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日々の破片

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2015-05-14

_ 遺伝子医療革命 ―ゲノム科学がわたしたちを変えるを読んだ

なんか1か月以上もかかったが読了。

おもしろかったし、感動的ですらあるのだが、いまひとつ読みにくいのが時間がかかった(つまり、読まずに放置しておく期間がある)理由だ。

だが、本書は21世紀の人類と社会の常識として知るべきことが書かれた本だと読んでいて確信したので、読みにくかろうがなんだろうがとにかく読了した。

著者はアメリカの遺伝子研究のリーダー格の人で、当然、推進する立場だ。というわけで、途中、遺伝子科学の進展によるバラ色の未来像を描いていたりするのだが、説得力はある。

読みにくいのは、日本であれば新書(専門家が素人向けに薄く広く好奇心を刺激する程度に書いて終わる本)の内容をまともなハードカバーとして上梓することになるアメリカの出版事情によるのだと思う(翻訳はこなれている)。

まず事例があり、深掘りする。のパターンの繰り返しだ。ある家族のほとんどが乳癌で死んでいる。さすがにこれはおかしいと現代人の生き残った親族はびびって医者に相談へ行く。その医者とは何を隠そう筆者(あるいは筆者の同僚)である。ふむでは遺伝子チェックしましょう。その結果、2/3は癌になる可能性が80%あるので事前に乳房切除したり、毎年マンモグラフィによる検査を受けて早めに見つけるようになった。しかし一人だけそれを断固拒否した人もいる。それはそれで尊い選択である。残り1/3はびびって事前切除をしようとしていた人も含まれていたが、リスクが普通(ということはそれほどなるわけでもない)だとわかって切除するのを思いとどまった。おそらくその選択は良いことである。

さて乳がんについては特定の遺伝子の変異によってリスクが高まることがわかっている数少ないものだ。この場合、男性にも遺伝するので家族構成がこうである場合、遺伝する可能性はこれこれで、といった調子の説明となる。

おもしろい。

どちらかというと、各トピックの導入部の事例よりも、後ろの説明のほうが圧倒的におもしろい。

劣性遺伝と優性遺伝の違いを復習できただけではなく、ある種の薬の作用の仕方(タンパク質の生成に問題がある患者がそれを服用することで、生成過程に介入して正常なタンパク質を生成できるようにし、そして時間とともに消失する)などそういうことだったのか、と納得すること甚だしい。

驚いたのは、僕が服用している薬は人によって横紋筋融解症という重篤な副反応を誘発するのだが、医者はそういう副反応があり得るので~という症状が出たらどうしたこうしたと説明するにとどまるのに、この本にはその副反応を誘発する遺伝子はすでに特定されていて、その検査をして変異がないことを確認してから投薬するべきと書いてあることだ。

もしかして、日本って圧倒的な後進国なんじゃないか?

その日本については、iPS細胞について言及している章があり(なぜ、それが今後の治療に重要なのかの説明で実にわかりやすい)、そこでは科学的な発見というものは感動的なものだが、特にiPS細胞の論文には全身全霊で感動したというようなことが書いてあって(もちろんその理由も)、なるほど、そういうことだったのか、とあらためて感動した(いや、それまでは別に感動なんかしなかったのだが、なぜそれが人類にとって最重要な発見なのかということをきちんと説明されたので、感動したのであった)。

あと、重要な論点として、オープンソースではだめで、フリーソフトウェアでなければならないということが語られている(もちろん、著者はそういうったものが存在することを知らない可能性があるが、論点をこちらにスライドさせてみればそういうことだ)。

つまり、遺伝子研究と研究成果について、著者はストールマンのように強力な自由主義者(金儲けの自由ではなく、人類共通知識の自由のほう)で、発見を秘匿しようとしたり、特許を取得しようとする製薬会社との戦いのエピソードが出てくる。製薬会社が薬を開発して市場に出すまでの金銭的、人道的な困難さを著者は完全に理解したうえで(審査に通って売薬できるまでの困難さの説明が付録についている)、それでもゲノム情報の独占については強い危機意識があることがわかる。そこでシンボリックスをハックしてはLMIに移植していたころのストールマンのように、遺伝子をがんがんハックしては研究成果を次々にオープンにしているらしい。ここでクリントンとオバマという民主党政権の大統領が重要な役割を果たしていることになるほど、と思わさせられた。

遺伝子医療革命 ―ゲノム科学がわたしたちを変える(フランシス・S・コリンズ/矢野 真千子)

人類は本当に遠くまで進めそうだという確信を得られるという点で、本書は現代に生きる人間にとって必読書だと思う。


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