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日々の破片

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2013-09-02

_ メトのリング

土日にかけて、メトライブビューイングのニーベルングの指輪。

ロベール・ルパージュの演出は、装置は抽象、演技は具象というもの。正直な感想としては、ライブビューイングというメディアではともかく、気持ち悪かった。

装置は素晴らしい。24本の鉄板が並びそれぞれが油圧ポンプで独立して動き、しかも個々の鉄板が複数箇所で分離されたり曲がったりする。総重量42tだそうだ。その板に対して場面に合わせた映像を各板毎に投影することで、木材の柱、森、河、洞窟、ただの背景、粗筋の影絵舞台、材木を積み上げたお焚台、何にでもなる。ワルキューレ第三幕では馬となって騎行する。マシンと呼ばれている。池となると、覗き込む歌手の映像を投影し、それを波紋の映像と重ね合わせ、リアルタイムに波紋に合わせてモーフする。

写実的な投影に対し個々の鉄板を自在に動かすことで無機的な味わいをつける。素晴らしい仕組みだ。

それに対して歌手の演技はホームドラマ並みに説明的だ。これが面白いと言えなくもないのだが、音楽に集中することを妨害する。

ファーゾルトが、働く理由の歌を歌えば、それませフリッカに守られるかのように抱きしめられていたフライアが、フリッカともども、魅せられたかのように近づいて行く。身代金を払われた後は、名残惜しそうに身振りで演技するファーゾルトを二度と見もしない。

ジークムントは蜜酒をジークリンデに味見させたあと、受け取った盃をわざわざ大げさな身振りで半回転させて唇を重ねる。グンターはジークフリートの血で汚れた手を洗うために鉄板を登り高いところでライン河を移している板の上で手を洗う。映像の河が真っ赤に染まるがグンターの手は白くなる。

翻訳も英訳からの翻訳なのか、異様に説明的かつ聞き慣れない。嫉妬が呪文のように繰り返される。

第三夜は金管の粗が目立った。特にワルキューレの2幕から気になったのだが、東劇のスピーカーは音楽的ではない。会話を聞きやすくするための映画館ならではのスピーカーなのだろうが、中音域の強調が一度気になるとしばらく尾を引く。

幕間インタビューでルイジが語っていたが、ルイジが振った2夜と3夜は、ライトモティーフの強調が激しい。これまで全く気づかなかったハーゲンの歌の細かなライトモティーフの散りばめがわかったりした。

これらのばらばらなメトっぽさが合わさって同時進行するために、非常に気持ちが悪いのだ。ただし、猛烈にわかりやすい。そのわかりやすさが、安っぽさとなるのだが、それがマシンのせいで安っぽさが打ち消されて、ますますアンバランスな印象を受ける。

歌手はテキサス出身のジークフリートが結構良い。ただ、歌い方があっさりしているため、物足りなさも感じる。ファフナー、フンディング、ハーゲンが同じケーニッヒという歌手でこれは見事。ローゲはなぜかブーされていたが若くて皮肉な良いローゲ、ヴォータンは前夜祭ではパッとしないバカっぽいウォータンだなと思ったらそういう演出らしく、夜が進むに連れてどんどん良くなる。

_ 続き

フリッカの人が巨漢だからというのもあるけれど、存在感が半端ではない。特に第1夜の2幕目での登場シーンは思わず笑いそうになるくらいに、存在感がある(はりぼての羊のせいも多少はある)。

それによって、フリッカのライトモティーフが家庭生活の音楽に常に影響しているように思うようになった。特にミーメの輔弼のライトモティーフに顕著に感じた。

グラーネが骨のようなはりぼてで、まさか17年間起きてて骨になっているのに、みんな気付いていないという設定ではなかろうかとか。

ヴァルトラウテが、指輪の魔力に魅入られてしまっているという解釈を幕間のインタビューでヴァルトラウテ役の人が語り、それなりに納得した。

ずーっとジークフリートが一番つまらないと思っていたのだが、あらためて聴いてみると、ジークフリートは相当おもしろい。そうではなく、ライン紀行をはじめとした第3夜のノルンの綱が切れてから、ギビッヒの館がでるまでの間がつまらないせいで、同じライトモティーフが続くジークフリートがつまらないのだと勘違いしていたようだ。

ルイジが、一番苦労するのは神々の黄昏の最初の1時間で、それを乗り切ってもまだ1時間あると語っていて、いやまったくその通りと同意する。というか、ライン紀行を最後まで集中して聴くことはこれまで一度も出来ていないのだった(考えてみると、東京リングの最初と2回目、マリンスキーと、生でも都合3回は観ているのだな。でもブーレーズのは最後まで聴きとおせたような)。

ボイトのブリュンヒルデは良いのか悪いのかさっぱりわからない。音楽としては全然魅力的ではないのだが、演技は良い。というか、とにかく歌手に演技させまくり過ぎるのは、どうにかならないものか。映像もやたらとアップを多用するので、ホームドラマみたいだし、事実内容はホームドラマなのだからしょうがないのだけど。

どうもグンターに見覚えがあるんだよな(ロシュフォールの恋人たちの、ジョージチャキリスの相棒かなぁ)。


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