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古本屋で買っておいたシラア(それにしても同じ岩波文庫で、シルレルありシラーありシラアありと忙しい人だ)の「たくみと恋」を読了。
この場合の「たくみ」は現在の言葉だと「企み(たくらみ)」だが巧妙に仕掛けた罠の意味。いつから「ら付き」言葉が普及したのか不可思議だ。むしろ「ら抜き」が普及しているのに。
シラアだけ見て買ったのだが、表紙カバーの見返しに「階級の違う若い二人の清純な恋」とあって、なんだ恋愛戯曲だったのかと放置してあったのだった。
が、読み始めた。すると、楽師のミラアとその妻が娘の様子について話し合っているシーンで始まる。妻は、玉の輿でウハウハ生活みたいなことを浮かれて言っているが、ミラアはそんなうまい話しがあるわけない。むしろ災難が降りかかると困っている。
リゴレットのマントヴァ公とジルダか? と思うが、見返しだと清純な恋ということだからマントヴァ公ってことはなさそうだ。
と次の場で、男爵(宰相である)の秘書が登場し、娘と結婚したいと言い出す。すると妻が「大事な玉の輿を目の前にして」とか余分なことを口にする。ミラアは直接娘を口説くならともかく親の顔色を伺うとか男の風上にも置けぬカスと罵倒する。
秘書は戻ると男爵にどうもミラアの女房の言葉から考えると、男爵のご子息が平民の楽師の娘に篭絡されていまっせと告げ口する。男爵のほうは、大公の愛妾を息子に嫁がせて権勢を拡大しようとしているので、さっそく陰謀を秘書と巡らせる。
と読み進めてうんざり(ヴィルヘルム・テルや群盗のように快男児が「自由!」と叫びながら駆け回る作品を少しばかり期待していたのだった)してきたが、我慢して読んでいたら、これはこれでやはり傑作だった。シラーは良い。
なんといっても、圧倒的なのは、この作品に登場する二人の女性が抜群だ。快男児ではなく、快女児(女性に対する対応する言葉は日本語には無い。女傑になるのかな? 好漢はあるが好女はないし(そういえばホオシャオシェンに好男好女という作品があるが、好漢とその女性版の意味なのかな?))の物語として読めば良かったのだ。
まず、大公の愛妾のミルフォオド夫人というのが、政治のためのトロフィーワイフなのかと思ったら、とんでもない。
スコットランド女王の政争に巻き込まれて両親が惨殺された政府高官の子供が乳母とともに大陸に渡り、あらゆる手腕を駆使して一国の政治を動かすまでにのし上がった女傑で、おそらく本人の述懐通りに暴利暴虐の王を鎮めて国家国民のために福祉に予算を割かせている行政家だった。しかも体は売っても魂の気高さをまったく失ってはいない。
とはいえ当然、自分の立場のアンビバレンツに苦悩しているので、政略結婚のネタにされるくらいならと、(政治的な)恋敵であるミラアの娘のルイイゼとの丁々発止のやり取りで相手の魂の気高さを見極めた上でさっさと国境を越えて逃げ出してしまう。
一方のルイイゼは陰謀に巻き込まれて両親の生命と引き換えに嘘の手紙を書くのだが、魂の気高さはやはり保つ。
ところが、相手の少佐(宰相の息子)は逆上すると、真相を告白しようとする侍従長を殴り倒して耳にせず、一人でいきりたってルイイゼに毒を飲ませて自分も毒をあおぐ愚物。
宰相はそれに比べれば大人な分まともな判断もできるのだが、権力欲にかられているのと持って生まれた平民差別を隠しもしないのでまともな会話が成立しない。
その秘書は、平民に近いだけに最後の潔さはイヤーゴのようで、まあしょうがあるまい。イヤーゴのように獄吏の手に落ちて退場。
ミラアの妻はあまりの俗物っぷりに作者もいやになったのか後半は地下牢に押し込められたまま誰からも忘れられているが、それもしょうがあるまい。
ミラアにいたっては、途中までは子供のためには無償の愛で相手の立場を無視しても一人の人間として戦っているのに、少佐が投げ与えた金貨ザクザクの財布を手にするやコペ転してペコペコし始める(このあたりは、作者の大衆蔑視が透けて見えもする。シラーのくせにアインランドか?)。
かくして大人たちの醜悪な争いの末に子供たちが死んで終わる。
読んでいて途中で気づいたが、ベルディのルイザ・ミラーの原作なのだな。
ベルディだと、ミルフォオド夫人の役回りが消え失せて、ミラアの妻は最初から出もしないし(ミラーは寡夫設定)、男爵と秘書の陰謀による悲劇が強調されて、ルイイゼとミルフォオド夫人の魂を気高く保つという矜持は感じられなかった(むしろ、少佐の苦悶を主題にしてしまっているのだが、シラアでは少佐はどうでも良いただの愚物になっている)。
という記憶だったのだが、オペラでも少佐は愚物だったようだが作品は良かったようだ(ヨンチョバだし)。
ヴェルディ:歌劇「ルイザ・ミラー」(モンセラート・カバリエ)
シラーの原作通りなら、モンセラカバレはミルフォオド夫人にふさわしいが、もちろんルイザなのだろう。
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