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以前書店で見かけてなんとなく買ったまま放置していた果てしなき逃走を読了。
オーストリア将校の主人公が第一次世界大戦でロシアの捕虜になってシベリアに送られる。第二次世界大戦後の日本人だけじゃないんだな。
シベリアで脱走してユダヤ人の隠者にかくまわれてそこで暮らすうちに、故郷に帰りたくなり出発するものの、ウクライナで白軍に捕まる。赤軍のスパイと間違わられたのだ。隠者との別れは美しい。
が、その白軍は赤軍によって殲滅されたため、救出される。救出されたもののオーストリア人なので非常に立場が微妙だ(が、隠者に匿われていたおかげでロシア人の身分証明書も持っている)。重要なのはそこで赤軍の該当小隊の隊長が美人で主人公が惚れてしまったことにある。かくして赤軍に仲間入りしてロシア各地を転戦する。元々オーストリアの兵学校で将校としての軍略を叩きこまれていたわけで、あっという間に頭角をあらわしたからだ。隊長はプチブル意識を革命への傾倒で押し込めて頑張って無理しているタイプで、読めば読むほど意識高い系ってこういうことだよなぁと世界を変えたい欲も含めて感じるのだが、100年たって共産革命家が産業革命家になって化けて出て来たのかぁととても興味深い。
革命が終わると主人公は無為にぶらぶらする生活へ移り、一方隊長は次は文化の革命へと邁進する。結局破局して主人公は黒海のほうへ進み、そこで無口な女性と結婚する。
ここまでがえらく波瀾万丈なのだが、全体の1/4より少ない。はてこの後どうなるのかと不思議になる。
そこへフランス人の女性、弁護士、秘書がやって来る。主人公のことをGPU(チェカーかも)の手先と信じ込んでいる。が、曖昧に描写されたアバンチュールがある。
主人公はこっそりモスクワのオーストリア大使館へ行き自分がオーストリア人で帰国したい旨を告げる。そのまま妻に別れを告げることもできずにオーストリアへ送り返されてしまう。
そして延々と続く貴族的な生活が始まる。
1920年代において、あれだけ壊滅的にダメージを受けたのにオーストリアの貴族は優雅だし、その後転身した先のパリにも上流社会というものは(戦勝国だということ以上にいろいろと)維持されている。目端が利くもの(黒海で出会った秘書)はアメリカを見物して来ている。
ロシア時代の生活を脚色したノンフィクションが売れて金が手に入る。森の隠者へ送ると返事が来る。隠者のところに置いてきた妻がやって来た(ロシア人としての戸籍では隠者の弟ということになっていたのだ)、一緒に生活している、お前も戻ってこないか。
主人公は徹底的に孤立している。おしまい。
読めば読むほど、味わえば味わうほど、妙に現在に通じるものがあって不思議な感じになる。もちろん1920年代の次に来るものは、作者のロート(ユダヤ人)にとってあまりにも嬉しくないものだし、それを予期しているようにはまったく思えないが、それでも主人公のここじゃない感は作家の感覚だろうし、それは読者に与えられるものだろうし、実に奇妙だ。
最初の1/4まではおもしろく、残りは苦痛だ(読みことそのものは文章がうまいので楽しい)。
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