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日々の破片

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2018-03-11

_ アジャイルエンタープライズに驚いた

翔泳社からアジャイルエンタープライズが送られてきたのでありがたく読み始めた(他にもいろいろあるのだが、紙質(表紙の固さ)とか字の大きさとかが妙に具合が良かった)。

1章を読み始めていきなり衝撃をくらわされた(注)。

アジャイルという言葉に対してのすでに持っている概念とエンタープライズという言葉から、大規模開発に対してアジャイルのメソドロジーを適用するための方法論の本かと思っていたからだ。

全然違った。

一言で本書の内容を言えば、常に変化に対応することで生存し成長する企業をつくるには、どのような文化がふさわしく、いかにそれを構築するか、について説明したものだ。

注)節題が「1.1 本書の革新性」とくるので、あまりの自信たっぷりっぷりに斜に構えて読んでいたからかも知れない。

冒頭の「最も高い顧客価値に目を向けている企業を想像してください。」が額面通りだった。

本書はソフトウェア開発に関する本ではない。

そうではなく、少なくとも意思決定階層が4以上あるような規模(この4という数は本書で定義しているのではなく、おれが読みながら考えた適切な企業モデルなので3でも2でも実際のところは構わない)の企業の経営モデルについての本だ。

以前勤めていた企業が良く出していたバリューモデルがあって、顧客、従業員、株主、地域住民(そういえばUSで地元の災害被災者に対する支援活動を行った初期の会社だったような)をステークホルダーと規定していたが、その規模に限りなく近い(地域住民は一応外して考えることにする)。

上で数十年前にみたバリューモデルを出したが、個々の項目については既存の知識やプラクティスのまとめである。適切なモデルがないか、あるいは既知のモデルが時代に追随できていないと考えられる場合に、ソフトウェアでのアジャイル開発から得られた知見を経営モデルに適用したものと言える。

たとえば、9章の「学習する企業を構築する」では、教育のレベルについて、下位からトレーニング、コーチング、メンタリング、(最後は初見)経験と貢献の4段階として、それぞれの内実をスキル、プロセス、役割、文化としている、というか、これ正しいだろう、どうあっても。最後が文化の形成だと明示していることがおれには新しかった。

要求ツリーの構築の章(15章)では、ナビゲート例としてルートから、企業戦略→部門戦略→アイデア→インクリメント(ここはおれには疑問がある)→エピック→ユーザーストーリー→タスクと具体化詳細化をしていく(と書いたところで読み直すと、インクリメントは言葉の問題で対応するロールはプロダクトオーナーなので、漸進的にプロダクトを進化させることが必要だから正しいと納得した(修正した))。

本書の重要であり画期的な点は、上で要求ツリーの項を出したが、ほぼすべての項目について同様な大目標から具体的なアクションへのドリルダウンを提示していることにあると読んだ。

それを企業活動の全領域に対して網羅的に施していく。たとえば14章は顧客フィードバックの取り入れだし、19章は予算編成、20章では成功指標(ゴールは株主総会での承認と株価の上昇につながる内容であって、個々のプロダクトレベルの話ではない)だ。

アジャイルエンタープライズ (Object Oriented SELECTION)(Mario E. Moreira)

下劣な言葉なので大嫌いだが「労働者も経営者マインドを持て」(本書にこんな言葉が出てくるわけではないことに注意)という言葉に出会ったときにまず最初に学習すべき内容が書かれた本と考えれば良い。

重要なのは、経営者マインドという言葉のくだらなさと裏腹に、実は非常に重要であり、頭を使って仕事をするにはそれが必要だということだ。したがって、当然読むべき本ということになる。

実際、良く整理されていて、網羅性もある。間違いなく良い本だ。


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