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オリヴェイラが102歳だか103歳だかのときの作品。
いつもどういう映画が出てくるかどきどきしながら観るのだが、こいつもびっくりものだった。
大雨の通り。写真館の看板。向うから車が来る。停まる。ヘッドライト点けっぱなし。傘をさして初老っぽい男が出てくる。傘さしてないのと同じくらい濡れているように見える。写真館の呼び鈴。ちょっと離れて窓を見る。何も起きない。呼び鈴。ちょっと離れて窓を見る。何も起きない。呼び鈴。窓の電気が点く。ゆっくりと近づく人影。窓があいておばさんが見える。忘れた名前館から来た。奥様が写真を撮ってほしいと言っている。今かい? もう遅いよ。今だ。ちょっと留守にしててね。帰ってからで良い。今ポルトに行っているから帰るのは明後日だよ。
ここまでほとんどひいて長回し。いきなり映画が全開で面白すぎる。
会話に割り込む男。写真家がいる。石油会社に勤めているが趣味で写真を撮る(それでいいのか? と思いながら見ているのだが、どうも写真が普及していないようだが、時代感覚はどこにもない)。それで良い。
車走り出す。ショパンが流れている。多分例によってピリスだろうなぁと思うと、エンドクレジット見ていたらやっぱりピリスだった。
下宿屋以外の何ものにも見えない部屋。若い男が机に向かってすごいピーガー音の中で作業している。ラジオを作っているのかなぁ。ときため楽音が流れるが基本的にホワイトノイズが流れ続ける。下宿のおばさんが入って来て、写真を撮って欲しいと言っていると告げる。断る。時計。(そうだ、ここで3時過ぎだとわかる)なんとか家は大きな家でどうしたこうしたとおばさんがポリティカルなことを言い出すので承諾する。でっかなカメラケースを肩から下げて出て行く。
大雨の町の中を車が走る。労働者の像(最後のダッシュにも出てくる)。坂。屋敷。
尼僧が迎える。妹が死んだ。母が写真を求めている。
イザクと名乗ると困惑される。家はキリスト教で。その姿が尼僧だということはわかる。宗教は気にしない。それは良かった。
抱きかかえられてアンジェリカの夫が向うから来る。
アンジェリカの化粧を整えている母親。
ケースから取り出したカメラは小さな2眼レフ。暗いから電球を取り換えろ。
女中が取りに出て行く。
女中が戻って来て電球を渡す。イザク電球を取り換えようとシェードの中に手を入れる。手を引き離す。ポケットからハンカチを出してそれを使って取り出す。暗くなる。ハンカチごと女中に渡す。電球を替える。電気がつく。カメラを構える。ここまでほとんど1ショット。シャッターを切る(フラッシュを焚かないのだが……)えらい集中力。
ファインダー越しにピントを合わせる。
何枚目かで、ピントが合うといきなりにこりと微笑むアンジェリカ。ホラーだったのかと初めてわかった。
驚くイザク。しかし回りは気付いていない。
写真を次々と取って(それまでと違ってピント合わせに時間をかけない)、いきなり立ち去る。(どこかで女中がハンカチを返し、それをしまう)
翌朝。現像した写真を干している。1枚の写真を見ているとアンジェリカがいきなり微笑む。窓を開けると、向うの丘を耕す農夫が見える。
下宿のおばさんが食事を持ってくる。
農夫の写真を撮って来る。なぜ? 鍬で耕している。今は機械の時代よ。だからおもしろい。(その前におばさんに対して、このへんの農作業は鍬なのか? というような質問をしている)
音頭取りが先に畝の先に行き、おれのシャツは白いが臭いみたいな歌を歌う。他の農夫がくさーいというように合いの手を入れながら耕して進む。
イザクがやって来て写真を撮る。最後、丘から降りてくる農夫を一人ひとり写す。その都度、農夫たちがポーズを取るかのように映画は表現する。
ここまで、すべての映像がかっちり決まり、映画として表現されている。すばらしい。(そしてこの後もそうだ)
鐘の音で向うの教会に気付く。教会の入り口に乞食がいる。神のご加護を。ポケットから小銭を出して与える。アンジェリカが礼拝堂に置かれている。出てくる。乞食が無心する。さっき渡しただろうと怒ってどかせる。神の報いを。
夜。窓辺に立つと、アンジェリカが上から降りてくる。二人でそのまま飛び上がっていく。背中を合わせた状態で空を飛んでいる。池の上すれすれを飛んでいるところで手を伸ばし花を取る(この花はその前にどこかで手に入れたものに似ている。どこのシーンだったか?)。花を背中越しに渡す。浮遊シーンはモノクロ。背中合わせの浮遊は、シャガールの誕生日の画を思わせる。
ベッドの上で目を覚ます。
立ち上がり、こちらを向いて「あれが話に聞く絶対空間というものか」
(なんだそれは。でもこれで納得したらしい)
農夫の写真も現像してアンジェリカの写真の次に吊られていく。
イザクはどんどんやつれていくらしい。映像では良くわからないが、朝食を取る下宿人たちの食堂での会話からそう表現される。食堂には鳥籠があり、小鳥がいる。おばさんがアンジェリカの写真の横に汚い農夫の写真があるのはおかしいと他の下宿人に愚痴を言う。イザクを執事に紹介した右手前の博士がイザクを弁護する。
イザク入って来る。おはようみなさん。コーヒーカップを取り、カメラに近づき、こちらを向いたまま(つまり食卓には背を向けて)コーヒーを飲む。異様な構図だが、この後何度も出てくる。花瓶の花が浮遊中に摘んだ花だと気付く。
下宿人の1人の仕事仲間が入って来る。他の下宿人と含めて、反物質の話となる。
イザクはそれを聞いているが、背を向けて立ったまま(つまりこちらを向いたまま)進行する。
他の下宿人は食堂を出て行く。あの人変わっていると、仕事仲間が言う。
イザク、見本の写真を封筒に入れて館を訪問する。まず教会へ行く。乞食に金を渡す(ここはずっとロング)。出てくると乞食、近寄ろうとするがやめる(最初のときとの連続性)
(追記:このあたりのどこかで、アンジェリカの写真が農夫の写真の間に吊らされるように位置が変わっていることが示される。そのため、埋葬(もちろん土葬)の写真のように見えなくもないし、映像的な違和感を生む)
玄関。呼び鈴。出て来ないのでちょっと外す。女中頭が戸を開ける。誰もいないので閉める。イザク戻って来てまた呼び鈴。女中頭が憤慨して出てくる。入ろうとするのを押しとどめてつっけんどんに封筒を受け取る。戸を閉める。
農夫のトラクター作業の撮影。
ベッド。いきなりアンジェリカと叫ぶ(ここだっけかな?)
窓を向くと誰もいない。こちらを向くとアンジェリカが降りてくる。2回繰り返し。
執事が写真の注文が決まったと言ってきたと下宿のおばさん。食事を摂らずに出る。
門から中へ入ろうとするが、アンジェリカの夫を認めて左へ去る。
呼び鈴。こちらを向いてアンジェリカと叫ぶ。
別の門に掴まってアンジェリカと叫んでいると女中が忘れた封筒を持ってやってくる。
小鳥が部屋の中を飛ぶ。
食堂。小鳥が死んでいる。おばさんが大騒ぎしながら布にくるむ。
イザクが入って来る。みなさんおはよう(これは3回目。2回目はローザとおばさんしかいないのに、みなさんおはようと言うので、ローザにみんなはいないとたしなめられる)。鳥籠が空なのに気付く。小鳥は? 死んだ。小鳥が死んだ! 唐突に駆けだす。猛ダッシュで町を走る。労働者の像の横を走る。教会の脇を走り去る。乞食が近寄ろうとしたときには去っていくので定位置に戻る。走る。車1台分の坂を走る。途中で休んでいる農婦があたまがおかしいようだと話す。いつものブドウ畑のところだと思うがで倒れる。子供の歌声。集団登校中の子供たちが気付く。大変だ。知らせてくるから落ち着けと大きい子供。
救急車。
モノクロで下宿の室内。入口方向から窓へ向けてカメラ。右がベッド。イザクが寝かされている。
なぜ病院に連れて行かなかったのかと医者をなじるおばさん。ここで良いのだよ、わたしがちゃんと見るから、と医者。何か世話することは? 専門の看護婦を呼んだから戻ってくれ。おばさん、いやそうに消える。
イザク起き上がる。窓にアンジェリカが来ている。医者がベッドに戻そうとするのを突き飛ばす。医者のメガネが吹っ飛び、医者は床に屈んでメガネを探す。イザク窓に近寄り、崩れた倒れる。そのまま幽体は歩いて窓に近づき、アンジェリカと共に今度は普通に抱き合って上昇していく。
看護婦がやってくる。遅くなってすみません。遅かったよ。
下宿のおばさんと看護婦で白い布をかける。おばさん、十字架を上に乗せる。
最後、農夫の歌でおしまい。(その後はショパンとなる)
抜群におもしろかった。とにかく構図が映画で、これが長回しというものだという動きがあり物語が進む映画で(雰囲気の長回しではない)、映画を観る楽しさに満ち溢れている。満足した。
・おれは牡丹灯籠のような幽霊においでおいでされる話だと思って見ていたが、一緒に見ていた友人は、幽体離脱中に埋葬されてしまう悲劇と解釈していて、そこもおもしろかった。確かに、そうとも読めるなぁ。
・乞食、食堂、おばさんの文句など常に同じ繰り返しで描く日常(なので、記憶に基づいて再構成してみると2回目のシーケンスで起きたのか1回目のシーケンスで起きたのかわからなくなっている箇所がある)
・繰り返しを突然断ち切る「アンジェリカ」という叫び(あまりに唐突に入るので笑ってしまうのだ)
・イザクという名前
・シャガールの結婚
・絶対空間ってなんだ?
・浮遊しているところは横にして画面全体が二人の姿になるようにしている。
・背中合わせなのは、死霊と生霊で、それが博士の物質と反物質につながるんじゃないか?
・なぜ下宿のおばさんは、女中頭との仲を疑ったのか。
・浮遊シーンに一切カタルシスが無かった。ここでは引かないからだ。
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