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年取ると、感覚は鈍るというものだと思っていたが、実は違うのではないかという気もする。
明らかに、遠視が入ってくるから視るモノについては衰えたと言い切れる。あるいは、蚊が飛ぶ音みたいなやつは、まったく聴こえないから、これも可聴音域が狭くなったと言えるだろう。
ところが、味覚(実際には舌はほとんど大した感覚がなく、嗅覚の影響が大きいらしいので、その意味では嗅覚かも知れない)については違う。鹹味と甘味については鋭敏になっている(というのは、以前だったらあり得ないくらいの少しの味付けで十分にそれが機能するし、子供の頃だったらほとんど味を感じない=まずい野菜というような位置づけだった白菜やら水菜やらが実にうまく感じる)ように思える。
しかし、機能的に加齢によって味覚だけが鋭くなるということは考えにくい。
その一方で、味覚の大家は海原雄山のような老人と昔から相場が決まっている(印象論ではなく、実際にそうなんだろうと思う)。ひとつは、いろいろうまいモノを食ってきたので黒白つけやすくなっているとか、基準点を確立しているといったことはあるかも知れない。しかし、それだけでは若い感覚に勝てることはないだろう。だから別の何かがあると考えるほうが自然だ。それにしても、通念として老人はあっさり味が好みとされているが、そうではなく、若い調理人にはあっさりしていると感じる味付けの中に深い味わいを得ているというのが真相に思える。
そこで、次のような仮説を立てた。
蚊の音のような高周波ということで、ケータイの若者にはちゃんと言葉が聞こえるが老人(中年も含まれるように思う)には聞こえないというやつが出回っていて、妻と子供が遊んでいたが、どうも、逆に子供には老人が聞こえる音は聞こえていないようだ(なので、遅回しによって示す必要がある)。
ということは、高周波(というよりも人声というわかりやすい音)によりマスキングされているということではなかろうか。それによって老人が聞こえる音が聞こえない。
鹹味と甘味に対して子供になればなるほど鋭敏で、それにより他の雑味がマスキングされてしまう。そのために微妙な味わいを感じることができない。その結果として深い満足を得ることができないために、さらに鹹味や甘味を強調した味付けを求めてしまい、ますます雑味をマスクしてしまい単純な味を感じ取る。
それが加齢によって鹹味や甘味に鈍くなることでマスキング効果がなくなり雑味をはっきりと感じ取ることが可能となる(その一方で、他の味(あるいは香り)と混合されることで、微量であっても鹹味や甘味を検出できる)。そのため、老人のほうが料理の深い味わいを楽しめる。
つまり、この季節は白菜がうまいし、鱈の鍋とか子供の頃はまったくうまいと思わなかった食い物がうまい。
ジェズイットを見習え |
大学の時、においの識別をやっていたので...<br>視覚や聴覚が物理量であることに対して、嗅覚と味覚は化学量であることがキーのような気がします。<br>嗅覚と味覚は単一のセンサーではなく、複数の化学量に反応する複数センサーの出力パターンにより判別を行っているようです。このため、教師パターン(経験した味やにおい)が多ければ多いほど、判別する能力が高くなるのではないでしょうか。また、においや味を言語に置き換える能力も大きいと思います。
なるほど! 識別出来る種類(組み合わせも種類として)が増えるというのは納得出来ます。<br>それはそれとして匂いの識別とは面白そうな研究ですね。結構適用対象はありそうなのに余り聞かないのは、それだけ識別が難しいということなんですか?
特定領域向けはそれなりに使われるようになっていると思います。私が研究していた頃は、某洋酒メーカと共同研究していました。<br>ただ汎用に使用できるものはまだまだ難しいようです。
洋酒メーカーというのはちょっと予想外ですね。言われてみるとなんか想像つくけど。どちらかというと安全産業(建築含む)のほうかと思いました。