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Kindle版で購入した宴の夜というよりも十二夜を読了。
宴の夜 研究社シェイクスピアコレクション(ウィリアム・シェイクスピア)
イリリアの侯爵(ただし途中で女主人公の1人のほうに身の丈を合わせるために伯爵に変化しているのだが、そのいい加減さもシェイクスピアの真骨頂)が、若い伯爵令嬢に恋をする。しかし伯爵令嬢は伯爵が死に、跡をついだ兄もすぐに死んだために、喪に服している。が、どうもそれを言い訳にしているだけのような……。何故だ、と侯爵は不思議に思う。イケメン、金持ち、性格良し、音楽に親しむ教養人と、非のうちどころがないこのおれがなぜ好かれないのだ? (シェイクスピアの時代は歯に衣を着せないので、当然、これは全部、事実という想定だ)
さて嵐が来て、船が(上の話と関係なく)真っ二つになり、美しい乙女ヴァイオラは船長と辛うじて沈み行く船から逃れてイリリアの地に上陸する。双子の兄はたぶん、海の藻屑となっただろう。故郷へも帰れない。そこで船長に頼み、イリリア候の宮廷にカストラートとして就職を斡旋してもらう(女性のままでは身が危ないが、かといって男装して通用するのはカストラートくらい。音楽はもともと得意だ)。でも私が女だということは秘密にしてね。
船長「あなたが金抜きならあたしゃ舌抜きといきゃしょう、だんまり役が勤まらぬようなら、ついでに目ん玉も抜きやしょう」
さて、仕えているうちに、ヴァイオラはすっかりいかした風流人の侯爵の恋のとりこになってしまう。が、仰せ付けられる役目は、伯爵令嬢への恋の使いばかり。
一方、伯爵令嬢はすっかりこの美しいカストラートに首ったけ(船長の言葉から行っても、ヴァイオラのちょっと不思議な台詞から言っても結婚対象の男じゃないのは自明だと思うのだが、良くわからない。子種と夫婦は別なのかな? と謎に満ちたイギリス16世紀)。
さらに伯爵家に寄生する騎士だの道化だの、デスピーナの一族のメイドやら、どっこい生きていたヴァイオラの兄貴、その友人にしてイリリア候の不倶戴天の敵やらがからみあい、伯爵令嬢は間違えたままヴァイオラの兄貴と結婚の誓いをし、わけがわからなくなったところでヴァイオラは侯爵へ告白し(もちろん女性へ返る)、ちゃんちゃかちゃんちゃか大団円。最後に道化が歌を歌っておしまい。
道化がいちいち気の利いた受け答えをして、同じくヴァイオラが気を利かせまくって(ベニスの商人のポーリーヌといい、シェイクスピアの舞台には頭の回転が早いいかした少女(どうせヴァイオラも14歳かそこらなのだろう)が出てくるが、伯爵令嬢もやたらと頭の回転は良いのだった。というか、愚かな騎士と呼ばれる人物以外、全員、目から鼻へ抜けてセリフがペラペラ、気転がくるくる、抜け目はないないで、読んでいて、こんなに楽しいものはない。
翻訳も実に快調。
シェイクスピアは本当におもしろい。これだけおもしろい作家だから、ハロルド作石も題材にしたかったんじゃないかなぁ。
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が、良くないことがある。
Kindle版は妙に書籍より安いのだが、欠陥商品も良いところだ。改行位置がどうもおかしいが、訳者がブランクヴァースを生かすために、妙な段組みしたと解説に書いているので、そのせいかと思ったら、全然違う。
第4巻 宴の夜 (研究社 シェイクスピア・コレクション)(大場 建治)
書籍版の中身が見えるが、台詞を受け取って流れを作るために、余白を多用してつながりを作っていることが、妙な段組みの正体だった。
この訳者の工夫がKindle版ではまったく見えない。単にだらだらつながっているからだ。
えーと、これは詩劇なのだ。そして詩とはリズムで、文字でリズムを表現するのは、改行、余白、ヤクモノだ。
これでは広告文の「舞台のリズム・台詞のリズムを完璧に活かした、流麗の決定訳」が嘘っぱち、ただの翻訳文字列だ。
Kindle版は、単に文字の羅列であり、そこには詩が無い。
(もちろん、詩は人の心の中にあり、歌う口から流れ出す、そこに詩がないのは当たり前、なぜそれをお金で買えると思うのか、何を信じればよかりょうか、消え行く定めの脚韻に(ブランクヴァースでは脚韻をあえて省略する形式)
そりゃ安いはずだというよりも、問題外と言っても良い。
たとえば、マンガで吹き出しの中は読めるけど、それ以外が全部白がRGB(255,255,255)、黒がRGB(253,253,253)で塗られていたら、それは商品として成立しているのか? という問題だ。もちろん問題外だ。
ぷんすかぷんぷん、でも作品は素晴らしい。
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