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日々の破片

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2019-10-27

_ アンクル・トムを観る

子供が博品館劇場でアンクル・トムという小じんまりとしたミュージカルを観て来て、おもしろいし多分席も余っているし千秋楽だから行こうというので行った。

役者4人で1時間半というから、ミュージカルとしてはやたらと短いし、時間も空いているから行くことにした。

博品館の結構辛いビリアニの店で(朝食が遅かったので)軽くカレー3品とナンを頼んで食ってたら、よほどビリアニが辛いのか子供がナンをわけてくれというのでわけてやって代わりにビリアニを食うと確かに辛い。複雑な味で美味しいのだが、確かに辛いなぁとナンの甘さで和らげながら食った。というかヨーグルトをかけて食べればそんなに問題ないじゃん。

とかやってから、8階の博品館劇場へ。この劇場は初めてだが、横20人×20列あるかないかだから300人劇場の一種だな。

さすがに銀座だからか車の通行音が聞こえるなぁと思っているとそれが効果音で暗転して舞台が始まる。

粗筋は子供から聞かされていたが、真実は常に1つの原則から言えば、何が起きたかは舞台の上で演じられる台詞と歌からだけではわからない。

ラジオでサッカーのチャンピオンシップとそれに伴って連続殺人事件が語られることで4年の歳月が前後する。

ある作家、間違いなく国内最高のミステリー作家が失踪したため、ブランクが生じていることを嘆く編集長が、代わりになる新人を探すために賞の応募作品を募ることを説明する。

物語が始まる。

始まりは、借金取りに追われるケヴィンが締め切り間際の小説賞の応募作品を仕上げられず自殺でもするかとアパートの屋上に立つところから始まる。アプサン片手に初老の紳士トムが背後から止める。二人はトムの部屋で会話し、トムも応募作品を書いていることをケヴィンは知る。読むと引き付けられる。

路上ではレイモンド・チャンドラーというふざけた名前の花屋が花を売っている。彼はケヴィンの友人で、最後まで書きあげることができれば彼は才能ある作家なのだと、意味深なことを家主のおばさんに話す。

ケヴィンが書きあげられずに才能の無さを悲観していると、レイモンドからトムが倒れて救急車で搬送されたことが告げられる。家主によれば長くはもたないそうだ。

ケヴィンは葛藤したすえ、トムの作品を自作として賞へ応募する。当然のように作品は大賞を射止め、彼は一躍国内最高の作家の栄冠を得る。

4年がたつ。

専属作家の地位はあと3日で、それまでに次の作品を書きあげない限り契約は終わりだと編集長がケヴィンの家を訪ね通告する。

ケヴィンは書くことができない。

ふと気づくとトムの残したペンのイニシャルが失踪した作家のものと同じことに気付く。

そこにトムが現れる。家主の勘違いで単なる胃潰瘍だったのだ。

トムはケヴィンに作品を世に出してくれたことの礼を言い、3日間泊めてくれと頼む。

ケヴィンが気づくとトムは原稿を書いている。もうすぐ仕上がるという。君の名で発表しても良い。ただし条件がある。

ケヴィンが原稿を読むと、作品の主人公はまぎれもなくケヴィン自身だ。彼は友人の花屋が連続殺人事件の犯人と知り葛藤し、4本目のナイフで殺人を犯すところを犯人自身を殺すことで止める。殺人を犯したもののケヴィンは英雄視される。

トムが出した条件は、作品の通りに行動し、レイモンドを殺すことだ。それによって、現実を元にしたノンフィクションノベルとは次元が異なる、フィクションを元した現実というノベルが実現する。これこそが完全に新しい小説なのだ。それを君の次の作品とすればケヴィンという名は永遠となる。

ケヴィンは人気作家という地位を守るためにトムに従うという。

帰還したケヴィンは、この作品の欠陥は、ケヴィンという人物を正しく描写していないことだとトムに告げる。ケヴィンの母親は酔っぱらって夫(つまりケヴィンの父)を殺したのだ。おれはその母親の子供であり、人を殺すことに躊躇はないのだ。そしてトムを殺す。

4年前に戻る。

連続殺人のニュースが流れる。レイモンドの2本目のナイフは鞘しかない。

屋上でケヴィンは原稿が完成した気分の良さに風に吹かれる。背後から初老の男が近づく。彼は失踪した作家だと名乗る。

レイモンドは被害者だった女性の家へ花を運びに行く。


子供の解釈は、トムの部屋でケヴィンが酒を勧められて飲んだために見た夢だというものだ。ただ、その場合、2回目の4年前ではトムはトムではなく、失踪した作家自身として名乗ることと辻褄が合わない(もちろん、真実は2回目の4年前で、その後作家の部屋へ行き、そこで見た夢では作家ではなくトムだという解釈はできる)。

レイモンドの2回目がすべてと考えることもできる。この連続殺人者は、誰かに止めてもらいたい。自分を止める存在としてケヴィンを想定し、どうすればケヴィンが自分を救ってくれるのかを考えたストーリーが最初の4年間だ。

きわめて素直に考えれば、2回目の4年前は最初の4年後のケヴィンがトムを殺した後に考える、こうであれば良いという4年前だ。レイモンドは気のいい友人の花屋ではなく、陰惨な連続殺人者だ。トムは最初から自分を使ってレイモンドを殺すためのシナリオを持って近づく。しかし自分は既に自分の作品を書きあげ、それで応募するのだ。だからレイモンドは殺人を続け、自分とは友人のままで済む。レイモンドを殺したければトムが自分でやれば良い。

もっとあり得るのは、ケヴィンが飛び降りて死ぬ前に見たあったかも知れない未来だ。

なかなかおもしろかった。ただ、歌の印象はあまり無い。物語が語られる過ぎているのかも知れない。良い歌があったような気はするのだが。

演出も演技も落ち着いたもので、それはすごく良かった。これでやたらと激高して喚くような芝居だったらがっかりだが、そういうものではなかった。


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