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Twitterを眺めていたら、誰かのツィットで妙におもしろそうな本だったので買って読んだ。
天下の奇書と呼んで差支えなかろう。
とにもかくにも読了したのはおもしろかったからなのだが、一方、まるで聖書(の旧約聖書で人名がずらずら並ぶあたり)を読んでいるかのような苦行でもあった。
最初は、何しろ鉄の作り方なんて知らないから実に興味深い。高温で溶かすための仕組みや、化学反応で炭素や酸素を取り除いたりする過程がおもしろいのなんのって、おう、こういうものを楽しめるということは、中学高校で習った化学の基礎知識は役に立っているうえに身にもついてるじゃん(といっても、基本、FeとCとOしか出てこないから単純極まりないわけだけど)、とか思わぬ自己発見すらある。
が、1/4くらい読み終わるうちに、世界中の溶鉱炉を訪ね、歴史上の製鉄技術を訪ね、さまざまな鉄の作り方が説明されているうちに大きな疑問が湧いて来る。
砂鉄しか取れない日本、鉄鉱石のうち~成分が多い地方、~成分が多い地方、コークスを発明したイギリス、炉の作り方にも地域特性があるからそれぞれで作り方が異なるのは良いけれど、
羽口前で木炭を燃焼すると、羽口前から上部は酸化雰囲気になり温度が上がった。そこに銑鉄や鋼の小片、あるいは銑鉄の棒の先端を挿入しゆっくり加熱し溶解した。銑鉄は溶け、脱炭しながら炉底のスラグ溜めに滴下した。滴下に応じて銑鉄棒を少しずつ炉に挿入し、木炭を常にいっぱいになるよう装荷した。このとき銑鉄中のシリコンが酸化し、鉄も一部酸化してファイアライト組成のスラグを生成し炉底に流れ落ちる。スラグ溜めには(後略、37%)
みたいな、観察記録が延々と続くのだった。で、確かにどのタイミングで何が起きるか、いつ酸化するか、いつ脱炭するかは、それぞれで微妙に異なるし、燃料や炉の形状によって温度も異なるのだが、言ってしまえば、末尾に;がつくか、ステートメントの切れ目に:がつくかみたいな違いをずーっと文章で説明している。著者もすごいが、編集者もえらいよ、この本は。
そりゃ、そういう本なのだというのはわかるのだが、もうずっとなぜおれはこんな細かい相違点について同じような文章を延々と読んでいるのだろうか? という疑問が離れない。良くできたスクリアビンの音楽のようでもある。窓が違うが出てくる顔はみな同じというやつだ。
が、それが読書の快感でもあるのが不可解極まりない。まさにスクリアビン的だ。
少なくとも小学校高学年か中学生のうちに、本書を読んで、読了後に、反射炉と第3の製鉄方法と、たたら製法の違いについて400字にまとめる能力を身に着けると、すごくよろしかろうとかすら考える。というか、入試問題用の文章としては抜群に良いかも。
たたら製法によって作った鉄は現代式の鉄よりも錆びないメカニズムの説明とかもえらく興味深い。鉄といっても純Feではないので、酸化しかたが異なるからだ。
そして、最後、驚くべきことに電子レンジを使った製鉄が出てくる。そんなことできるの? それができるということが説明される。
アルミナやマグネシアは室温ではほとんどマイクロ波を吸収しないが、1000℃程度の高温になると突然発熱し暴走することがある。マグネタイトや炭材は室温から周波数2.45GHzのマイクロ波をよく吸収し、ヘマタイトは300℃以上で吸収するようになる。そこで、鉄鉱石と炭材の混合粉末にマイクロ波を照射すると、原料自体が効率良く発熱し製鉄ができる。
図19-3に電子レンジを用いた製鉄実験の図を示す。(後略)
で、化石燃料で製鉄するよりも電気のほうが高効率なので、どうすれば製鉄所を電化できるかの考察に向かう。抜群におもしろい。読み進めていて良かった!
人はどのように鉄を作ってきたか 4000年の歴史と製鉄の原理 (ブルーバックス)(永田和宏)
それにしてもこの人が1950年代の中華人民共和国にいたら、土炮炉大作戦が成功して=大躍進に成功して、世界の在り方もずいぶん違っていたかも、とか思わなくもない。
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