。特に気に入ったのは、サンプルによって誤った結論を導く例として出された2025、3025、9801の平方根。
さらに、この物語は数学史にもなっていて(歴史のお話が出てくるのもアラビア風なところ)、いろいろ知っている話やちょっと怪しい話なども出てきて、楽しい。インドが正しいかどうかはともかく、ゼロの発見の話は、僕は間違って覚えていたようだが、無いことを示す原点たるゼロでなく、桁をそろえて計算するためのフィラーとしてのゼロという記号の話だったのだな。
で、主人公たるかぞえびとはある詩人の娘の家庭教師もするのだが、女性が数学を学ぶことについて懐疑的な意見を聞かされて困惑している父親たる詩人に対して、ヒュパティアという優れた数学者のことを教えて納得させるのだが、ううむ、僕はヒュパティアの最後について知っていただけに、その例はいまひとつではないかと思ったのだった(もちろん、最期については書かれていないのだが)。が、彼女の最期に責任があるのはキリスト者だしな。
「真実として迷信を教えることは、とても恐ろしいことです」
それはともかく、代数と幾何学を学ぶ意義について、かぞえびとが説明するところはすばらしく美しい。そこで疑問に感じたのは、歴史とかのように社会科や英語には副読本があるのに(学校教育の話)、いや、あるのだからこそ、数学についても、こういった副読本を使えば良いのにな、ということだ。なぜ、副読本がないのだろう? 数学史だって良いと思うし。
というのは、人によるとは思うけど、手続き型プログラミングのほうが主流だということと同じ理由により、物語を伴うことにより良い意味で導入がスムーズになるのではなかろうか。つまりコアだけを教えるのではなく、ゆとりが必要ということになるのだが。学際の部分を同時に学ぶことが逆にコアを学ぶことに対する求心力になるのではないかと思う。
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