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文化村で子供と映画(パリ・オペラ座のすべて)。踊りの映画というよりは、文化装置の育て方という趣がむしろ強く、そっちの面がむしろ面白い。
映画としてはだれまくるので(3時間とかばかみたく長い)、名前忘れたがツールやルーブルなんかのドキュメンタリーを撮った監督が撮ったのを見たかったなぁとか思う。(が、ばかみたいに長いことを除けば悪い作品じゃない。が、映画じゃなくてテレビでも通用すると思った。というかテレビだな。それじゃぁCMによるインターバル抜きに3時間は長すぎるよ。3時間っていったら優れた映画のみに許される時間だ。1900年とか、クーリンチェとか)
ジェニュスという作品の練習風景がおもしろい。ワンツースリー、タカタカタッ、そこではもっと引き寄せて、それからちょっと手を離し、あそこをこっちでカタカタタッ、ワンツースリーフォッ、ウンパラパ、みたく振り付け師がラップ調でずっと指示を出している。他にも練習風景はたくさん出てくるが、ここまでリズムをずっと刻んでいるのはこれだけだ。えらくおもしろい。
一方、ルテステュとかのパキータの練習だと、爺さんとばあさんの二人組みが指導しているんだが、2人の意見がまったく合わない。爺さんが首を振ると酔っ払いみたいだからやめろと言えば、婆さんはわたしゃここでは酔っ払ってるほうが素敵だと思うと言うし、ことごとく意見は対立し、何も解決しない。で、ルテステュは勝手に解釈して踊る。
おれは、この練習風景はすごく感激した。ルテステュは文句なしに世界最高のバレエダンサーの一人で(こないだ買って見た椿姫で知った)、当然、(指導している人たちは)往年の大ダンサーかも知れないが、だからといって何かを教えられるわけでもあるまい。だから、異なる見方をする二人の(それなりの)人間がそれぞれ自分はこう思う(が、隣のやつは別のことを思う)、さあ、お前は自分の頭で考えろ(これは口には出さない)、という指導になるのだろう。教科書通りをさらに進めたコーチングだな(おれが教えられるのはここまでだ。後は自分でものにしろ、というコーチングはメディアの練習で見られた)。
La Dame Aux Camelias/ [DVD] [Import](Agnès Letestu)
そして芸術監督のあれこれのてきぱきぶり。年あたり25万ドル以上寄付するクライアント(リーマンブラザーズの名前が出て一抹の寂しさというか失笑が場内を流れる)を満足させるためのプログラムを決めて、コールドバレエから自立して稼げる人材を掘り出すことを演出家に要請して(あなたがスタジオに顔を出して一本釣りしたとして、もしオーレリが引き受けたとしたら、彼女はそれはすさまじいからすごいことをするとは思うわ。でも、わかって欲しいのは、F1カーに公道を走らせるようなことはしないでちょうだい)、年金制度について政府の役人らしき人たちにバレエダンサーの特殊性を訴えて(たぶん、フランス版の仕訳だろう)またそのプレゼンがえらく説得力があるのだが、さらには学校としてのオペラ座バレエ団が持つ技術伝承の重要性をコーチへ訴えたり、ダンサー個人の要求を調整したり、次々とてきぱきさばくのは観ていて感嘆する。あまりの辣腕っぷりに、エコルドノルマルあたりで芸術経営の博士かなにかをとったエリート官僚なんだろうと思ったら、もともとオペラ座出身のバレエダンサーでその後自分の団を設立してから文化庁入りしたという、技術者−ベンチャー経営−官僚というキャリアの人だった。にしても、理屈をきちんと話せる人ってのは観ていて気持ちが良い。この人が出てくる部分は誰が見てもおもしろい/参考になるだろう。
それに比べると舞台のほうは映画として今2つくらいで、それはテレビ的な映し方が原因だと思うが、特にデュポンが出てくるロメオとジュリエットがつまらな過ぎてうんざりした。映画がつまらなければベルリオーズの劇的交響曲ってこんなにつまらない曲だったっけと曲もつまらなければやたらと裸足にフェチフェチする演出もうんざりだった。
ジェニュスとメディア(でも、ちょっと乱暴かな。曲は良いと思ったが演出は鈴木忠志っぽい――つまり古臭く感じた)はすごく気に入ったけど。
特にジェニュスは日本公演して欲しいなぁ。植物の成長というか、菌の繁殖というか、体の動きがえらく生物的で、これはダンスという身体表現ならではの作品だ。なんか昆虫っぽい動きのダンサーも見えるし、genusというと生物分類上の属のことだから、いろいろな生物がうじゃうじゃいて世界はおもしろいというような作品なんだろうか。
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