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先週から読み始めて結局昨日で一気読み。
ポルノ、ハードボイルド、ヴァンパイアもの、SFとジャンル小説を匿名で書き散らしている大して売れてない小説家が、3ヶ月後に死刑を控えた連続猟奇殺人事件の容疑者(刑は確定してるから犯人と言っていいんだろうけど、いちおうそこも謎のうちとして容疑者)から手紙をもらう。告白手記を書かないか? から始まるミステリーなんだけど、人間関係の上手さがおもしろい。
ハードボイルド作家としての自分のシャドーをして貰っている花屋とか、そこから絡んでくる(でもさらに深い線でのつながりもある)DJとか、ヴァンパイアものの大ファンの弁護士見習い(初めて目の当りにする自作のファンで舞い上がるのだが事情があって自分が作者とは名乗れない)、ヴァンパイアもののシャドーでもある母親(というのが事情)。
(アルファベット3文字のDJってのは多いのかなぁ)
奇妙なのは主人公の作家と殺人鬼は両方とも父親が不在で、いや、正確には主人公のビジネスパートナーの女子高生以外の人物はすべて父親が不在で、女子高生の父親も不在がちだ。この父親が不在という関係から何か違和感がある登場人物がいるのだが、まあそうなんだろうなぁと落ちがついたりもしたり。
その父親の不在さを埋め合わせているのが主人公の中年男とビジネスパートナーの女子高生の関係で、この関係が心地良い。小生意気で見下したというか呆れたような口をききながら、なんだかんだと世話を焼いてくれたりする。
で、こういう関係って結構ポストハードボイルドでは利用されてるよなぁという気になるのだが、ゴースケ&マレッタ(この二人は恋愛にまで進んだけど)、オデッセイ&プチ、丈太郎&かすみ(違うかも、というか本当の父娘だった)、キートンと娘とか、思い出すのは日本のマンガばかりだった。が、そのくらいに相性が良い。
LIVE!オデッセイ (上) (双葉文庫―名作シリーズ)(狩撫 麻礼)
後、妙に面白かったのがヴァンパイアものの読者の習性みたいなのが書かれてるんだけど、これがもちろん小説として誇張してるだろうけど、さもありなんな腐っぷりでトワイライト(これはジュヴィナイルなんだろうけど)とかの受容層とか思い浮かべて合点したり。
トワイライトIV 最終章 (ヴィレッジブックス)(ステファニー・メイヤー)
というか石蹴り遊びとか出て来てそれがつぼに入ったり。
石蹴り遊び (ラテンアメリカの文学 (8))(コルターサル)
ロブグリエがポルノとして読めるようにして実験したことを、もしかしたら作者はミステリーとして読めるようにしてもっとうまくやったのかも知れない。とかかんがえてみたり。
と、多層的に楽しめて実に満足。
ヴァンパイアもののファン層はそりゃあおもしろく書かれている。
ハードボイルド(っていうか黒人マッチョもの)も魅力的なファンが描かれてる。
ポルノファンもちょっとというか、少なくとも分析がある。
おまけに純文学派のサークルと定期刊行誌もかかれている。
さらにミステリーというか探偵小説談義もある。
でも主人公が書いている作品でファンやジャンル語りが見事に欠落しているジャンルがある。
なぜだろう?
SFのファンはあまりに自明でネタにならない?
いや、と考える。
奴らは、ものすごく、おっかないんだろう。きっとそうだ。だから、そっと無視することにしたに違いない。
触らぬプログレとSFにたたりなしと昔から言うからな。
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