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僕が最も敬愛する指揮者のアバードが死んだ。
最初にアバードを聴いたのは1970年代にNHK-FMが流したザルツブルク音楽祭で、ウィーンフィルを振ったマーラーの4番だった。
これは本当に衝撃的だった。
マーラーの交響曲は、細かな旋律がからみあって、何か薄暗いジャングルのような印象で(特に当時の双璧だったバーンスタインとニューヨークフィル、クーベリックと確かバイエルンのは両方ともそうだった)、そうなると異様にメロディーが歌われる5番や9番(大地の歌も別格だ)を除くと全体にくぐもった響きだけが印象的で、それほど好きでもなかった。4番についてはバーンスタインとクーベリック以外にもクレンペラーのこれまた単色な演奏を聴いて、また少しも好きになれなかった(ワルターがコロンビアを振ったのも聴いたはずだがまったく印象に残っていない)。
ところが、アバードとウィーンの演奏は全然違った。
ごちゃごちゃからみあった旋律すべてに歌があって、遠くから見ると葉に覆われて単なる暗い塊のような大木なのに、よくよく近づいて見てみれば、そこかしこに花も咲いていれば小鳥が止まって囀り昆虫が集まっては樹液を吸って羽音を立てている、木漏れ日に照らされた樹皮は美しくなめらかで、遠目には黒っぽく見えた葉も鮮やかな緑に葉脈がすけて見えて、これはなんと活き活きとした世界なのか。
実はこんなに美しい音楽だったのかと驚いた。
Symphonies 2 & 4(Chicago Symphony Orchestra)
(アマゾンのDBは壊れている。なぜカラヤンなんだ? ただ、ザルツブルク音楽祭のライブに比べるとおとなしい印象を受ける)
ポリーニと入れたバルトークもまた素晴らしくて、一時はこればかり聴いていたこともあった。
バルトーク:ピアノ協奏曲第1番、第2番(ポリーニ(マウリツィオ),アバド(クラウディオ))
ただ、レコードには結構出来不出来もあって、ベルリンを振ったマーラーはまったく感心しなかったが、どうもベルリンとはそれほど相性が良くなかったらしい。
その後しばらくクラシックを聴かずにいたが、ある日、久々に聞き始めると、写真に写っているアバードが蜷川幸夫のようなネズミ男になっていて仰天した。友人から闘病生活で死の淵から甦ったと聞かされて、なんとなく悲しくなったが、その後は積極的にあまり耳にしない名前のオーケストラとモーツァルトをどんどん録音していて、しかもそれが実に楽しそうな演奏で、聴き手としては実に嬉しかったのだが。
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