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日々の破片

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2017-12-09

_ 新国立劇場の薔薇の騎士(2回目)

先日観た薔薇の騎士がずいぶん良かったので、再度観に行った。当日券で2階最前列なので実にラッキーとは言える。

やはりウルフ・シルマーがすばらしい。3幕の3重唱が始まる直前の何かが産まれてくるときの静けさの中のざわめきのような瞬間とか。歌ももちろん良いのだ。マリー=テレーズが歌い始めると思わず涙が流れて鳥肌が立つ。リヒャルトシュトラウスの才能もすごいが、舞台芸術としての完成度の高さは圧倒的だ。

前回も感じたが、1幕後半のイタリア人テノールの歌だが、実に良い曲(今までは、それがポレンザーニだろうがパヴァロッティ(そういう無茶苦茶なCDがあるのだ)だろうが、あまりピンと来なかったのだが、この演出では、あるいは実際に舞台で観ると、かもしれないが、実に効果的)で感じ入る。

ふと同時代の作家の別の作品としてコルンゴルトの死の都が意外なほど近いものだと思う。テノールの歌は、曲調といい、歌詞の厭世的なほどの狂おしい恋心といい、ピエロの歌にそっくりだし、3幕3重唱前の不思議な間合いは、リュートの歌直前の不思議な静けさのような沸き立つような騒がしさの前触れのような感覚とそっくりだ。

薔薇の騎士は1910年。死の都は1920年だから、作劇上の影響を(薔薇の騎士という1つの作品ではなく、大作家たるシュトラウスの)受けていないことはないだろうが、それにしても近いものがある。

一番の違いは、1914年を挟んで、片や世界夫人が世界と別れを告げる作品で、片や世界夫人亡き後の市民の作品だという点だ。

というよりも、まさに元帥夫人は世界夫人そのものだ。

ヘッセが世界夫人に別れを告げたのは1944年で、ドイツ零年の直前だが、元帥夫人がオクタヴィアンとの享楽の生活に別れを告げて貴族の誇りを持ち威厳を保ったまま身を引くことを宣言したのは1914年の4年前、1908年のボスニア・ヘルツェゴビナ合併の後で、バルカン半島が十分にきな臭くなっているころだ。同じ頃に元帥はクロアチアで狩りをしている。イタリアの統一運動はまだくすぶっていて、実際、イタリア人がうろちょろしているし、オックス男爵はドイツ人のような名前だが、この演出ではチロル風(南チロルはオーストリーに取り残されたイタリアの一部)で、どうにも不安定な人たちばかりが登場してくる。

だからというわけでもないことはないと思うのだが、3重唱の圧倒的な美しさは滅びる直前の美しさに他ならず、その後に2回続く2重唱の美しさも、必ずしも未来ある2人の歌というよりは、戦争に突入していくことになる滅亡への予感があるからこその美しさとも言える(17歳のオクタヴィアンの4年後は21歳で、まさに戦場に突き進む必要がある年齢だ)。銀のバラの旋律の音程が異様なのは、まさにそれの予兆に感じられるからあまり好きではなく、最初の2重唱が純粋に美しかったものが、元帥夫人とファーニナル(この伯爵の将来岳父になる男はまさに戦争によって成り上がった武器商人だという設定が強烈だ)の登場によって認められて、そして息がとまるほど甘美なバイオリンのソロが入った後に、銀のバラのモティーフが散りばめられることで、手放しの幸福ではない未来が透けて見えるのだ。

最後は、ウィーン包囲の落とし子となったムハンマドによって幕が落ちる。未来はこちらの手に落ちるのかも? という意識がなかったとは言えない。

それにしても、第1次世界大戦によって、世界ががらくたの中に横たわることを予兆している作品として、薔薇の騎士の美しさは特筆すべきものがある。

新国立の演出が1910年代のウィーンにしているように(本来は女帝の時代だから18世紀のはずだが)、最近観たガランチャがオクタヴィアンを歌ったメトの薔薇の騎士もやはり舞台を1910年代あたりにおいていたが、作品が成立してから100年たった現在では、ホフマンスタールとシュトラウスが巧妙に設定した18世紀を舞台にするのはむしろ不自然と考えるほうが確かに自然だし、作品にふさわしいと思う。

もう1つ僕が心から愛する第1次世界大戦文学は、トラストDEで、最後の最後、主人公がガラクタと化したヨーロッパを心からの愛を込めて抱きしめるところは本当に美しい。

トラストDE―小説・ヨーロッパ撲滅史 (文学の迷宮)(イリヤ エレンブルグ/小笠原 豊樹/三木 卓)


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