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イギリスの20世紀初頭の短編作家の作品集。
とても奇妙だ。ハートレーに影響を受けたということだが、そうかも。サキのように辛辣ではないが、リアリズムと幻想小説の中間にある。
表題作はまるで神話。だが下世話。なんとなく秋田県あたりの伝説にありそうな内容だ。
冒頭の虎のヌイグルミに入ってライオンと戦うことになった男の心理小説の唖然とする展開(これは有名らしい)。傑作だと思うのだが、妙に下世話。
非常に静謐な幽霊譚(ただしヘンリージェームズみたいに曖昧ではある)のポリー・モーガン。これは本当に見事な佳作と思う。しかし妙に下世話である。
アラベスク―鼠は異様な傑作(妙に想像力を刺激される)
その一方でうすのろサイモンとか王女と太鼓とか、どう考えても駄作というか駄作未満というかひどい代物もあり、しかし本当に駄作なのかどうなのか謎めいてもいて、結局奇妙、の一言になったり。
教養なき労働者がそれでも作家(というか文筆家)になりたくていろいろ努力した結果、無事作家として世に出ることに成功するという巻末のコッパード自伝の要約が実におもしろい。
まったく波瀾万丈ではないのだが(単に仕事について首になって、仕事について首になって、恋人の親父に殴られてそれでも結婚して、引っ越して文通して、仕事についてやめて、引っ越して文芸サークルに入り浸って、仕事についてやめてと、20世紀初頭のイギリス人の労働者階級の暮らしが続くだけで要するに下世話なエピソードには事欠かないのだがそれだけで何か高級なことが起きるわけではない。のだが、おもしろい)それが作風に影響していないわけがない。
妙に高踏的でありながら下世話で、詩的でありながら散漫なまでに散文的、洞察しているようで表面的、しかし時々ほかではみられないはっとする陰影があったり(特にポリー・モーガンは素晴らしいし、冒頭の銀色のサーカスも悪くない)、実に奇妙な読書体験だった。
郵便局と蛇: A・E・コッパード短篇集 (ちくま文庫)(A.E. コッパード)
元は国書刊行会から出された幻想小説集の1冊だったらしい。
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