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最初単なるSFX映画なんだろうと思ってスルーしていたのだが、ミュージカルだと知って子供と観に行った。
前回は似顔絵描きもやる煙突掃除人が天使だったが、今回はガス燈点燈夫(と呼ぶが、最初は消灯から始まるので、なるほど点燈夫は消燈夫でもあるのかと知った)が天使。
で、隣家の提督の大砲とかあまり好きではないし、前回と同じく子供はうざったくて、どうにもあまり気に食わないなぁとか観ていると灰色のロンドンを凧が徘徊しまくって、全然映画じゃねぇとうんざりしていて観ていたら、唐突に空が晴れて、なるほどこれをやりたかったのかと、ディズニー映画ではシンデレラの森の中の小太りの名付け親登場シーンをもしかしたら超えるほどの素晴らしい登場シーンで感動しまくった。すげぇ。これが登場シーンというもんだよ。辺りの空気が一変、これが難しいのだろう。実に素晴らしい。
で、前作と同じように、嫌がる子供(薬が風呂に変わった)の評価が変わり、不思議の国での冒険、反転世界での冒険、現実世界と子供の邂逅、親の開眼、天使たちの活躍、大団円とよどみなく進んで、楽しめた。
映画は良かったが、メタな部分ではいろいろやはり好きではない。
まず、全知全能の神が家庭教師として降臨するという設定である以上そこにけちをつけても意味ないのはわかっていても全知全能っぷりが気に食わない。おれは全知全能の神というのが大嫌いなのだ。
そこに目を瞑ればもちろん他に表現しようがないというくらい主演のエミリー・ブラントはまさにやれやれだのうんざりだのしょうがないわねだのがメリーポピンズ以外のなにものでもなく素晴らしいから映画としては文句ないのだけど。
天使を煙突掃除人からガス燈点燈夫に変えたのはなぜだか知らないが、おっさん集団が天使というのは、一昨日亡くなったブルーノのガンツ(アメリカの友人は好きだ)のベルリン・天使の詩と同期してしまっておもしろく思った。
しかし前回のバート(明白に人間存在ではないもの)と違って、今回のジャックはどうも天使のくせにバンクス家の長女と結婚しそうに見える。
ウェストエンドからイーストエンドへは、銀座から船橋へ行くぐらいに簡単なんだなという実情とか、少年時代のガス燈点燈夫は成年してもガス燈点燈夫だという英国階級社会の不愉快さと合わせて、どうにもおもしろくない。ジャックは楽しそうに仕事しているが、脚を骨折したり3日以上寝込めばとたんに失職して地獄に落ちるというのは、ちょうど読んだジャックのロンドン冒険実録で知っているわけだし。
バンクス家も知らずに築いた資産は帳消しになるわけだから、家だけは残るが、脱階級化して画家になれるのだろうか危うい。(子供は、あの家は隣家に提督がいる限り事故物件だから売れないだろうと言っていたが、確かにそうだ)
結局のところ、社会改良運動家の長女の未来も実に危うい。
とはいえ、ビッグベンでの天使たちの大奮闘はおもしろかったし、おちのつけかたも悪くない(思い出した。全知全能ではあっても、求めなければ与えないのだった。そこを忘れていたので、なぜはなからそうしなかったんだ? と観ているときは思わなくもなかったのだった)。脚本の練り込みも良いし、なんといっても暗い空が晴れた瞬間の美しさは何度思い出しても素晴らしい。
・もちろん子守歌のところの、特に2度めのあざとい演出は不愉快ながらも乗せられてしまうのだから映画としては悪くはない。しかし、真に感動的なのは登場シーンであることに変わりはない。
・ミュージカルとしては、一番の見せ場っぽい天使大集合で家に帰るところが、アップ多用で(そりゃ、据え置き長回しで撮れるわけがない画なのだが)、そこはやっぱり違うだろうという気分はある。
クレジットを見ていたら最後に、聞き覚えがない女性に捧げられていて誰だろう? と思ったがプロデューサーと同じ名字なので母親か妻か姉か妹か、もし妻なら内容とのシンクロがやはりあるのだろうかとかいろいろ考えてしまった。
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