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これは傑作だった。重層構造からはミステリー小説というよりは文学の位置に置いても良い(むしろそのほうが良さそうだ)。
にしても、主人公は夜の果ての旅とか読んでいて、それを見た刑事に高校生の本棚と言われるわけで、まだまだフランスでは文学を高校生が読むのだな。
145cmしかない一方の主人公の警部と仲間のお金持ちで趣味が良い刑事(中川が交番から警察署への勤務に変わったようなものだな)、貧乏で半分泥棒のような刑事、太っちょで大柄な上司、貴族階級らしい不快な検事というオフェンスに対してディフェンス側は、1部は誘拐と監禁の物語で、2部は殺人の物語となり、そこまで読んでまだ、3部が残っていることに気づき、しかもそれが30%くらいあるのに驚いて、読んで、最後、貧乏刑事には泣けた。
開くといきなり登場人物紹介に硫酸で殺されたという被害者がぞろぞろ書いてあるので(1部の前半にはほとんど関係ないこともあって)なんだろう? と思ったが、硫酸で殺すというのはいささか無理がありそうだ(アルカリならわかる)という点が、ファンタジー的で、そのため相当残虐な殺人描写が行われるのだが、それほど犯人に対して嫌悪感を持たずに読み進められる。もしかすると、そのような読者の登場人物に対する感情も作者は計算して構成しているのだろうか? と奥が深い症候群に囚われざるを得ないほどうまくできていた。
実際のところ、2部まで嫌悪感の対象は、1部では誘拐犯(見た目が怖いだけではなく実際のところ粗野だ)と検事(嫌な奴だ。主人公の背が低い刑事側の視点に立つことになるのでいちいち嫌味が不快さ120%クラスとなる)で、2部では検事(相変わらず嫌な奴で、嫌味にも磨きもかかり、しかも刑事側は成果を挙げていないのでますます不快になる)と貧乏刑事(せこすぎる)になる。この読者の登場人物に対する思いが十分に生じたところでの3部となる(実際問題、3部ではそれまでの嫌悪の対象となる検事はほとんど姿を出さない)。結局のところフランス文学お得意の心理小説の枠組みとしてミステリーのスタイルを使った作品として読めば多少の破綻があっても(いや、私的制裁よりも公的制裁が正しいのだから破綻はどこにも無いとも言えるのだが)問題ではない。
・法は法だという点と、冤罪はすなわち悪という信条があるので感心はしないのだが、すべての事象には理由があるのと、貧乏刑事の真情のおかげで読後感は良いものだった(いや、それはないなぁ。正義のほうが重要だという気分にされるからかも知れない)。
読む価値は確実にある作品だった。そう思うのだから、当然、読んで良かった。
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