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学校ねずみのフローラ (子どもの文学―青い海シリーズ)(ディック・キング=スミス)
子供に何か本を貸してくれと言ったら、子供の頃読んだらしい本を貸してくれたので読んだ。
学校に住んでいるから学校ねずみのフローラは、好奇心が強く、人間がやっていることに興味しんしん、ついに文字とは何かを知って勉学に励む。字が読めるおかげで、ネズイラズというおいしそうな食べ物の注意書きを読むが、時すでに遅し、兄を始め兄弟は全滅、辛うじて両親(と次の年の弟妹たち)は命を取り留めたものの学校を怖がって出ていってしまう。
というようなお話なのだが、兄弟達が次々と死ぬ(農場に逃げた弟妹も1人を除いてイタチに食われる)と、ピーターラビット同様、過酷な生活ではある。というか、日本の児童文学が死なな過ぎなのかも知れない。このあたりは、興味深い。
最後は妹が恋人(になるはずの子供)を連れ帰って、本人も妊娠、母は3度目の出産、とにぎやかになっておしまい。
図書室に開いたまま置いてあった百科事典がたまたまげっ歯類のページだったので、糞によって検出されると知って対策をねるとかはおもしろい。性格的には親父のだらしなさというか大らかさが良い味だ。
そしてもう一冊、同じく本を読むねずみの本も貸してくれた。どちらもメスねずみが主人公だな。
小説的な面白さはこちらのほうが上だ。主人公のネズミが字を読むようになった理由はより切実で、白子だということから差別されて、図書室というネズミが生活するには向かない、つまり食糧を入手しにくい部屋を割り当てられたからだ。
割当てるってのは、独裁者がいるからで、特に参謀役のヨーゼフが良い味をだしている。というよりも、教養ある無能人の大統領を、力もあればそこそこ知恵もあるネズミが、うまいタイミングで失脚させて支配権を獲得するのだが、その後も政権を維持するためにいろいろ工夫を凝らすのが楽しい。で、差別されている1人を含め、みんなが付和するわけだ。その付和の仕方が実に生々しい。それこそが恐怖である(著者は2種類を書き分けている。恐怖から沈黙する少数と、大多数の熱狂的な賛意だ。どちらも結果は変わらない支持で、しかも皮肉なのは少数の沈黙者が勇気を振り絞ると、かっちりと殺されるという現実性だ)。
解説を読むと、筆者は講演などで、年寄の言葉に耳を傾けなさい、すぐに失われるから、と唱えて回っていたらしい。
多分、彼の危惧は正しい。1930〜1940年代初頭、君の曾祖父さんは何処で何してたんだい? と思わず聞きたくなるような言説を見かけることは多い。非国民だったのかな? それとも戦ったのかな? 戦ったとしたら何処で誰とかな?どういう状況でかな? どんな武器でかな? 何を感じていたのかな?そういう生々しい家族の1940年代を知っているのだろうか。
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