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日々の破片

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2013-02-02

_ メディアの変化と王義之

何気なくつけたNHK-Gで、これは誰の書でしょう? とか問いかけがあって何か書付が示された。江戸時代の人の何かかなぁとか思って眺めていたら、西(最初は東っぽい)東(ただし生まれた時は西)晋の王義之(350年ころに活躍した人)で、名前に見覚えがあってもさっぱりわからないのでついそのまま見てしまった。(追記:木村さんの東西の順序のご指摘により修正。当時の人(王羲之はローティーンのはず)にとっては皇帝が変わっても同じ司馬氏なので、単に戦火を避けるための遷都くらいの意識だったのかなぁ)

なぜそれを江戸時代かと思ったかと言えば、ひらがなが見えたからだが、それが草書だったのだった(さらにその後に、「ふ」にしか見えない「不」が出てきたりして、なるほど確かに日本の文字は中国の影響下にすべてあるのだなぁと得心した)。

番組そのものは、上野でやっている王義之展の宣伝が主なのだが、いろいろおもしろかった。

・4世紀初めに紙が十分に普及したので、メディア革命が起きた。

・それまでの文字は石に刻むことを前提としている。

・紙に筆で書くことが主流になったために字体が変わる。王羲之がそこでスタンダードとなった。紙に筆で書くための文字(行書と草書)という革命だ。

・唐の時代には散逸が始まったので、太宗が保存をさせた。保存というのは、ここでは模写である。

・そのために模写のための技術が生まれたが、技術そのものは名前と、薄い紙に窓明かりを透かして蝋がどうした、の3語程度のみにが残っているだけで、どういうものだったかはわからない。

・何しろ模写のはずなのに、さらっと書いたような筆の流れが作られている。(番組の中では若い研究者が独自に墨の濃さを変えて何度も細かい線を入れることで復元に挑戦してみる)

・現在わかっている限りでは、王羲之の真書というのは存在しない。(しかし、それはまったく関係ない。なぜならば、太宗が技術者に作らせた模写がいくつか残っているからだ。これは素晴らしい。文字が美術ではなく技術であり、書かれたものではなく、書き方の技術と内容が評価の対象だというのは理に適っている。つまりトレースが正しく行われているとみなせられれば、それはオリジナルと同等の価値を持つということだ。無くなるよりも残るほうが良いということであり、コモンズな感覚だ)

・「一」の書き方が、最初の止めがなく、右肩上がりに書かれている。

・筆を手にして「一」を書くということは、手首または肘を中心にした回転となるので右肩上がりになるのが当然で、文字を契約のための象徴としていた時代に水平線として書かれていた(刻まれていた)字というものを、人間へ取り返すことだった(というようなことを京都精華大学の先生が言っていて、こじつけだなぁとは思うが、その一方で、ルネサンス(人間復興)というのは確かにそういうことだし、それが技術革新(ここでは紙の普及)を契機とした文化的な革命(紙に筆で書くための文字の発明)だというのは納得がいく)。

王羲之――六朝貴族の世界 (岩波現代文庫)(吉川 忠夫)

鑑賞対象としての愛でる書にはそれほど興味はひかれないが、文化に変革をもたらした人の話は好きなので、この本あたりを読んでみようかなと思った。

_ メールの文体と内容

京都精華大学の先生の王羲之についての話の中でもうひとつ興味深かったのが、書の内容に触れたところだ。書への思い入れを抜いて技術論にすると以下となる。

・紙が普及し

・行書や草書といった筆と紙を使って書くのに適した(負担がかからない)記述法により

・手紙というものが身近なものとなる。(軍事や政治のための連絡用ではなく、個人から個人への信愛の情による通信に変わる)

・王羲之の手紙には、友人の奥さんが病気になったことを心配する手紙や、故郷の先祖の墓が匈奴によって荒らされたことを憤る手紙や、家庭菜園の報告の手紙などがあり、それらにはそれらにあった書法が取られている。文字の間隔や一気呵成に感嘆詞を綴るなど。

もちろん、この話から想起するのは、10キーとたかだか10桁×10行程度のサイズに素早く入力される携帯メールの文章や構成文字(というか記号というか)なのだが、スマフォ旋風によってあっという間にこの文化は消え去ってしまって、おそらく(書籍として残された携帯文学以外は)残らないだろうなぁという感慨だったりする。

なぜケータイ小説は売れるのか (ソフトバンク新書)(本田 透)


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