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日々の破片

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2014-09-07

_ スズメとネズミとホットケーキ

昨日神保町でロシア料理を食い終わって茶を飲んでいると、妻が壁のところに太陽を囲んで小動物が楽しそうにしている絵本が置いてあるのに気付いた。

で、読んだ。なかなか味わいがある。

スズメと子ネズミとホットケーキ ロシアのむかしむかし(イリーナ・カルナウーホヴァ)

まず太陽だと思ったのがホットケーキだというのには驚いた(後になって妻が言うには、ロシアのブリヌイというパンじゃなかろうかということで、おそらくそうなんだろう)。

森の中に小さな家があった。

そこには、畑を追い出されたスズメと、猫から逃げて来たネズミと、フライパンから逃げ出したホットケーキが仲良く暮らしていた。

スズメは朝起きると畑に行って麦粒やら野菜やらを集めて家に持ち帰る。

ネズミはいっしょうけんめい木を齧って薪を作る。

そうやって用意ができたところでホットケーキがシチューを作る。

そして晩御飯だ。

晩御飯になるとお互いに自慢をしながらシチューを食べる。

「それにしてもおいしいよなー」とネズミ。

「そりゃそうだ。おいらのお腹につまったバターたっぷり溶け込んでいるからな! 出来上がりにおいらが鍋の中をひと泳ぎ! これで最高のシチューの出来上がりってわけさ」とホットケーキ。

「おれが集めた材料が良いってことを忘れんなよ」とスズメ。

そうやって仲良く暮らしていた。

ところがある日、スズメがふと考えた。

おれは朝から晩まで材料集めに飛び回っている。ところがネズミは午前中の間に薪を作ると午後はずーっと昼寝だ。ホットケーキにいたってはシチューを作るだけでいつもベタベタしているだけじゃないか。なんてこった。不公平だ。不平等だ。

かくしてその日の晩御飯は職種転換会議になった。

ネズミはホットケーキの代わりにシチューの担当、ホットケーキはスズメの代わりに材料集め、スズメはネズミの代わりに薪割りだ。

さて次の日、ホットケーキが材料を探して森の中をうろうろしていると向うからキツネがやってきた。

やあ、良い匂いがするキミィ、キミ、このへんじゃ見かけない顔だけど食べられるのかなコン?

もちろんさ! おいらのお腹にはバターがたっぷりつまっていて、最高のシチューが作れるんだぜ。おいらほど美味しいものは他にいるもんかい!

誇り高きホットケーキは良い匂いと言われてすっかり嬉しくなって胸を張った。

その瞬間、キツネはいただきます! と飛び上がると張った胸の脇をガブリと噛み千切った。

いたたたたたたたた! ホットケーキは泣きながら家に向かって死ぬよりも速く逃げ出した。

おーい、本当においしいコン! また来てくれコン!

その頃、ネズミはシチューを作る練習をしていた。鍋にお湯を沸かして、となめてみて、全然おいしくないよなぁ…… なんでだろう?

そうだ、ホットケーキは仕上げに飛び込むとか言ってたな。よし飛び込んでみよう。

ジャボーン、あちちちちちち、煮えたぎる熱湯に飛び込んだネズミはあっというまに全部の毛が抜け落ちてしまった。これまた泣きながらソファに倒れ込んでぴくとも動けずしくしく泣くばかり。

一方、スズメは薪の山を前に途方に暮れていた。おれの手では斧は持てないし、そういえばネズミは齧るとか言ってたな。では、ちょっとおれの鋭い嘴で一突きだ。メシリ! 固い薪に思いっきり嘴を突きたてのが運の尽き、スズメの嘴は根本からポッキリ折れてしまった。痛いよ痛いよ、スズメも泣きながら家に飛んで帰る。

かくしてその夜はいつもの楽しい夕餉の代わりに、真っ赤に腫れ上がったネズミと、お腹が大きく欠けてしまったホットケーキと、嘴がぽっきり折れたスズメのすすり泣きだけが家の中からは聞こえてきた。みんなごめんよ、おれがくだらないことを言いだしたばかりに、とスズメは平謝り。まあ、しょうがないってことよ、と他の二人。

次の日からは元の役割に戻して、また三人の楽しい暮らしが始まりました、めでたしめでたし。


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