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東劇でメトライブビューイングのトロイア人。
ベルリオーズというのは変な人なので、予想通りトロイア人もバランスが異様な変な作品だった。というか、休憩を入れて5時間30分という長さも異様なうえに、もともと上演不可能な規模の作品というのもベルリオーズらしくて(意味ないが)好感を覚える。
ベルリオーズの奇妙さというのは、体系的な学問ではなく趣味と独自研究で学問した人独特のアンバランスさにある。幻想交響曲がいきなり5楽章構成なのも、第2交響曲になるはずだったものがレリオになってしまった(という記憶があるけど本当かな)のも、パガニーニにヴィオラ協奏曲を頼まれたのに突如としてイタリアのハロルドになってしまったのも、ロメオとジュリエットが自分でもわけがわからなくなって劇的交響曲というおれさまジャンルの曲にしてしまったのも、古典教育の欠如とそれを補うための独自研究が原因と考えると腑に落ちる(もっともそれはベルリオーズの問題ではなく、それこそがロマン派だということもできるのは、シューマンがやはり異様なバランスだからだ)。そもそもピアノが弾けないのでギターで作曲するというところからして変則的だ。
で、トロイア人のバランスの悪さは特に第2部のカルタゴのトロイア人に顕著で、終わったかと思うとメロディーがつながって次のバレエになり、終わったかと思うとメロディーがつながって次のバレエとなり、はて、この大天才は無限旋律も発明したのかと思ったら、グルックがそういう構成だと幕間インタビューで知るのだが、いくらバレエを入れるのが常識のフランスのグランオペラとはいえ、極端だ。あまりにバレエがたくさん入るので、ついにカルタゴの女王がセリフで、もうやめて頂戴と言ってやめさせるくらいだ。
が、それを別とすれば、第2部の前半2時間は圧倒的に濃密で、しかもやめろとは思うが、退屈さが無い気持ちが良い緊張が継続して、おそろしい傑作だった。最初にトロイア人がカルタゴ女王に謁見していると、ヌヴィア人が攻めて来たという伝令が入り、それを受けて、共同戦線を張ることを提案し、仲良くヌヴィア人殲滅の大合唱をしていくところの盛り上げのうまさには圧倒される。また、アエネアスの歌手の歌いっぷりが見事で、この休みなく続く2時間を堪能できただけで観に行って良かった。
トロイア戦争は最後の女性たちの自決大会は実に良いが、途中、木馬を運んでからがたるみまくって(演奏ではなく曲そのものが)退屈した。また、トロイア人が去ってから、女王が腹を刺す(という演出だが、トロイア女性の自決方法に合わせたのだろうか、それとも対ヌヴィア戦争の報告にアエネアスが献上した剣を使うという脚本なのかはわからないけど、幕間インタビューではブリュンヒルデのように火を点けるというような言い方からは自刃するというのはちょっと違和感を持った)までの間はしつこ過ぎる(2幕の妹のアンヌ(ディドーに比べると妙に現代的な名前でこれもちょっと不思議)とナルバルの、恋すりゃばっちり、不吉な予感の掛け合い合戦もしつこいが、こちらは良い感じ)。ついには、ハンニバルを予言し、しかもカルタゴの滅亡まで予言するのは、ウェギリウスの原作がそうなのか、ベルリオーズの趣味なのか、ちょっとおもしろかった。
・スーザングレアムが、母親的女王として見事に君臨していて、あれ、こんなに良い歌手だったのか、と感心しまくり。(子供によると、顔がおばさんそのものだから、ズボン役だといまひとつだが、この役はまさにぴったりなのではないかということだが、納得がいく)。いきなりBフラットが2個ある曲から始まると語ると、インタビュアーのディドナートがそれはすごいと共感しまくるのは、メゾ同志のインタビューならではでおもしろい。
・ジュリオチェザーレで、宦官のバックでにこにこしながら踊る2人のうちの東洋人のほうがカルタゴの農民役で出ていて、お、なんか顔を覚えてしまったぞ、とか。
・1960年スカラ座による全曲盤
Berlioz: I Troiani(Berlioz / Rankin / La Scala Theatre Orchestra)
シミオナートはカヴァレリアルスチカーナのサンタ(ソプラノ)で有名だが、おそらく女王を歌っているのではないかなぁ。
鉄道以外は信用ならないja.wikipediaでは、上記の録音(全曲盤というのが額面通りとして)はスルーされていて、やはり内容が怪しい(が、修正できる材料はない)。
ベルリオーズ:歌劇《トロイアの人々》全曲 パリ・シャトレ座2003年 [DVD](ガーディナー(サー・ジョン・エリオット))
スーザングレアムでDVDも出ているのか……
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