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「科学技術大国」中国の真実を読了。
「科学技術大国」中国の真実 (講談社現代新書)(伊佐 進一)
東大を出て科学技術庁、在中国日本大使館、文科省と歩いてきた官僚の人による中国の現状分析(新書だから感想ってところ)とそれに対する日本はどうすべきかの提言という感じの本。なかなかおもしろかった。
大ざっぱには、次のような主張。
中国には11億人いる。この数をなめてはならない。どういう意味か? 行列がきたないとかだらしがないとか無計画とか、ようするに中国のネガティブな面を見ればそれはおそろしくネガティブだ。というか、11億人いるということは日本人の1億でさえばらけているのがそれ以上ってことだ。仮に20:80でだめな人がいるとする。するとだめな人が8億以上。日本人の8倍だ。
というわけで、平均をみても意味ないし、ましてやだめなところを見るのはばかげている。では、上澄みはどれくらいいるか、その上澄みは本当にすごいのか、それを考えてみよう。
というわけで、アメリカで博士号をとった人の出身大学を調べると1位は清華大学、2位は北京大学。で、この人たちは頭脳流出したってことかというと、そんなこたない。海亀政策ってやつで超優遇するから、どんどん帰国してきている。
では恐るべきかというと、実はそうでもない。スパコンで負けた! と考えてみると実はそうでもない。インテル並べれば良いってわけではなく、実質効率は70%台だ。日本は90%台を叩きだしているんだから、その意味では日本のほうが技術はある(これ本当かな? SX8とかTSUBAMEとかでアーキテクチャが違うから一概に比較できないような)。でも有人宇宙船を上げるのはやはりすごいし、ペイロードを運ぶってことも実績を積んできている。しかも政治と技術と商売の結合もうまい。AA会議の席上でナイジェリアの衛星を打ち上げる話を冒頭に持ち出すとか、見事なものだ。
論文の数も被引用数も伸びているのは事実。というかほぼ日本と並んでいるし。
しかも中国のトップはその実情(実はたいしたことない点が多い、たとえばちょっとした応用だけとか)を把握している。
それにライフサイエンスという面からは臨床例の積み重ねができる、変な風土病がたくさんとか、いろいろ便利な面が多い(で、いかに日本と協力できるか書いているうちに、おそらく731部隊とか思い出したらしく、突然、きちんと協力の分化をしないとちょっといろいろまずい点もあるかも……とか尻すぼみになっていくのは読んでいて妙だった。というか、医学関係は変な協力をすると、外人の科学者に人体と生命を提供している問題とかになってしまうだろうし、ましてその外人が日本鬼子ではいろいろまずいだろうな)。
というわけで、向こうの上澄みとは大いにつきあうべきだし、それをうまく利用してやれば、市場はでかい、技術力はこれからだからうまい売り込みもできるかも知れないし、うまく組めばアジア市場を日中で制覇できるしヨーロッパなんか目じゃないぜ。デファクトだろうがデジュールだろうが思いのままだぜ。
でも、うまく協力しないと出し抜かれるのは間違いなし。
というわけで、インターフェイス協力、コアは見せないというやり方がいいよね。で、インターフェイス回りの周辺については手の内さらけ出しとか技術移転とかちゃんとフェアにやって、でも、握ったこぶしの中身は見せない。
そうやってうまいこと中国と組めるといいなぁ。
というか、そうでもしないと、本当に日本は滅びちゃうぜ。まだ、技術力も科学力も底力では勝っていると思えるわけだが、今のままじゃ本当に抜かれちゃうし、そうなったら最後、市場規模から行ったってもう太刀打ちできなくなるよ。今なら、まだこちらに有利な条件で組める。それが日本の生きる道ですよ、本当に。というか、サムソンみたいな枯れた技術の商品開発とかじゃなくて、先端技術のすげぇ日本でいいじゃん。その使い方込み、技術協力込み(でもコアは特許でおさえとこうね。中国も特許を守る国際ルールに従うほうが結局は自分のためと今では理解しているから。上澄みのほうは)で、中国とパートナーシップを組んで、恩義を売りながら、メンツを立ててやって、世界を支配しようぜ!
と、雑に書けばそういった内容だ。
主張はうなずけなくもなく、まあ、今の日本の取る道としては妥当な提言のようには読める。
で、やはりおもしろいのは(個々の中国のだめだめエピソードとかもおもしろいし、逆に中国すげぇのエピソードもおもしろいけれど)、最後の核心である、プロトコルの内部ブラックボックス化のところだ。
例はインテルプラットフォームにしているが、実におもしろい。
というのは、20世紀最後に、マイクロソフトが打ち出した生き残り戦略は、プロトコルの脱共有化で、おれはこのアイディアにはしびれたもんだ。つまり、徹底的にインターフェイスをオープンにするのだが、その一方でハードルをどんどん上げていくことで、オープンだけどプレイヤーがいやおうなく絞られるという仕組みだ。Officeがどんどこ機能が増えて、OOoとかがいつまでたっても追いつかないのはこれだし、SOAPがWS-*になってみんなRESTに行ってしまったのもこれだし、Ecma標準だけどMonoしかないのもこれだろう。というかミュゲルってすげぇな。
でも、21世紀になったら、戦略レベルではもっとつまらないがシンプルな方法がふつうになってしまった。それがプロトコルをシンプルにして内部をブラックボックスにする方法だ。
これはWindowsとそのAPIというのとはちょっと違う。もっと圧倒的な差の話だ。というとインテルよりも、GAEだな。内部ブラックボックスが成功するには、レベルが全然違う必要があるか、またはそのレベルに達するためのコストがとんでもないか、いずれかの必要がある。おそらくGoogleは前者、Intelは後者。
で、どちらの戦略も外部に対しては丸出しにしているところがおもしろい。デファクトでもデジュールでも良いが、インターフェイスは公開、場合によってはインターフェイス回りの周辺部品は低廉に提供(インテルの例だとチップセットとかバスの仕様とか)したり特許フリーにしたりとか。
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