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未知の作家だが生来のロシア文学好きなので買ってストックしておいたガルシンの紅い花をちょっと前に読了したので記録。
表紙には精神病院で悪との闘いにどうしたとか買いてあるので、帝政ロシアの政治犯が精神病院に入れられて……というのを想像していたら全然違った。
文字通り、庭に咲く紅い花と闘い、最後には勝利するものの衰弱死する正義の人の物語だった。まあ、傑作かなぁ、歴史的には。
それよりも、リアリスティックな、クリミア戦争で脚を負傷して身動きが取れないのに、トルコ兵の死骸と向き合う状態で置き去りにされた兵士の心の動きを描いた作品(『四日間』)が、見事だった。最初は単なる撃ち殺す対象だったものが、死人という認識に変わり、一種の同僚という考えに変わり、というような当たり前なヒューマニスティックドラマとは異なるのは、切迫感の描写がすぐれているからだろう。何かのはずみで映像的に思い出すようなタイプのすごい作品だった。
ところが、読み進めると、さらにそれよりも、鉄道の番小屋の忘れられた人達を描いた作品(信号)が鮮烈で、映画的作品という言葉がこれほど当てはまる作家はそうはいない。折々の自然の移り変わりはヴィクトルエリセのようであるし、心象風景と実際の風景の一致のさせかたや、細かな生活感の描写はフドイナザーロフのようだし、列車が近づいてくるところのリアリティはゲルマンのようだ。恐るべき作品である。
で、さらに読み進めるとアッタレーア・プリンケプスという寓話になるのだが、これもまた心理描写のうまさと、荒涼たる外の世界と平穏たる(そこへ住む人というか植物たちは違うわけだが)内の世界の対比の的確さに讃嘆する。
なぜこれ程の作家(リアルな質感を持つ世界を美しい言葉の連なりで構築する才能がある人)が紅い花と闘わなきゃならないんだ?(寓話の切れの良さがあるわけでもなく、象徴主義や耽美主義としてはそれ程できが良い訳ではない。が、異常な迫力があるのでますます不思議になる)と疑問に思う訳だが、訳者の解説を読むと、ガルシン本人が統合失調したからのようだ。
ジェズイットを見習え |
おお、ガルシンだ。ダイナミックなコントラストがすごく印象的ですよね。なんかあの、港湾事業で儲けまくってる旧友のキャラが好きです。おれ馬鹿だけど金もってんぞ的な。
その話ははいってないみたいだけど、なんてやつですか? 相当読みたい。
あれれ、勘違いかな。題名が出て来ないんですが、駅について波止場に行ったら旧友と偶然会って、家に行って...って話なんですが、違う人だったかしらん。
ううむ、おもしろそうだ。モーパッサンあたりにもありそうだけど、全然違うんだろうなぁ。