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牧阿佐美のラバヤデールを観に、新国立劇場。B席だからどうかと思ったが、むしろ全体が良く見えて良かったかも知れない。
ドンキホーテもそうだが、ミンクスって作曲家はすぐ忘れてまったく印象に残りもしないが、その場その場ではとても印象的な良い曲を作る。とつくづく思いながら序曲が終わると、いきなり半裸の男が火の前に座っている。
なんかアラビアのほうの話かと思ってたら、インドなのか。とはいえ、まったくインドとは関係ないお伽噺の世界ではある。で、兵隊が6人、あとから生かしたあんちゃんが飛び跳ねながら登場する。で、息もつかせぬまま引っ込んで代わりに服着た僧侶が出てきて、親分が出てきて、踊り子が出てきてちょっと踊って、ベールを被った真打ち登場。ベールがうまく取れなくてどうなるかと思ったが、ぎりぎりのところで取れて踊り始まる(そういう演出なのかな)。
お話はひどい話だ。踊り子は黙って男を取られて泣き寝入りのようなやわいやつじゃなく、ナイフを振り回して太守の娘に襲いかかるし、好きでもない男の言うこと聞くくらいならあっさり死んでしまう。で、呪いのおいでおいでをして寺まで破壊するわ、最後はよもつひらかさへ男を連れて行くのかなぁと思わせながらあっさり振り切って置いてきぼり。
でも、びっくりするくらい優美な踊り。ウクライナの人らしい(ザハロワ)。男(マトヴィエンコ)もくるくる良く回る。リフティングもきれいに決まり、見事なものだ。
瓶の踊り(不思議なパドトロワ)もおもしろい。
ただし、おきまりの白いバレエ(どこがインドなのやら)はやはり退屈で意識を失った(白いバレエの部分で最後まで弛緩なく観ていられたのは今のところ白鳥の湖くらいだな。音楽の差だ)。最初次から次へとわいて出てくるところで32人も出てきて、なんか、親猫のあとから仮面ライダーが1号、2号、V3……みたいでおもしろい演出。きっと8×4だろうと思ったら本当にそうなった、でもカーテンコールは12+10×2。
途中退屈したけれど、全体としては優美で(エキゾチックかなあ? 金粉ショーの神像には度肝を抜かれたけど。どういう魔法なんだ)バレエらしいバレエ。主演の2人が良かったのだと思うが、これは再演したらまた観たいな。
上のやつで思い出したが、なぜ白いバレエで退屈するかというと、おれが未だにバレエの文法をちゃんと知っていないからだ、ということだ。だから音楽が良ければ観ていられるが、そうでないと脈絡が取れないので退屈するのであった。
音楽もそうだが、伝統芸術には伝統が続いた分だけ、複雑な文法が構築されているので、それを知っているか知らないかで、相当なインパクトとなる。伝統芸術ではなくとも、そこらじゅうで見られることだ。
最終的には、それを知りたい(理解したい、取り込みたい)と思うか思わないかで決まるわけだ。
それを知的好奇心の有無で切り分けるのも無理があって、おそらくぎりぎりのところでは、生存戦略で決まるのだろうな。
でも、興味がないものについては、そんな文法をわざわざ覚えたくはないのであった。バレエについてはこれだけ観るようになると、そしてそれが嫌でもなんでもないのだから、そろそろまともに知っておくべきかも知れない。
そうではなく、その文法そのものを愚かなこととしてバッサリ切り捨てるべき場合もある。
ランジェ公爵夫人が素晴らしいのは、バルザックがまさにそれをしているからだ。優雅で文字通り貴族的で、つまり何も生まず、発展もせず、ただ単に時間だけを消化していく恋愛遊戯を、革命の申し子、神権の否定者、現代人の始まりのような連中が、ばっさり切り捨てて、死と恐怖が常に背後にある現実を仮借なく見せつけること、それが実に鮮烈に描かれていることだ。楽しそうに。足取り軽く。
十三人組物語 バルザック「人間喜劇」セレクション(バルザック)
まして、それが気に食わない文法の存在であればなおさらだ。
文法と書いているが、シンタックスではなく、コードが正解かな?
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