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ユーゴーは傑作黒人ボクシング小説のアーム・ジョーで知られたフランスの作家だが、他にもいろいろ作品を書いている。当然だが。
噫無情(ああむじょう)〈前篇〉 (世界名作名訳シリーズ)(ヴィクトル ユゴー)
その中に、ルイ何世だかの女遊びを糾弾する王様は今日もお楽しみという作品があるらしい。
御伽草子にも、天皇から女房を差し出せと言われた大臣が、まったく盗人国の盗人大王が治める最低の国だと嘆く作品があるが(もっとも女房は天女なので一緒に天界へ逃げるわけだが、天皇の「天」とは一体なんなのかという謎かけのようでもあり、実に興味深いというか、室町時代というのはそういう時代だ)、人権という概念が生じる前はいずこも似たようなものだ。
で、この話がめっぽうおもしろいので、好色なイタリア人(つまり自分である)にはぴったりだと考えたベルディはさっそくオペラ化を開始する。
すると、劇場の支配人やら法王庁やらが待ったをかける。そんな王権をないがしろにする作品は、野蛮なフランス人は認めても、文化的なイタリアでは許しませぬぞ。
そこで、考えた末にベルディは、王様の代わりに遥か昔のマントヴァ公国の公爵を主人公にして、題名も刺激をなくしてリゴレットと変えた。
ヴェルディ:リゴレット 全曲(ジュリーニ(カルロ・マリア))
イタリアのオペラ王が自分の作品をオペラにしていると聴いたフランスの文学王、ユーゴは胸を躍らせる。夢の印税生活が待っているのではなかろうか(文学は大して儲からないが、オペラは儲かるのだ)。
しかし、イタリアでの大成功のニュースは耳に入って来るが、お金の話はまったく入って来ない。
そこで代理人にベルディへ催促の手紙を書かせた。
すると、ベルディが返事を寄越す。「は? これはリゴレットという作品ですぞ。主人公はマントヴァ公爵ですぞ。ユーゴさんの作品はフランスの王様が主人公の王様は今夜もお楽しみという作品だというではないですか。私はそんなものはまったく知りませんな」
ユーゴがかんかんに怒ったのは当然である。しかし、イタリアは遠い。
リゴレットは成功に次ぐ成功でイタリア全土を制覇した。次には隣国フランスを制覇だ。
意気揚々とベルディたちはパリへ乗り込んでくる。
ユーゴが待ち構えているのは当然である。
が、あっさり無視された。
あのイタリア野郎、おれさまを完全に無視しやがって、とユーゴは怒り狂うが会えないことには話にならない。
ついに、オペラ座の初演の日がやってくる。
ユーゴは過激なブーイングでオペラを台無しにしてやろうと、一族郎党門人弟子たちを引き連れてオペラ座に乗り込んだ。ちゃんとお金を払って。
パリ初演は大成功だった。
終演後、あるジャーナリストがぷんすかぷんぷんしてロビーを匕首を忍ばせてうろうろしているユーゴを見つけた。
「やや、大文豪の先生、この作品は先生の王様は今夜もご機嫌にそっくりでしたな」
と、事情を知らずに声をかける。するとユーゴはぼそぼそ何かを答えた。
「そりゃそうだ。わたしの作品の盗作だからな。ベルディの泥棒野郎は、本当にイタリア野郎だ」
「で、どうでしたか?」
「うむ、あの見事な四重唱は文学では表現できない。ベルディはバラバよりも10000倍悪い盗人野郎だが、あの四重唱に免じて勘弁してやることにした」(もっともこの後も金を払えという手紙は出したらしい。そして当然のようにベルディはすべて読まずに食べた)
恐ろしい話である。
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