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日々の破片

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2024-12-30

_ 年末アキカウリスマキ

アマゾンプライムの無料期間が終わるからアキカウリスマキの観たことないやつ見まくろうと妻が言うので、一緒に観まくった。

まずカラマリユニオン(1985)。

カラマリ・ユニオン (字幕版)(アキ・カウリスマキ)

まだ桜ケ丘にユーロスペースがあった頃に大特集があったので、なんとなくそのときに観たような記憶(題名がユニークだし)があったのだが、見始めたら完全に初見だった。

酒場だかレストランだかに男たちが集まって、差別され虐げられている現状を打破するために街の反対側への長く危険な旅に出ようと決める。

街の反対側? というところで、既におかしい。

荒れ果てた道路を男たちが進むが大通りを挟むと唐突にきれいな道になる。

地下鉄の駅に行くと天井が自然洞窟のようになっていておかしい。

どうもアルファビルを観たアキカウリスマキが同じような映画を撮りたくなったのではないか? と思いながら観ていくと、地下鉄を乗っ取ってまともな地下鉄の駅に着く。そのときジャックして縛り付けておいた運転手が縄を解いて出るやいなや運転手をやった男を撃ち殺す。

確かに危険な旅のようだ。

その後の最初の集会でどうやら全員名前がフランクだということがわかる。それにしてもいつものカウリスマキ映画の人々だがペロンパー(ひげが特徴)とペロンパーの親父(ではないが年を取ったペロンパーというかひげが同じ)、無表情ながっちり男(ホテルの前の鞄を盗んでホテルに泊まる)とかがてんでばらばらに街を荒らしながら反対側への決死の脱出行が始まる。一人、二人と殺されたり脱落したりする。大脱走みたいだな。

中米のゲリラ戦を戦ってきた男(フランクとは名乗らなかった、ペッペみたいな名前)の妙な英語ギャグがおもしろい。

驚くべきことに全編映画そのものでおもしろいことこのうえない。ただ、一か所リーダー役(最初に演説をかます)フランクが、本がいっぱいある部屋で回顧録を口述筆記させている(のだか、なんだかわからん)シーンは退屈だった。もしかすると抜群の話術と脚本(台詞)の妙技が披露されているのかも知れないが、それはわからない。

最後、小舟で二人が河を渡ろうとするが発砲音が聞こえる。

続けてハムレット・ゴーズ・ビジネス(1987)

ハムレット・ゴーズ・ビジネス (字幕版)(アキ・カウリスマキ)

完全に初見だが、なんとなく罪と罰のようにまじめな文芸映画を撮ったのかな? とクローディアス(クラウンと称する)による父王の毒殺シーンから始まる。

が、どうも違う。ハムレットが実にナンパ野郎なのだ。でオフィーリアがいつものカティ・オウティネン。二人のシーンで悲愴。

が、部分部分はまごうことなきハムレットなのだった。父王の亡霊とは塀の上(砦の回廊でなければ確かに塀になる道理だ)で会う。

レアチーズがおれのオフィスはトイレの前だから変えてくれ、OKの後のオフィーリアと別れてくれ、お前のオフィスはクローゼットにすると、妙にハムレットが強い。

ホレーショはどうも運転手らしい(シレだかホシだかという名前)。が、その恋人にハムレットはちょっかいを出しまくる。

しかも重役会議を盗聴して、ここぞとばかりにクラウスに打撃を食らわす。

母親との会話中に曲者が衣装箪笥に隠れていることに気付きハムレットが扉越しに撃つとポローニアス。寝室に男を入れるな、それが親父への供養だ、とハムレットは吐き捨てて去る。

と、基本線はシェークスピア通りに順調にレアチーズとオフィーリアの親父を殺す。

オフィーリアは睡眠薬をがばがば飲んでバスタブで溺れ死ぬ。まあ、水に浮かぶ必要はあると思ったのだな。

英国へ逃げようとするハムレットにクラウスの部下が襲い掛かる。が、あっけなく返り討ちにあう。このハムレットは強いのだ。

いったい、レアチーズとハムレット、クローディアス、ガートルドの皆死んでしまうのはどうするのかと思ったら、まずクラウスが仕込んだ毒入り鶏腿をガートルドがつまみ食いして死ぬ。まあ、本家通りと言えなくはないか。

続けてレアチーズが襲い掛かるのをあっという間にテレビ男に変えて始末して(ここは抜群)、射撃が下手なクラウスをあっけなく撃ち殺す。

このあたりのスピード感と間の取り方構図と人物の入れ替え(鶏肉のところとか)はカウリスマキの本領が大発揮で最高だ。

と、シェークスピア通りに脚本は進み、最後、ホレーショが生き残る。

最高だった。

この後は、妻が観ていないというので、まず白い花びら(1999)を再見。

白い花びら (字幕版)(アキ・カウリスマキ)

しかしなんで唐突にこれ作ったのだろう? ドライヤーの回顧展か何かで観まくったカウリスマキが自分もドライヤーみたいに撮ってみようと思ったのかな? とか話し合う。

後で妻が調べて、フィンランドでは金色夜叉のように何度も映画化された国民的メロドラマだと教えてくれた。

斧を取ってから撃たれても(少し心臓を外していることはしっかり描写している)迫って来るおっかなさは記憶の通りだったが、いちいち花を踏み、蝶を踏みにじって殺すようなシュメイッカの性格描写はまったく記憶から消えていた。

ユハが赤ん坊を窓から投げて殺そうとするのを、父親はあんただよとか言われて思いとどまるのは、初めて気づいた。とにかく演出が実に細かい。

で、街のあかり(2006)。

街のあかり (字幕版)(アキ・カウリスマキ)

これもおれは観ているが妻は観ていなかった。

トスカだ。この作品はチャイコフスキーではなくプッチーニなのだな。ラ・ボエームでプッチーニを排したとか言っていたような記憶があるが、そうは言っても聴きまくってしまったのかも知れない。

それにしても、あまりにも頭が悪い主人公過ぎて、負け犬にもほどがあるだろうと思うのだが、それ以上にホットドッグ屋の主人がガールフレンドとのデートだったと嬉しそうな主人公に閉店を告げ、警備会社の裏口で待ち(まさにそのときに泥棒が入る)、手紙を書きまくり、妙にけなげなのが映画っぽい。

一週間水をもらえなかった犬と、なぜかその犬の面倒を見ている少年のことは忘れていた。

最後、手を握り返したように見えたので(初見時は気付かなかったのだろうか)、必ずしも不幸で終わったわけではないのかも知れない。


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