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病院とかの待合用にちょびちょび読んでいたサケッティの巷談集を読了した。
ルネッサンス巷談集 (岩波文庫 赤 708-1)(フランコ・サケッティ)
なんというか、実にくだらないのだが、まあ、おもしろかった。
これは14世紀から15世紀にかけて、フィレンツェ自由都市で適当に(しかし断固として自由人としての尊厳を持ち)暮らした一人の市民が書き残した(経緯を前書きやら解説で読む限り、私家版のおもしろ小説集という感じで、聞いた話や見た話なんかをちょこまかまとめて、友人たちに読ませたものが、一部残っていたということらしい)市民生活の断片集のようなものだ。元禄畳奉行の記録とかに近いというか、むしろ内容の適当さはBlogやWeb日記みたいなもんだな。
というわけで、だいたいの話は、まだ生きているが市民なんちゃらが若い頃、とか、我らが愛すべき大画家ジョットがある日のこと、とか、おれがこないだ市民誰それと市場に行ったとき、とかそんな感じで始まる。
で、どのような話かと言えば、だいたいはこんな感じとなる。(名前とかは適当)
尊敬すべき司祭誰それは、貧乏人ばかりの教区に赴任したのは良いが、あいつの舌鋒は常に貪欲と奢侈に鋭いから、常に倹約の美徳について語り飽食と贅沢をいましめるものばかりだ。かくして、我が愛すべき貧乏人の中の貧乏人、市民なんちゃらは3回目の説法のときに立ち上がって言った。おえらい司祭様、あんたの話はさっぱりわからない。贅沢ってなんのことですかい? 飽食とは? 観ての通り、ここに集まっている連中とは縁の無い話ばかりですな。司祭は深く恥じ入り、以降は貧乏人こそ幸いであるという話をするようになった。
もっとも、これは例外的にまともな(反省するからだが)司祭だが、ほとんどの話において司祭や司教が出てくれば、それは嘘つきで見栄坊のくずばかりで、最後には必ず、というわけで教会というならずもの集団によって主の栄光は今や地に落ちんばかりである、と結ばれる。
あるいは、王党派に対するこき下ろし。偉大な詩人ダンテ(詩才については持ち上げる)が、いかに下劣な政治意識の持ち主かを糾弾し、これだから王党派は人間の尊厳を捨て去ったゴミのような連中である、となる。
批判の的は、法律家にも向けられる。ボローニャで法学を学んできたなんとか氏の甥がえらそうに法律を振り回すので、他の市民から父親は「お金と時間をドブに捨てた」と馬鹿にされるとか。あるいは他の市から来た自由人が、フィレンツェ自由都市には3人しか弁護士がいないと聞いて祝福を与え、しかし、それにしても惜しい。自由が3人分は損なわれているとは、とみんなで嘆くとか。
つまり、自由市の自由人たちにとって、宗教家と法律家と王制派は唾棄すべき存在で、彼らの行動はこれすべて愚者の行いとして笑いのネタにされる。
そして全体の20%を占めるエロ話。ブドウ畑で怪しいことをしているのでブタやらロバやらをけしかけて裸で逃げるさまを笑いものにしたりとか。
中にはこったものもあって、亭主に言い寄られて困るという後家さんの愚痴を聞かされた女房、後家さんに万事わたしに任せとけと請け合い、亭主に承諾するように告げる。亭主が後家さんの家に出かけるのを見届けるや、後家さんと入れ替わりに寝室で待つ女房。ところが亭主は友人を見張りに連れてくる。ちょっと待っててくれと4回やって戻ってきて、おまえもちょっと行ってみろよ、とか。翌日女房、亭主にあんたには7回の貸しがあると告げる。最初亭主は何のことかわからない。すると女房、得意げに最初4回、次に3回と言う。そこで亭主、何も言えずに以後おとなしくなる。一方友人(女房もだろうけど)は最後まで自分は後家さんと遊んだつもりになっているとか。
あるいは、傭兵の逸話。イギリス人の傭兵隊長のところへ坊さんが3人寄進を求めに行く。結構な額にありつき、感激して「平和があなたの上にあるように」と祈ると、隊長いきなり怒り出し「おまえらの寄進がすべて失われるように」と言う。平和になったらおれは失業するじゃないか。だからお返しに同じ目にあうように祈ったのだ。坊主たちは平謝りに謝り、「戦争が常にあなたと共にあらんことを」と祈る。やれやれ(とサケッティは肩をすぼめる)、まったく自由には平和が必要ということが良くわかりますね。こんなくずどもに好き勝手されてるようではまだまだですよ。(すべての話の最後には、必ずサケッティ自身によるその話に対する寸評が入るのである)
あるいは金持ちに土地を少しずつ奪われて、ついに最後となったときに、寺院の鐘という鐘を鳴らし「正義は死んだ」と宣告して回る農民の話(何事かと驚いた参事によって、無事、正義は生き返ることになる)。
数が多いだけに、しかも聞き書き、体験談なので、似たような話がたくさん(市場でロバが暴れてけんかになるとかだけで3から4回は出てきた)、機知に富んでいたり軽妙なやりとりがおもしろいものもあるが(特にメディチ家の人間と当時フィレンツェに屈服した近くの封建領主の息子のやりとりは3、4回出てくるが、まるで世説新語の孫晧と司馬炎のやりとりみたいで滅法おもしろい)、また坊主の悪口か、というようにうんざりするようなものもたくさん。
一方、日本では金閣寺を建てていた。
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今年も相変わらずにお邪魔します。この紹介はたまらんですね(20%など)。早速探します。ありがとうございます。<br>ところでリンク先のアマゾン、中古48円から、コレクター商品48000円から(笑)となっているのがすげく気になります。格差か。格差なのか。
ルネサンスコレクターか、単なる好事家かで値段が分かれるとか。というよりも48円という市価を知らずにコレクター価格をつけた坊主の情報格差