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岸本さんから達人出版会の刊行記念インタビューの注についてツッコミをいただいた。
(地の文、つまりしゃべっているところは人称は途中で変わるし、まったく正規な日本語ではないからどうしようもないが、注は文章だからおかしければツッコミされるのも当然ではある)
11/3 1時現在だと、「語弊を招く言い方」としているが、語弊は招くものではなくてあるものではないか? 招くのは誤解だろう、との指摘だ。
で、何も考えずに使っていたので、そういわれるとそうかも、と口の中で「語弊を招く」「誤解を招く」「語弊がある」「誤解がある」とか呟いて混乱してきたので、『語弊』を大辞林をひいてみる。
(実際は、iPhoneアプリだけど)
すると、
言葉の使い方が適切でないために生じる弊害。誤解を招いたり、意味が通じなかったりする言い方。
となっている。弊害を招くなら、別におかしかないだろうと、考えた。
おかしかないはずだが、散々呟いてみたりしたもので、どうにも語弊はあるもののような気がしてきた。
そこで、『語弊』という単語そのものが古い日本語に属するので、固定された言い回しのみで生き残っているのが原因で、招くに招けないのではないか、と仮定してみた。つまり、誤解のような現存する言葉であれば自由な使い方が可能なのに対して、死語に近い瀕死の言葉(『弊』がほぼ死んだ漢字で、弊社くらいしか現在の用例はないように思える)なので自由な使い方ができないのではないか、ということだ。
そのような場合、Googleで単に『語弊』や『語弊を招く』で検索して、用例を見つけても意味はない。正しい使い方か誤った使い方か検証に足る用例とは言えないからだ。
幸いにして、青空文庫があり、そこには明治あたりから昭和初期くらいまでの遺産としての近代日本語があふれている。
したがって、site:www.aozora.gr.jp 語弊で検索するとおそらく語弊という言葉が人生を謳歌している最中の用例を得られるはずだ。
その結果、夏目漱石も芥川龍之介も折口信夫も、というよりも「語弊を忍ぶ」と「語弊が生じつつある」を除けば、ほぼ全員が「語弊がある」としていた。
つまり、用例的には「語弊はある」もので、少なくとも「招く」ものではない。
あまり釈然としなくて、その後もいろいろと頭の中でこねくりまわしているうちにはっと気づく。
漢語は読み下しての漢語である、ということだ。
語弊であれば、それは「語の破れ(弊は大辞林では「悪い習慣」「害」といった意味しか出ていない。が、原意は破れたり弛んだりした状態の布で、巾を八つに裂いた状態を示す会意文字のはず)」である。
もちろん、「『語の破れ』がある」からこそ、弊害が生ずるのであり誤解を招くのである。『語の破れ』を招けるのは、語弊が生ずる前の時点だ。(語弊が良からぬことを招くとは言えるかも知れないが、そこまでもってまわった言い方はしない。一方、「語弊が生じつつある」という戸坂潤の言い回しはうまいと思う)
それに対して『誤った解』を招くことは誤った命題であれば容易だ。
というわけで、深く得心した。
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