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日々の破片

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2012-09-30

_ キアロスタミのライクサムワンインラブ

ユーロスペースで久々のキアロスタミ。

日本資本とか聞いて、いよいよイランで制作できなくなったのか、とやはり国防方面が強くなると自由は減るのだなとかうんざりする。

が、映画が始まるやいなや驚く。

いきなり電話による女性の一人語りが延々と続くからだ。しかも(最初はそれとは気づかないのだが)話者目線なので、誰が電話しているのかとかさっぱりわからない。

で、中卒社会人(ということはこの時点ではわからない)の知恵として、疑惑の人物が「~に居る」と既知の場所を口にした場合、そこのトイレへ行かせてタイルの数を数えさせる(もちろん、後から検証すれば良い)という小技を披露してタクシーで外へ出る。

新婚のむかでのジョーク(少しもおもしろくなく、主人公の女子大生はそれが何か本気でわからない)。

留守電が山ほど入っている。タクシーの中。移動中に声だけが流れる。サラ金の取立てが1件、祖母からの電話がたくさん。お仕着せがましい都会へ出た孫を心配する言葉。電話ボックスの張り紙を見た。途方に暮れている。銅像の前で待つ。

運転手へ駅のロータリーを経由するように頼む。

しずおか駅(たぶん、ちょうど良い銅像があったので利用したのだろう。本来は新宿駅だ)の銅像の下に黒っぽい田舎のおばあさんらしく見える服で立っている姿を映す。

もう一周。涙をぬぐう。

女子大生は後部座席に横になって寝ている。

場所がわからず、運転手がラーメン屋に入る。ひげのちょっとだけペロンパーを思わせる爺さんが荷物をいっぱい持ってついてくる。2階へ呼ぶ。

時間がかかる。(時間の経過の表現がうまいというよりも、実際に時間を経過させているのだ)

電話を何度も無視して留守番電話になったりする。弟らしき人物からの翻訳依頼。5行。息子への手紙で画商の話。

やっと相手をできる。最初は鸚鵡に言葉を教えている娘の複製画(日本画のモティーフで西洋画を描いた初期の例として説明されるが??)に似ている、次に娘の写真に似ている。最後に妻の写真に似ている。

食事は桜エビでだしをとっていて、それは女子大生が袋井の出身だからということになっている。

シャンパンを開けるが、女子大生は先に寝てしまう。

翌日、車で大学の正門近くへ来る。お話としてはしずおかから東京へ高速に乗って来たことになっている。

いきなり、正門前で男と言い争いになる。結局、振り切って校舎へ消える。テストだからだ。

男、たばこを吸おうとして火がないことに気付き、車へ来る。この間、ずっと目線の追い会い。

男、中卒で自動車整備工場の社長だと名乗る。あんたは祖父か? 疑問に対して答えることについての問答。答えない質問はしないことだ、と老人。

モーターベルトの異音に気付き、工場へ行く。ここで動きが出て、電話ボックスの張り紙を見せる。社長、部下へ一声ふた声かけて2階へ消える。殴った相手が大男だということを示し、空手3段だと女子大生に語らせる。

女子大生を本屋でおろし、一人になる。信号待ちの途中で寝息をかきながら寝てしまう。クラクション。

老人、車を止めると、おばさんの声で車の停止位置について言い合いになる。老人、無視して2階へ上る。

留守電。出版社からの校正依頼。電話が鳴り、出版社からの校正依頼が入る。途中で切れる。また電話が鳴り、それは女子大生からだ(老人の家はしずおかで、住んでいるところ、大学、自動車整備工場は東京のはずだから、時間と距離はこの時点でつじつまが合わなくなる)。電話が鳴るが無視して下へ降りる。

路地で座り込んでいる女子大生を見つける。クラクション。警官がうろうろ。後ろからクラクションが鳴らされるので発進し、裏へ回る。

すべてにおいて夢うつつで生きている人たちの話なのかというくらいに、電話とクラクションがひんぱんに入る。

二人で家へ着く。口の中が切れているので薬を買いに行く。先に家へ入っていろ。しかし女子大生は玄関で座り込んでいる。

という光景を薄いカーテン越しにとっていて、いよいよそれが取り除かれる。

塀の切れ込みに隣家の壁があり、その中央に正方形の小さな窓があり、それが開き、おばさんの顔だけがのぞく。

娘か?

あんたのお母さんが現れなければ、わたしが一緒になっていた。そうすれば家も近いし、弟が障害を負っているけど面倒も見られる。そうじゃないので、わたしはこの窓から外を見るだけだ。

とても怖い。

さらに追い打ちをかけるように、確かに障害を抱えていそうな人間が食事の片づけについて大声を出すのが聞こえてくる。おばさん、名残惜しげに窓から消える。

老人、帰ってくる。

二人で二階へ行く。昨日とかわらない食卓が映る(さっき、1人で帰ったときは、書斎の机側を映していて、食卓側は映っていなかったように思う)。1人分のグラスにはそのままワインが残っている(そういえば、蓋をしなかったようだが大丈夫なんだろうか)。

冷蔵庫からスープを出し、それから桜エビが嫌いだということを思い出す。(冷蔵庫から出したのは一人で帰ってきたときかも)

突然、社長の声。ドンドン叩く音。ドアが開く音、階段を上る音。ドアを蹴る音、怒鳴り声。

階段を降りる音。ガラスが砕ける音。おばさんの金切声など、たくさん。

老人、窓から下をのぞこうとする。最初は机の後ろの窓。次に左手へ消えて、そちらの窓(通りに面しているはず)。また机の後ろの窓。

バン。

おしまい。クレジットは短め。静岡と横浜が撮影に協力。

すごく、おっかなかった。特に、おばさんが怖い(もちろん、社長も怖い)。ラストもおっかない。

おそらく、脚本はテヘランを舞台に考えていたのではなかろうか。内容は普遍的で、銅像の下のおばあさんが、黒いチャドルでもまったく違和感がない。

日本で制作することになっていじくったのはおそらく画の説明の部分くらいで、それ以外はどこの国でも通用しそうだ。

映画作家としてはこれより先はないだろうというくらい、すさまじい表現力で、まったく息もつかせない。

実におもしろかった。


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