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新国立劇場でドン・パスクワーレ。新国立では2回目。前回はがらがらでもったいないなぁと思ったが、今回はちゃんと入っていた。
ペルトゥージのドン・パスクワーレは普通に良い。ガテルの不遜な態度のエルネストはベルカントっぽく良い声で悪くない(あまり好きな音色ではないがそれは好みなのでしょうがない)。
特に素晴らしいのはマラテスタの上江隼人で飛び跳ねるおどけた演技も含めてマラテスタ。ダンディーニのときは声が小さいとか書いているが、やはりコロナ演出だったからか、今回はそういう不満も全然ない。とにかく演劇的な身振りがおもしろいので、実に良いマラテスタで楽しい。
で、ビーニのノリーナの声が素晴らしい。軽くて艶があってこのノリーナは好きだ。
指揮のバルサローナという人は交響的な構造をかっちり打ち出す人。意外なほど音楽の構造や音色設計がおもしろい(ドニゼッティは音色効果に貪欲で妙な楽器を使ったりするのが好きだというのを思い出した)曲だと初めて感じた。
全体に演出が過剰過ぎるくらいに歌手に演技を求める舞台なのだが、ドン・パスクワーレという物語が過剰なので(過剰さ余って平手打ちが飛び出す)合っているのだと思う。それにしても食卓のばかでかさと、それに並行する調理台のばかでかさが実におもしろい。料理人や給仕人が大声で無能の代表みたいにエルネストについて歌うところで、無能大将がうろついているのもおもしろい。
2幕冒頭のエルネストの自己憐憫の悲しい歌があまりに極端なので(むしろ、それまでドン・パスクワーレが、不遜な態度のまさにダニのようなエルネストを許していたことが不可思議だ。というあたりに設定の背景として遺産だか事業だかを引き継ぐ跡取りを作るための存在価値というのが重要なのだろうか)、全然異なるのだがリゴレット2幕冒頭のマントヴァ公のジルダを心配する心が痛む歌みたいでおもしろい。
それにしても、ドン・パスクワーレは金を使わずに貯めるだけの資本主義へのフリーライダー、エルネストは自分で稼がない伯父へのフリーライダー、ノリーナは×一とはいえ死に別れとかではなさそうで夫の収入へフリーライドする気満々の上昇婚志向女(それにしても、この演出というか字幕ではマラテスタとの関係が実の姉妹(妹は修道院)ではなく、単なる知り合いのようだが、実際のところ本来の設定はどっちなんだろう?)、マラテスタだけは医者の仕事もまじめにやっていそうな半面、結婚詐欺の片棒を楽しみながら担ぎまくる享楽主義者で唯一のまともな社会人のようだが太客フリーライダーというすべてが異常な話だなぁとは思った。
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