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日々の破片

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2013-11-05

_ 底辺の3タイプ

妻が図書館で薄い本(岩波の科学ライブラリーかと思った。そっちだ)を借りて来てテーブルの上に置いていたので、何気なく読んだらおっかない本だった。

見捨てられた高校生たち―知られざる「教育困難校」の現実(朝比奈 なを)

公立高校のうちいわゆる底辺校に属する学校の元?教師が書いた状況報告型ノンフィクションだ。

いろいろな問題がたくさん出てきて、どれもこれも全く、どう解決すれば良いのか落としどころさえ考え付かない内容がぎっしりと詰まっている。

たとえば、地元で知らないものは誰もいない生徒がいるとする。彼がクラスに入れば、そのクラスに暴力の嵐が吹き荒れること間違いなしとする。当然、入試ではねれば良いと、外部の人ならば発想する。おれもそう考える。

ところが、公立高校は基本100%生徒を入れないと(ということは定員の問題から、基本落とすということはあり得ないことになる)、校長の査定に響く。査定するのは教育委員会で、通常、そういう生徒がそう振る舞えるのはそれだけの背景があるからだ。しかも伝家の宝刀というものがある。もしもその生徒に問題があるのであれば、それを解決するのが教育者の使命、というお題目だ。

かくして、これまで校長が体を張って入学を阻止した事例は1件しか知らない。その校長は最後の任期だったから可能だったのだ。

そのほか、なるほどこれが貧困というものかというケースや、親が子供を溺愛しているのは良いけれど、どう見積もっても知能指数が80を割り込んでいて授業についていけるはずがない。しかし何を言っても通じないというケースのように、そういうこともあるだろうな想像がつくものから、それが現在の日本なのか? というようなケースまで、底辺の公立高校にはどういう生徒が来て、それに対して教師に可能なことや不可能でもやらざるを得ないことなどがこれでもかこれでもかとあげられる。

その中で特に興味をひいたのは、生徒を3パターンに分類しているパートだった。

1)小学校や中学校で何か問題があって(たとえばいじめられたというのもそうだろう)登校拒否やあるいは学習拒否になっていたが、高校で心機一転しようと入学して来た生徒。学力は当然低いが、学習意欲があるのでほとんど問題がない。(似たような境遇の友人を見つけ出せればさらにうまく行くとか書いてあったような、それは別の本だったかも)

2)絵に描いたようなツッパリ、ヤンキー、不良、という生徒。姿かたちが絵に描いたようなのと同様、行動やものの考え方や見方まで、絵に描いたようで、何があってもクラスでは授業を受けないのが正しいと考えている。うまく行くはずがない。そして問題を起こすことが一番多い。

3)すべてを捨てている生徒。無気力であり無活動である。

通常、親は何があっても学校へは来ない。そんな親であっても、入学式と卒業式にはほぼ来る。ただし卒業までいる生徒は少ない。したがって、入学式がいちばんわかりやすい。そこで見ていると3種類のパターンがある。

1)子供が底辺校とは言え、入学したことを喜んでいることがありありとわかる。入学式という場にふさわしい身なりであり、言葉使いも丁寧で、要するに普通の人(貧乏そうなことは多い)。

2)派手な親。若い。子供が入学したことを喜んでいる。自分は高校へ行けなかった/卒業できなかったけど~という発言が多い。

3)暗い。どんよりとしている。

見事なまでに、親子の組み合わせが1-1、2-2、3-3となっている。

1は学習しに来ているから良い。2は学校に来たいというだけで、学習をする気はなく、むしろ授業を妨害するのが正しいと信じ込んでいるようだ。(3は忘れたが、こわい)

読んでから考える。この著者の見方がステロタイプに毒されているのだろうか? いや、違うだろうと考える。

そのほか、就職について(高校の先生って、就職の世話をするために駆けずりまわったりするようで、これは大変だなぁとつくづくと思う)の章も、うーんと黙りこむしかないような内容。

おそらく既に3世代まで来ているのだとしたら、国家がこの層を切り捨てにかかっているのも、うなずけないこともない。が、その場合、気になるのはタイプ1までタイプ2や3に飲み込まれることになることだ。公立の小学校についてはある程度見ることができたから(したがって中学校も類推できる)理解できるのだが、タイプ1の生徒はどうやっても出現する。それを救済する機能だけは維持する必要はあるだろう。

そこで1つ考えたのは、この状況で教師を勤めるには、とんでもない使命感を持つ、維持するか、さもなければ流されるかしかあり得ないだろうな、ということだ。で、前者は、出世(つまり校長になること)を目指すか、それ以外かになり、それ以外コースを選択すると何らかの伝道師となることで使命感を維持することが可能となり、その中には国歌を拒否する(日本国肯定、天皇制否定から、暗に大王支配を称える君が代を否定するのは太平洋戦争敗戦後にはそれなりの支持がある考え方だ)という選択もあり得るのだろうな、つまりそういう教師を弾劾することは、むしろまともに教育に取り組んでいる人員をスポイルすることに他ならない(=国家がこの層を切り捨てる政策を取るに繋がる)ということで、そこで近年その動きが目立つのだろうということだ。

本日のツッコミ(全2件) [ツッコミを入れる]
_ naruse (2013-11-05 11:51)

タイプ2,3はもとより切り捨てられていて、今積極的に切り捨てようとしているのがタイプ1な気がするんですよね。<br>彼らは高校でうまくやれれば大学を目指すのですが、それが雇用のミスマッチにつながっていると国家に思われているような

_ arton (2014-01-10 22:24)

うーん(と今頃になって反応)そう思っている可能性はありそうだなぁ。そうなったら海外へ逃げるしか手段は残らないんだろうね(と、小飼弾さんのことを想起したり)。


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