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日々の破片

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2018-09-09

_ ドイツマイスターの眼鏡を購入

数年前からキラー通りを歩く都度、木のフレームというものを飾っている眼鏡屋が気になって気になってしかたがなかった。

それで、使っていた眼鏡のレンズが相当はげて汚れてきたのもあって、そこで眼鏡を作ろうと思い立った。とはいっても値段が全然見当がつかない。木という素材はそこら中にあるけれど、木の眼鏡フレームがそこら中に売っているわけではないから大量生産とは思えない。ということは相当価格は高そうだ。というわけで、一応予算は10万とレンズで12~3万くらいかなぁ、高いけどまあいいや、とあたりをつけて出かけたのが先々週。

店入ると誰もいないからショーケースを見たら、ぱっと見で木のフレームは20万とかする。予算の2倍じゃん。とびびったが、5年使えば年4万、月当たりで4000円弱、なんだ通信費よりも安いじゃん、と腹を括ったところに店員が出てきた。ら、いきなり予約か? と聞かれるが、眼鏡屋さんで予約が必要だなんて考えてもいなかったのでもちろんフリだ。

暑くて客が誰もいないから問題ないということで、最初に、検眼しろと言われる。もちろんそのつもりだったので検眼が始まるのだが、やたらたくさん検査があって驚いた。

最初に趣味を聞かれて、なんだそれ? と思ったら、要するに眼鏡で何を見るかのユースケースを知るためだったと後でわかったが、なるほど、そういうことか。

アルファベットが5つ並べたのを片目ずつというのはわかるが、分度器みたいなのが出て来ておそらく乱視系の検査も入る。驚いたのは右目では120度あたりの軸の数値が朧状というか鱗上で読めないことだ。鱗状に見える部分があって、伊賀の影丸かなにかで徐々に姿が消えていくような見た目なのだ。

なんか左上のほうの数字が読めないと言うと、それが右目の視野欠落だ(があるというのは説明済み)でしょ? と言われる。続けて眼鏡屋さんは、それが中心にある人もいるんですよ、と慰めなんだかなんだかよくわからないことを言うが、そうか、視野の欠落というのはこういうことなのか。と人体の不思議に感動した。

それにしても眼科では明滅する点の分布で調べるので、このような形で欠落が視覚化されるとは思わなかった。というか、影になっているのだろうくらいにしか考えていなかったのだが(日常生活では左目が勝手に見て脳内で合成するし、そこを見たいときは視線がそこへ動くので欠落部そのもので意識的に何かを見ることはできない)鱗状に見えるのか。おもしろい。

さらに検査が続く。右目で縦棒、左目で横棒(逆かも知れないけど)の十字が十字に見えるか? というのをやって、全然ずれていることがわかった。

なるほど、確かにオペラを見ると舞台にドッペルゲンガーが見えるのはこういう原理かと感心するが、それを直すのが眼鏡屋の使命だから、無理に焦点を合わせずに自然に見て十字が中央で交差するように、と説明されながらレンズを変えて調整していく。へー、なるほど。

なんだかんだで1時間以上検査をして、さてフレームの選択になる。

もう腹を括っているので木のやつ一択だ。

それでもいくつか種類があって、色が黒と茶と灰色で灰色がお勧めとか言われる。黒も渋いかなと思ったがあまりおもしろくない(悪くはない)ので、お勧めの灰色を選んだ。さらに四角いのや楕円のがあるが、今使っているのが四角なので楕円にしてみた。

レンズもこれまで購入していたのと3倍くらい違ってここでもびびったが、もう開き直っているのでOK。むしろ先払いすると、ここまで客がいないと(予約入ってなかったのか、誰も客が来ないのでおれの貸し切り状態)夜逃げされたら怖いなとか考えるが、クレジットだから引き落とし前に物を受け取れそうだしまあどうにかなるだろうとサインする。

で、できあがったのをかけて、おお、確かに木だ。ちょっとざらつく触感がおもしろい。意外と弾力性があるな、とか、鼻当ての部分は木だからプラスティックと違って溶けなさそうで良いな、とかいろいろ考えながら、家に帰ってから屋上で横になってオリーブの木を眺めていたら、すごく違和感がある。

妙に立体感があるのだ。ふと、遠くのクレーンを眺めるといつもは2つ見えるランプが1つに見える。わ、ふつうに焦点があっていると、いちいち注視点で左右の焦点合わせ(といっても無意識にしているわけだろうが)をしないので、ディープフォーカスなんだ、と驚いた。

あの十字の検査の結果がこれか。と驚く。なるほど、これは良いものだ、とレンズのほうにもあらためて感心した。

というわけで眼鏡を作って何十年、初めてコンタクトレンズをして、耳と鼻が解放されて、視野すべてがくっきり見えたときに劣らない感動があって驚いた(子供の頃にはっきりと見えたときにも感動はあったかも知れないが、覚えていないと、書いた瞬間に思い出した。新宿の百貨店に親に連れられて作ったのだった。床のリノリウムの四角がはっきりタイル状になっているのを知って仰天したのを思い出した。記憶というのはおもしろい)。

というわけで、オペラ用に遠くを見る用の眼鏡も作ろうという気分になった(が、さすがに金が続かないので今度は木はなしだな)。


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