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日々の破片

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2014-12-03

_ 新国立劇場のドンカルロ

日曜に観て、あまりの良さに今日も観た。

まず舞台美術が素晴らしい。正面からみて4枚のパネル(実際にはさらに奥にもあるし、天井にもあるから、6枚以上はあるのだと思うが)を1mくらい離して十字架を作ったり、斜めに並べて奥行を出したり(2幕の宗教裁判のシーンとか)、独房のようなものを作ったり、折り紙で4個の四角の内側に指を入れて開いたり閉じたりするのがあるが、そういう感じだ。

舞台がパネルの位置関係でいろいろなシーンを作れるからか、幕間と場面転換は異様なまでにスムーズでこれもとても良く、どの点を取っても素晴らしい。

色はグレーの粗い岩壁のようなのだが、火刑上の手前になるときだけはピンクの色。4幕は照明を使って前面と袖側だけが青い(青い枠状)。

ドンカルロ役のエスコバルという人がこれぞテノールという感じの朗々たる歌いっぷりなのもしびれる。おそらくパネルを組み合わせた箱や壁を自由に作れるので、特に歌手の声が良く響くように考えられているのかも知れない。最初の修道僧の歌も良い(4幕版)。

4幕版なので、手短かなのは良いが(それでも100分と80分とかある)、フォンテヌブローの森のシーンが無いと、いきなりなぜドンカルロが横恋慕しているのか意味不明なようでもある。

ロドリーゴのマルクスヴェルパという人が良い顔良い服良い動きで実にロドリーゴらしくてかっこいい(その分、歌はちょっと弱めな気もするが(友情行進曲のあたりでは、ドンカルロの声量が豊かなこともあって食われてしまっている)、3幕の王様の部屋の最後の4重唱とかでは存在感があるし、良い声だ)。

エボリ公女のソニアガナッシという人はベールの歌のあたりでは散漫な印象なのだが、3幕の宝石箱でごめんなさいのところ(私の美貌が悪いのよ)では演技含めて驚くほど良い。エリザベータも4幕の最初の歌が見事に美しい。実に良い。エボリ公女は反省のあまり、自分で目玉をくり抜いて牢獄へ民衆を率いて乗り込んでくるときは眼帯になるというのは演出としては結構どぎつい。

演出はエボリ公女の眼帯もそうだが、妙に細部に凝っていていろいろおもしろい。

最初、修道院でエリザベータが落としたベールをドンカルロが拾って、それを中庭でエボリ公女が取り上げて追いかけっこになって(ケルビーノ的な勘違いの原因をいろいろ作る役回りなだけに)、最後は王様がベッドの上で匂いを嗅ぐ(オテロのハンカチだ)。

そういう古典の読み替えという意味では、エボリが目をえぐるのは、オイディプス王が自らがタブーを犯しているという真理を知る(そして罪悪感を得る)のと同時に自ら目をえぐり追放されることと軌を一にしている。

王様のベッドがまるで独房なのだが、ドンカルロの独房にシーンが変わると、下手と上手の左右対称の同じ独房であることがわかる。その独房に中央奥からどうどうと(とはいえ杖をついているから足取りは重い)宗教裁判長(妻屋、うまいなぁ)が入って来るのと、下手から巨大な影で悩める小人との影絵を作るロドリーゴが入って来るのが対称となる。ロドリーゴの影はキリストで、いかしたコートの軍服が、影絵の世界ではキリストの貫頭衣となる。確かに犠牲となって死ぬわけだ。

日曜に観たときは、王様がロドリーゴ暗殺の指令をくだしていたような記憶があるのだが、今日は省略していたかあるいは気付かなかった(日曜はわりと字幕を見ていたが、水曜は舞台そのものを見ていたというのが原因かも)。

指揮者のテンポが実に良い。4幕のアリアの木管の合奏になるパートの美しさと、そのあとの声との掛け合いになるところのバランス(ちょっとオーケストラが強めになる)も良い感じで、いろいろ音の特徴に気付かされる。

水曜のカーテンコールでは宗教裁判長とロドリーゴがやたらと仲が良くて面白かった。

フィリポ2世のラファウシヴェクという人は剃髪のせいで、コルチャク汗かイヴァン雷帝(剃髪していないけど)みたいで、少しもフィリポではないが、これまた良かった。高い音がきれいに響く。

・物語のスペインとフランドルという組み合わせが、あー、戦国時代なんだなという日本との関係が見えておもしろい。その後、フランドルがオランダとして独立するわけだが、スペインと国交断交した豊臣政権の後をついだ徳川政権がオランダと国交を結ぶとか、宗教の違いが物語で見えるところが、地球は丸いという感じでおもしろい。

演出、美術、指揮、歌手、作品そのものと、脚本の無茶苦茶さ(特に4幕はひどく、立派なお墓を建てるよ、まあ天国の花も大喜び、今こそ愛を義務によって克服しましたぞ、抱きしめても問題なし、とか、詩がいちいちツッコミどころ満載で、最後は死んだ爺さんと手をつないで彼岸へ去るとか、何がなんだか)はともかく、実に良い舞台だった。後2回あるのか……


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