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東劇にメトライブビューイングのサムソンとデリラ。最初日付を勘違いしてアイーダのネトレプコのように思い込みながらタイトルはサムソンとデリラとわかっていたので、ネトレプコがメゾで歌うのかと思った。
カラスのアリア集にで私のハートをあなたの声が直撃よを良く聴いているから何の疑問もなかった。
だからガランチャが階段のてっぺんから出て来て驚いた。でもまったく問題なし。
最初合唱がヘブライ人の恨み節を歌う。そこにサムソンのアラーニャが元気良く登場。ペリシテの太守から剣を奪い兵士たちを追い払う。
ダゴン神(なんかクトゥルーみたいだな)の大神官が登場して兵士の不甲斐なさに怒る。
唐突に妖艶極まりない音楽となり女性バレエが入りガランチャ登場。ちょっとブロードウェイ風だな。サムソンを誘惑する。ふらふらとそっちに動いて行くサムソンを対抗して歌で引き留めるヤハウェイの神官(この人も良い声)。奇妙な歌合戦となる。
幕間インタビュー。おれサムソン大好きだよ。子供のころ祖母さんが聖書読んでくれたから良く知ってるし、とアラーニャ。だからあんた髪がロンゲなのね、とスーザングラハム。
どこまで台本があるのか知らんが、スーザングラハムが元々サンサーンスはオラトリオとして……と言いかけた瞬間に、それは嘘だな。最初に書き始めたのは2幕だ。どこがオラトリオ? まさにオペラじゃんか! と言い放ってグラハムが鼻白むのがおもしろかった。
2幕冒頭。
デリラが愛の神でもあるダゴンに復讐の成就を祈願する。美しい歌。とても美しい。
リゴレットの2幕の最初でマントヴァ公がおれはあのこが好きなんだ、本当にとっても心配なんだと切々と歌うのにドラマ構成としては似ている。
がんばれデリラ、悪いサムソンに復讐だ!
ところでなんの復讐なんだろう? (と、後で、子供と話し合う。いずれにしても俺も読み子供も読んだ、家にある聖書物語ではサムソンのところはとっても印象的なのだが、それは目を抉るという子供のときに最初に出会う信じがたい残虐描写が原因ではないだろうか? とは子供の意見だが、確かにそうかも。しかしデリラが何を恨んでいるかはわからないが、なんとなくわからなくもない)
2幕はすばらしい。余計なバレエ(フランスオペラ最大の欠点)もなく、大神官、デリラ、サムソンが天国のような歌を歌いまくる。
演出も良く、デリラと大神官の丁々発止っぷり。それのせいもあってアラーニャというよりもサムソンのでくのぼうっぷりが生きる。
あなたの声の最後、おれはデリラがサムソン、サムソンと囁くのかと、アリア集なんかかから思い込んでいたが、サムソンがデリラ、デリラ、ジュテームと歌うというか悲痛に叫ぶというかなのか。少なくともこのスコアでは。
二人で寝室に行く。ペリシテ人の隠密部隊がくるくる回転しながら窓から入り込み、寝室へ向かう。
秘密を手に入れた、とデリラが髪を一房手にして飛び出してくる。
裏切られたといいいながらサムソンがのたのた追っかけて来て隠密部隊に捕えられる。
ここの「裏切られた」からの急展開がどうにも、「おれの指輪だ!」のハーゲンみたいだ。
幕間。ハハハハハとインタビューが始まるや否やナウリが悪人笑いをしてみせる。悪役を演じることという微妙な立場を軽妙に話す。おもしろい。
3幕。地下牢で石臼を曳きながら反省するサムソン。ヘブライ人の恨み節の合唱ががんがん流れる。
ダゴンの大神殿は立派な(しかし縁起が悪い)神像。子供なんか、サムソンが真っ二つにするのかと思ったら最初から真っ二つじゃん、とか言っているくらいだ。相変わらずバレエが入るが、すでにデリラはほとんど歌わない。サムソンの祈りばかりだ。
アラーニャはむさ苦しいサムソンに良く合っている。ガランチャは実にデリラだった。大神官のナウリという人もうまいものだ。3幕ではコロラトゥーラを転がす(2幕とはえらい違いだ)。
帰り、妻に頼まれて三越の地下に行き、フレデリックカッセルのミルフィーユ・ヴァニーユを買う。なんだそれ? と思ったら、メタモルフォーゼの縁側のシーンが送られてきた。
確かに食ってみたくはなる。そして食ったらうまかった。
メタモルフォーゼの縁側(1) (カドカワデジタルコミックス)(鶴谷 香央理)
値段といい、サイズといい、味といい、編集者の手土産としてすごい説得力。
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