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背広に袖を通すと、子供が小さかった頃のことを思い出す。
勤め先に行くときにスーツを着て行く必要がなくなった月曜日、いつものかっこうで家を出ようとしたら、子供がにこにこしながら着いてくる。はて、と思いながら抱っこしておろして、さて玄関のドアに手をかけたら泣き出した。
困った。
後になって妻と、どうやら、スーツを着て出て行く=連れてってもらえない、スーツを着ないで出て行く=一緒に遊びに行く という公式を頭の中に持っていて、一緒に遊びに行くと思ってにこにこしていたら一人で出かけようとしたので泣いたのではないか、と結論した。
もし、もっと小さい頃なら、そこまで頭が回らないだろうから、別に泣くこともなく、もっと大きければスーツを着て行かないようになったと知っているから泣かないだろう。
というわけで、まさにそういう貴重な経験ができるときに、それが起きたのだった。そういう小さな偶然の組み合わせが大きな思い出になるということが、どうにも楽しい。
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いい話です。