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日々の破片

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2011-11-14

_ 北区のコジファントゥッティ

北区がやっている音楽祭みたいなやつのコジファントゥッティを観に行った(11/13)。

コジファントゥッティは、たとえばフィガロの結婚みたいにもう飛ぶまいぞこの蝶々のような誰でも知っているアリアとかない(ような気がする)し、個々の音楽はうまくできているとは思うのだが、僕にはどうもぱっとしない印象がある。

ぱっとしない印象があるし、時々死ぬよりも退屈するのだが、でもところどころ素晴らしく楽しい。

話はモーツァルトのオペラの中でもとびきりにくだらない。

哲学者ドンアルフォンゾは女性は浮気をするのが使命と考えている。そこに若い軍人2人が僕の婚約者は貞節なんだぜ、とか言いあっているのを聞いて、ちょっかいを出す。そんなばかげた話はあるもんか。もしそれが本当なら、おれさまは目の前で2人分もの奇跡を見たことになる。

そこで3人は賭をする。2人の婚約者が他の男になびいたらドンアルフォンゾの勝ち、そうでなければ軍人2人の勝ち。

2人は婚約者に戦地に赴くと嘘をつき、ドンアルフォンゾに言われた通りに妙な格好の外人に扮して婚約者の前に姿をあらわし、徹底的に口説く。ついに婚約者は陥落する。

おれの勝ちだなと軍人に言うドンアルフォンゾ。あの女ぶっ殺すと憤る軍人2人組み。いや、それはだめだよ、結婚しなよとドンアルフォンゾ。そんなこと言ってたら君たち結婚できないよ。だって女性はこういうもんだから。かくして結婚してめでたしめでたし。

あまりにもくだらないので、プログラムとかを読むと、バカの1つ覚えよろしく、「実際はモーツァルトほど女性を尊重していた人はいないのですが、」といった愚にもつかない前置きをしてから物語を解説することになる。

そんなもの単に「モーツァルトの時代の上流社会ではこういうもんでした」と書けば良いだけの話だ。むしろ貞節を守って誘拐されて頓死してしまうのがバルザックのランジェ公爵夫人だった。女性のほうが立場が弱いのだから、男の想いを受け入れなければ殺される危険性すらある。ならば、誘惑に負けるほうが賢明だ。

ランジェ公爵夫人 [DVD](ジャンヌ・バリバール)

だいたい300年前の人間の道徳観を現代の基準でどうこうするほうがおかしいのだからスルーしておけば良いのだがなぁとつまらないプログラムは読むのをやめるわけだが、音楽は楽しかった。

単に森麻季がフィオルディリージという程度の理由で観に行ったのだが(あと安かったというのも大きいかも)、観客で満杯。府中の森もそうだが(ティアラ江東もそうだ)、地方都市のクラシック環境って都会より進んでいるみたいでちょっとうらやましくもある。

オーケストラは復元古楽器を使って、ボワンボワンと良い感じ(妙にくるくる巻かれたホルンとか、左の多分トランペだろうなぁというような妙に長いラッパとかが目についた)。気のせいかも知れないが、弦の音に妙にうまいぐあいに管楽器がからむような気がした。

物語的(登場人物の人間性)にも音楽的にもデスピーナという姉妹の小間使いが一番好きなのだが、この舞台でもとても良い感じだった。特に1幕の途中で妙に軽快な歌を歌うのだが、それが実にご機嫌な調子でこの歌手のことも気に入ったが名前を忘れた。物語上、デスピーナは常に成功するわけではない陰謀をいろいろ巡らすという点ではフィガロのようだし、貴族的なくだらない上っ面を嫌って言いたい放題という点ではパパゲーノのようだし、モーツァルトの筆も冴える道理かも知れない。

舞台は演奏会形式なのだが、適度に振り付けがあってそれなりに退屈させないようにやっていて、楽しかった。こういう軽い舞台も良いものだな、というわけで実に良い日曜の午後を過ごしたのであった。


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