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ロイヤルバレエのうたかたの恋。
ルドルフがコボーで、男爵令嬢のほうのマリーはリャーンベンジャミンという人。リャーンのエロティックな踊り(多分、体の柔軟さと筋肉のつき方の美しさに負っている)とコボーのどえらく表現力があるソロに深く感じ入る。これはおもしろさという点ではともかく、20世紀のバレエ作品(苦悩の表現が、それまでせいぜい喜怒哀楽しかなかったバレエに導入された、大仰に言えば)としてとても優れた作品だと思った。気に入った。良いものを観られた。二人で踊るときは(1幕ではソフィー皇女とだけど)とにかく投げて受け止めての大連続で、小柄なコボーにルドルフを演じさせるには小柄な踊り手が多いロイヤルは良い環境なんだろうなぁとか思ったが、それにしてもこれだけ観ていて派手に美しいのはなかなか無いと思う。
演目についてはろくに知らずに行ったため、筋は追えるものの誰が誰だかさっぱりわからなくて閉口した。(プログラムは通しなので、今回は買わなかったし予習もしていなかったからだ)
いきなり、冒頭、おれの大好きなファウスト交響曲で始まる。
ああ、ハンガリーが関係するからか、と納得したが、その後も2幕でメフィストワルツは出てくるし、どうも全編リスト三昧だった(当然のように知らない曲もたくさんある)。
驚くべきなのは、オーケストラがとてもバレエとは思えないほど良い音を出していることで、休憩時間中に友人とやはりオーケストレーションがまともで遣り甲斐があるからじゃないか、とか話し合う。
ファウスト交響曲は、中学生のころ、クラシック(というよりロマンティックなのだが正確には)を聴き始めたころ、それは聴きたくて聴きたくてたまらなかったのだが(冒頭にいきなり12の音を散らすとか、リストの持つ反逆の前衛魂の炸裂交響曲だという知識だけは入ってくるわけだ)、実際に聴けたのはバーンスタインがCBSとの契約が終わってDGからレコードを出し始めてからだ。
今アマゾンを見るとDVDになっている。
バーンスタイン/リスト・ファウスト交響曲 [DVD](ボストン交響楽団)
これは素晴らしい名演だと思うのだが、何しろそれしか音源が無いのだから比較してどうこうはできない(LPなのでとうの昔に廃棄してしまった)。バーンスタインという現代的なアナリーゼができてかつ表現力が多彩な指揮者と、ボストンというアメリカの機能性とフランスの音色を持つオーケストラ、ハンガリー生まれパリ育ち無神論者だと思うのにカトリック神父、ヴィルトォーゾなのに技術否定という矛盾の塊のリストという組み合わせ。
ただ、さすがに第3楽章まで来るとだれたような記憶がある。
CD時代になったら、バーンスタイン版は入手できなくなっていて、代わりにショルティ・シカゴが出ていたのでそれが手元にある。
これは、悪くないどころか、聴いている間のおもしろさではバーンスタイン版より遥かに上なのだが、ヴァグナーの前座としてのリストという側面が強調され過ぎているような気もする。イデ・フィクスからライトモティーフへと続く音楽史の中のエピソード的な扱いというか。
そこが気に食わなくて、つまりそれはフランス風な要素の欠如だろうと、あとになって買いなおしたのが、バレンボイム・パリ(と思って買ったら実はベルリン)なのだが、これはだめだ。
わざわざドミンゴを連れてくるという豪華っぷりなのだが、これくらいつまらないリスト=みんなが良く知っているリスト、というような演奏もないんじゃなかろうか。
と、踊りはすばらしく、音楽は絶品(に近い)と、平日にわざわざ観に行った甲斐があった。
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