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アマゾンで叩き売り対象になっていた星を継ぐものを読了。
読んでいる間は、そうとううんざりさせられたが、読後感は素晴らしい。感動した。小中学生だったら、絶対将来は科学者になろうと決意しただろう。
プロローグは月を探検する2人組の話。
場面変わって月で5万年前の人類の死体が見つかる。一体これはなんだということで、NASAの未来版のようなところに世界中から科学者が集められてああでもないこうでもないと議論が始まる。なぜ5万年前の人類の死体が月の地下から出て来たのかが解決すべき謎である。
偏屈な進化学者が出てきて、主人公の数学者なのか物理学者なのか良くわからない万能魔人と対立する。
自然を名づける―なぜ生物分類では直感と科学が衝突するのか(キャロル・キサク・ヨーン)
を読んだら、出てくる進化学者がほとんど全員、いやな連中だったのと見事に一致して、なるほど進化学者というのは自明なまでに嫌な連中なのかと感じ入る。
さらに木星の衛星で250万年前のロケットが出てくる。
万能魔人と進化学者は同じロケットに乗ってそこへ向かう。
真の主人公は万能魔人の科学者ではなく、NASAの未来版の司令官のプロデュース能力だったのかとわかるが、まあどうでも良い。
謎は論理的に解決する。進化学者が大演説をしておしまい(これが涙なくして読めないくらいの感動的な演説で、それまでの退屈さと進化学者の偏屈さはすべて雲霧解消する)。
エピローグ(考えてみたら、最初のあたりのロシア人の発見のエピソードは回収していないけど、同じだな)はわりとどうでも良いというか、ちょっと国際的に作者の(読者サービスかも)米国絶対主義者っぽい気持ちの悪さを感じさせる不愉快な蛇足(時間軸を示していないから純粋に過去のエピソードとして書いただけかも知れない。ルーシーの発見が同じくスーダン北部というかエチオピアあたりで1970年代中期だからそのあたりと引っかけたのかも知れない)。
未来予測で見事に見当違いだったのは、DECがコンピュータ市場で覇権をIBMと競っていること(固有名詞は怖いね)、モニターとしてはブラウン管が独占状態なこと、科学者がほぼ全員煙草を会議中だの寝っ転がったベッドの上だとかで吸いまくること。ロシア以外では女性は秘書職しかないこと。
うんざりするのは、距離感を示したり、おそらく妙なディテールを描くことで正確さを示そうとしたらしき(たいてい節の終わりに出てくる)エンドトゥーエンド通信の中継描写のしつこさ(追記:今気づいたが、これはフェアな評価ではない。これはすごく重要な描写なのだ。おれが通信を理解しているから何どうでも良いディテールにこだわっているんだ? と感じただけの話だ)。それ以外にも、いろいろくどくどしいところが多くて、しかもそれがいまいちなことだ。もしからしたら50年後の現在では陳腐になってしまっているからで、50年前に読めばすごくわくわく感があったのかも知れない。
謎は論理的に物語の中半くらいで完全に解決してしまう(表題から倒叙ものとも言えるがピースが揃うのが中半過ぎの日記が解読できた時点となる)。その意味では大したことはないのだが、万能魔人のアーハの瞬間の美しさと進化学者の演説の良さですべてはオーライである。
B0045IIFWS
1970年代末期の作品だということは、おれがまったくSFを読まなくなった時期だ。
その時期にこういう作品が出て来たのか。時代観と世代観が見事に論理的に符号するところが、内的宇宙としては実におもしろい。
と読み終わっていろいろ考えていたら、巻末解説に鏡明の文章があって、なぜおれがまったくSFを読まなくなったかの理由を逆方向から説明していてちょっとおもしろかった(が、別にどうでも良いし、くどいので飛ばし読み)。結局内的宇宙を書かせたら、バラードを例外として、誰一人として純文学の歴史を生き抜いた作家たちには太刀打ちできないからだ。NWSF読むならドストエフスキーやシラーやセリーヌやボリスヴィアンを読むほうがはるかに面白い(オールディースの長いのは良かったけど、あれはNWSFとは言い難い)。
それにしても退屈だったが感動的だった。
#アマゾン評の低評価のやつを読むと、退屈だと書いている連中が確かにいるが、おれの読後感とは正反対でおもしろい。おれには、科学者たちの仮説建てと議論はすごくおもしろい。退屈なのは細部の(リアリティを出すための)描写で、それは今となっては陳腐だからだ。でも、低評価者たちは、その現在でも最高におもしろい部分を退屈だとしている。
でも、それはわからなくもない。アランケイの言葉を使えば、サーベルタイガーがなぜ絶滅したかに想像力を使うか、サーベルタイガーの子供がツンドラをうろちょろする冒険に想像力を使うかの違いということだ。で、この作品が刺激しまくる想像力は前者なのだから、後者を望むのは間違いだろう。そして、その意味ではこんなにおもしろい娯楽作品はなかなかお目にかからない。傑作だ。
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