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ダフニスとクロエは好きな曲だ。と言っても例によってバレエ版はいささか退屈なので聴くのはもっぱらアバードが振った交響楽版のやつ。
最初に聴いたのは中学の時で、音楽の時間に仲良くなったやつがアンセルメのを聴かせてくれた(おれが、たまたまドビュッシーの海の感想文を書いたので、印象派好きと思ったらしい)。で、気に入ったのでそれは良かったわけだが。
でも、古典とはいえ20世紀作品なのでそれほど舞台で観る機会はない。というか、これまで全然なかった。
それが大好きな真夏の夜の夢とカップリングだったので、楽しみに上野に出かけたのだった。
オーケストラはそれなりに頑張っていていかにも印象派の夜明けっぽい音が出ていて、そこにパンを大きく描いた幕があって、左手には山羊の頭を模した岩山というか原始的な寺院。そこに羊飼い達が踊りながら出てくる……のだが、まるでウェストサイドストーリーのような衣装で、ほー現代的な演出なのだなと思うのだが、舞台美術はどう見てもギリシャの牧歌時代の様相。そこに杖を持ってダフニスが登場。持っているのは羊飼いの杖(記号として背丈より長く上端が逆Uの字)だが、恰好はシャーク団だ。
で、ビフ(という名前が似合う)とクロエの取り合い(のかたわらヘレナ(という名前を真夏の夜の夢から借用)にまとわりつかれて)、最後はリーダーによって踊り競争となる。そこで、ああ、あの音楽はこういうものだったのか、と激しく納得するビフ(というか、この時点ではディズニー版美女と野獣のガストンとなる)のマッチョダンス、えらくおもしろいのだが村人たちに引きずり降ろされる。で、ダフニスの杖で腕をまっすぐに伸ばしたカカシ踊りが始まる。へー、と面白いなぁと思って観ていると優美な踊りに変わって、凡庸になる。村人大喜び。(なんか、こういう皮肉なストーリーは他にもあったな。ベックメッサーの前衛が老害親方達に排斥されて、マックスの古臭くて俗っぽい唄が大成功という、ヴァグナーの孫娘バージョンのマイスタージンガーだ)
という調子で楽しく進む。
が、海賊(これはどことなく17世紀風)が登場して、ニンフ(これはまったくもってギリシャ牧歌時代)やらパンの大神が出てくるので、時代感覚はむちゃくちゃでえらくおもしろい。
怪奇小説傑作集 1 英米編 1 [新版] (創元推理文庫)(アルジャーノン・ブラックウッド)
(パンの大神というとどうしてもアーサーマッケンの物語を想起してしまうので、とても微妙な感じとなる)
というか、音楽も踊りも一幕が一番おもしろかった(2幕の海賊団の首領のきれの良いダンスはいかしていたし(クロエの踊りは両手を縛られているのだが、1幕のダフニスのカカシダンスと対をなして腕を使わない踊りだな)、3幕のハッピーエンディングダンスも悪くはないが)。先頭の女性がハンカチを落としてしまったアクシデント。
それにしても、物語の無意味さには驚いた。ダフニスはパンの大神に指示されて、海岸で眠りこけているのだが、あれは何なのだろうか。役立たずも良いところだ(ナポリでは船に乗って助けに行くよなぁと思ったが、シルヴィアもお祈りするだけだったから、1対2で、海賊に恋人がさらわれたら神に祈るのが正解らしい、というかプロットはシルヴィアにそっくりだな)。
で、真夏の夜の夢だが、これはそれほど感心しなかった。タイタニアはきれいだし、オベロンのリフトも良いし、何よりも合唱が実に美しく、なるほどオーケストラピットに合唱団を入れるのは良い方法だと思ったりしたのだが、いまひとつ個々の動きにメリハリが欠ける感じで、特に粉をかけられた4人組の追っかけっこが今一つ愉快ではない。オーケストラもさえない感じ(子供が指摘していたが、ボトムの踊りの緩急の織り交ぜ方はおもしろい)。
しょっちゅう観ているABTのやつがうま過ぎるのかな?
The Dream 真夏の夜の夢 [DVD](アメリカン・バレエ・シアター)
とは言っても、楽しめた。でもロンドンのほうのロイヤルでも感じるのだが、日本公演だからかも知れないが、どうもコールドバレエがあまり揃わないんだよなぁ。揃えない振り付けなのだろうか。
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